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~jealousy 4~

吉田

ふーん……柚月の方がすごいってか…

___僕はまた「無法地帯」に来ていた。

渡り廊下の中程で、吉田に言われるがまま僕は先程の陰口の内容を話していた。

自分のこんな みっともない姿を他人に、ましてや吉田に晒す日が来るとは…。

でも吉田なら、この持って行き場の無い気持ちを上手く昇華してくれるだろう…と期待する自分がいることは否めない。

吉田

いるよなー、予想してた人が1位じゃない=不正 とか考える奴

吉田

自分の推し以外はアンチ対象みたいな

吉田

オレも「ツブヤイター」とかでよく見るわ。
「誰それが1位じゃない!なんであんな奴が。不正だ贔屓だ皆もそう思うよね!」

吉田

馬鹿馬鹿しいよな。馬鹿馬鹿しいけど意外に蔓延(はびこ)ってて

吉田

________泣き見る奴もいるんだよな

そう言って吉田はどこか自嘲気味に微笑(わら)った_____

__ように感じた。 瞬きした時には、吉田はいつもの表情で僕の肩を叩いた。

吉田

まぁそんな馬鹿達が何言おうとお前が1位取ったことは変わんねぇよ。結局僻(ひが)んでんだからさ

吉田

篤の方がすげぇよ

三津屋 篤

……ありがとう

吉田

____じゃ、これあげる

吉田は着崩した制服のポケットから、個包装のチョコレート菓子(校則違反)を取り出すと、僕の掌に落とした。

吉田

またなんかアホなこと言われたら言えよ

チョコレート菓子は短いメッセージ付きの物だった。 ……全部計算済みなのだろうか。

吉田が人の上に立てる理由が少しだけ分かった気がした。

お前ら明日は 孝太の下駄箱前7時集合な

3年の教室棟の話題の9割は、下駄箱の惨状についてだった。

僕のポーカーフェイスも一瞬崩れるほど酷い有り様だった。 幼稚さと残虐性は紙一重だと思う。

教室に入っても話題は下駄箱一色だ。 営業モードを全開にして、好奇と嫌悪が半々のクラスメイトの相手をしながら自席に向かう。

__近くの席が騒がしい。 見れば吉田グループが勢揃いしていた。彼らが屯(たむろ)している席は___…

取り巻き

__あー来た来た、おせぇぞコラ

___彼らが屯している席は、鳴沢柚月の席だ。

登校して来た鳴沢柚月は彼らを見るなり、顔を強張らせて動きを止めた。

取り巻き

柚月入りまぁーす

取り巻き

イェーイ

吉田グループの端役2人が鳴沢柚月の腕を掴み、引きずるように教室内に連行する。

鳴沢柚月が連れて来られた場所は、どっちかと言うと僕の席の近くだった。 ……まさか僕も巻き込むつもりじゃないだろうな。

ちらり とボスである吉田を見やると、吉田は一瞬だけ含みのある笑みを寄越した。

取り巻き

なぁ柚月下駄箱見た?

取り巻き

カワイソーだよな孝太も。朝からあんな処理させられて。
お前はトモダチなのに助けてあげなくていいの?

取り巻き

あ、そっかお前ら最近ナカタガイしてんのか

鳴沢柚月は肩を震わせて俯いた。

僕を含め、教室内にいる人は全員見て見ぬフリを決め込む。 いつも間に割って入る人は今下駄箱処理の真っ最中だ。

取り巻き

確かにムカつくよな孝太。オレ達も昔からキライだったんだよね

端役の1人がちらりと吉田を見る。 傍にいた秀平が何かを放った。

端役がキャッチしたそれは___形もひしゃげた、給食の時に出る牛乳だった。 一体何日…いや何ヵ月前の物だろう。

取り巻き

たぶん3ヶ月くらい前の牛乳。信太郎がずっと持ってたんだけどさ

端役はニヤニヤ笑いながら牛乳の封を切った。 暖房の微風に乗って、鼻を刺す異臭が漂う。

取り巻き

……これ今から孝太のとこに持ってってよ

鳴沢 柚月

え……

端役が牛乳を鳴沢柚月の鼻先に突き出す。 鳴沢柚月の顔が歪んだ。

鳴沢 柚月

鳴沢 柚月

………い、いやです

鳴沢柚月は小さくかぶりを振るが……多勢に無勢だ。 取り巻き達は無理やり牛乳を握らせようとする。

取り巻き

まぁそー言わずに行って来いって

取り巻き

孝太に怒る権利ねぇから大丈夫だって

鳴沢 柚月

い…いや……

……何でもいいからこの異臭を何とかして欲しい。 どうして僕の近くで押し問答するのか___…

取り巻き

ほら しっかり持てって

鳴沢 柚月

いや…っ

牛乳の側面に。 鳴沢柚月の手の甲が当たった。

蓋の開いた牛乳は一度僕の机の角でバウンドし 足元で着地した。

机に一滴、白い雫。 少し足を動かすと、「びちゃっ」と音がした。

鼻を刺す強烈な異臭。 ………………何が起きた?

