私は此の地の氏子総代の娘。
幼き頃より氏神様に仕え、氏神様を慕っている。
お社へ行くと氏神様であるお稲荷様が歓迎してくださる。
お稲荷様と言っても一般的に想像される 稲荷大社等では無い。
元は大きなお社で有ったが年々管理される事も無く廃れ、 此の小さな末社のみが残されたのである。 此は何も此処だけの話ではない。 お社が廃れる事は各地でよく有る事だ。
そんな私のお稲荷様との日常を
此処に書き記して行きたいと思う。
-人物紹介- 水無月 蘭/Minatsuki Ran 父-氏子総代 母-下女 氏神様-お稲荷様
-お社-
蘭
お稲荷様。蘭です。
蘭
酒を持って参りました。
狐が一匹現れる。
蘭
こんばんは。
顎の下を撫でると気持ち良さそうな顔をする。
蘭
お稲荷様の元へ持って行ってくれる?
「不要じゃ。妾が取りに来た。」
蘭
お稲荷様…?
お稲荷様
そうだ。
蘭
お初に御目にかかります。
蘭
氏子総代の娘である水無月蘭です。
お稲荷様
存じておるぞ。
お稲荷様
何も初めてでは無いだろう。
蘭
酒を持って参りました。
お稲荷様
おう。すまないのぅ。
お稲荷様
お主は如何して毎日の様に此処に足を運ぶのじゃ?
蘭
氏子総代である父が体を壊したので私がお稲荷様に仕えるべきだと判断致しました。
お稲荷様
そうかそうか。
お稲荷様
年端も行かない娘が此程迄の判断を出来るとは関心したぞ。
蘭
大変嬉しく思います。
お稲荷様
お主の母親は確か下女であったな?
蘭
はい。
お稲荷様
お主は何をしておる?
蘭
客引きをしております。
お稲荷様
成る程。そうか。
お稲荷様
お主、何か欲しい物は無いのか?
蘭
欲しい物、ですか?
お稲荷様
なんでも良いぞ。
お稲荷様
地位、名誉、金。何でも良い。
蘭
父と母が無理をして働かずとも多少裕福に生きられる程の金が欲しいです。
お稲荷様
良いな。欲望のままに生きる姿は愚かで美しい。
お稲荷様
成らばお主に授けよう。
お稲荷様
お主の両親が働かずとも生きて行ける程の金を。
蘭
…‼
お稲荷様
但し、条件が有る。
蘭
条件ですか。
お稲荷様
お主、妾の処へ嫁いで来い。
蘭
え…?