魔法使いは何を唱う？ ー7つの音色ー

予言書の内容を知って、訓練に 力を入れるようになってから、早数日

今日は、天ちゃんが訓練に 戻ってくる日だった

天ちゃんの様子は、あの日……いや、 それ以前とも、ほとんど変わらない

僕が気になったのは、 天ちゃんの出自が書かれた部分

何故か、｢現世とは別世界から来た｣ みたいな書かれ方をされてたり、 他にも色々疑問点が多かったんだ

僕が詳しく教えると、 少し思い出す素振りをしてから、 ぽつぽつと話し出してくれた

……ん？　日本人なのに、 元から茶髪……？

今はまだしも、あの時代は 鎖国だったりで海外の血はほとんど 入らないだろうし、少し違和感が……

……前に予言書を読んだ時、 ふと脳裏によぎった可能性が、 再び浮かんでくる

“7つの音色”の、天ちゃんの部分に 書かれていた、“小さな世界”について

今も昔も、2人がいたのは同じ東京の はずなのに、そらるさんのところには “広大な世界”って書かれてることに、 どことなく違和感があった

なるせ君がいる長崎は“遠き地”って 表されてるから尚更、天ちゃんと そらるさんの表記の仕方が違うのが、 どうしてなのか気になってたけど……

前は流石にそんなわけないって思った けど……天ちゃんが家の人に拾われた なら、少し話が変わってくるような

ただの憶測でものを言うのは良くない

簡単に返事をして、話を切り上げた

じゃあ訓練するか、という うらたさんの声で、集まっていた みんなが散り散りに……

……なろうとしたところで、 ふと、天ちゃんがそう呟く

“やっぱり”って……？

天ちゃんは……自分でも気づいてる？

記憶が無くなる……？

そらるさんの言葉を聞いて、 途端に吃り始める天月君

突然表情を歪ませたと思ったら、 その場に膝をついて、うめきながら 苦しみ出す天ちゃん

急いでそばに駆け寄る……と、 苦しそうな荒い息遣いと共に、 小さくこんな言葉が聞こえてきた

直後、天ちゃんの姿が空間から消える

……みんなが混乱している中、 僕らには一つ、心当たりがあった

浄化したのは、僕もそらるさんも ちゃんと近くで見ていた

ただ、どうしてまた悪さを しているのか、そもそもあの存在の 正体すら分かってないけど……

確かにそれは、可能性として あり得るかもしれない

天ちゃんに闇が溜まらない 代わりに、残ってた闇が 力を取り戻してたとか……

記憶が無いって言ってたのも、 それが原因……？

〜翔太 side〜

座っていたソファに、 ドサリと体を倒れ込ませる

……また、魔法空間に 行けなくなってしまった

どうして“普通”に生きることは、 こんなにも難しいのか

今までに、死にたいと 思ったことは何度もあった

意味も無くずっと生き続けて、 結局何になるんだって

でも、救いを求めていたのも事実で

あの時……そらるさんとまふ君が 救ってくれた時、ここまで生きたのは 全部無駄じゃなかったって思えた

なのに……ようやく“人間らしく”、 生きて死ねると思ったのに、逆戻り

……本当は、全部気づいてる

今の自分がおかしい原因だけじゃない

自分が本当は何者なのかも、 あの闇の正体だって、全部

だけど、ずっと認めるのが怖くて、 知らないフリをしたくて