鳴沢 柚月

あ……ごめ…なさ……

テンション下がる、どころじゃない。 __ふざけんな、と思ったけど、この場では僕は優等生だ。

三津屋 篤

いや…大丈夫__

吉田

__あーあーあーー、

どうにか心にも無い言葉を捻り出した数秒後__ __今まで沈黙を守っていた吉田が口を開いた。

音がしそうなほど はっきりと、鳴沢柚月の肩が震えた。

吉田

誰が元生徒会長サンにかけろっつったよ

吉田は僕の肩に手を置くと、青い顔で震えている鳴沢柚月を見下ろした。

吉田

オレの「友達」に何してくれてんの?

今にも泣き出しそうな顔で鳴沢柚月が唇を噛んだ。

__僕の肩に、吉田の笑みを含んだ吐息が落ちる。 僕はやっと理解した。

__これは全部吉田のシナリオ通りだ。 わざわざ牛乳の封を切ったのも、僕の近くで押し問答させたのも、この状況に持って行く為の布石だ。

山崎孝太の下駄箱荒らしすらも布石。 本当のターゲットは鳴沢柚月……。

吉田

謝れよ柚月。わざとじゃなくても篤は被害被(こうむ)ってんだからさ

鳴沢 柚月

っ……

鳴沢 柚月

ご…ごめ………んなさ…

吉田

あぁーーーやっぱいいわ、ちょっと待って

吉田

謝るならアレにしよ。1年の時一緒に考えてあげたやつ

切れ切れの謝罪の言葉を容赦なく叩き折ると、 宝箱を開ける呪文でも唱えるかのように無邪気な声音で吉田は続けた。

鳴沢 柚月

……っ

吉田

ほら謝れよ。大きな声ではっきりと。
謝れってほら。早く。はーやーく

鳴沢 柚月

……っ………っき、汚い…

吉田

聞こえねぇよ、もっと大きい声で!
き…何?

鳴沢 柚月

ぅ………っ…

鳴沢柚月の目から とうとう涙が零れ落ちた。 肩を震わせて小さく しゃくりあげる様を見ても、吉田は攻撃の手を緩めない。

吉田

何でお前が泣いてんの?いい加減泣けば済むみたいな考えやめろよ

___教室内にいる他の人間は完全に背景と化していた。

僕も「いきなりの修羅場に戸惑ってる優等生」を装おっているが、 頭の中はクリアだった。

……鳴沢柚月が泣いてる。 いつも僕の上に名前を連ねる鳴沢柚月が。どうやっても超えられない高い壁だった鳴沢柚月が。

…泣いてる。 吉田を前にすると鳴沢柚月も弱くて脆い。敗者だ。負け犬だ。

吉田

ほら謝れよ。続きは?続き

吉田

早く言えって!

鳴沢 柚月

っ…………

鞭のような苛烈な声音に、鳴沢柚月の肩が一際大きく震えた。

鳴沢 柚月

っ…き……

嗚咽を溢しながら鳴沢柚月が再び口を動かし______…

山崎 孝太

__言わなくていいよ、そんなの

いつの間にか取り巻き達の後ろに山崎孝太が立っていた。

冬だと言うのに制服の袖を肘のあたりまで折っている。 取り巻き達が「えんがちょ」とか言いながら大袈裟に距離を開けた。

鳴沢柚月の目尻に新たな涙が溜まり、吉田が大きく息を吐いた。

吉田

……なぁお前には関係ねぇだろ

吉田は顔こそ笑っているが放たれる声は低く冷たい。 対する山崎孝太の眼差しも鋭く、温度は低い。

山崎 孝太

柚月はちゃんと謝ったし三津屋さんも「大丈夫」だって言った。
しゃしゃり出てるのは そっちだと思うけど

吉田

はっ
あんなクソみたいなゴメンナサイで済むなら警察も何も要らねぇよ

山崎孝太はそれには答えず、そっと鳴沢柚月の背中を押して移動するよう促す。 吉田も笑みを消した。

吉田

…生意気になったなお前

吉田

まだそんな正義の味方ごっこ やってんの?一体誰に触発されたんだよ

吉田

数学の西谷か?……それとも
体育祭の時にいた

吉田

関西弁の女の人?

山崎孝太の歩みが止まった。 その変化を吉田が見逃すはずもなく、頤(おとがい)に手を添えると小さく嗤った。

吉田

あの人、何?こんな関東圏のド真ん中で関西弁?キャラ作り?誰も何とも思わないわけ?

__一瞬、室内がざわついた。 取り巻き達の、頭の悪そうなニヤケ面も消え去った。

吉田の襟を掴む山崎孝太の手は微かに震えている。

吉田より5センチほど身長が低い山崎孝太は、見上げる形で吉田を睨み付けた。

山崎 孝太

……俺のことはどれだけ悪く言ってもいい

山崎 孝太

でも「その人」だけは、絶対に嗤わせない。
……「キャラ作り」って言ったの、取り消せよ

少々、いや かなり驚いた。

否。認めよう、怯んだ。 路傍の石だと思っていた彼から放たれる怒気に、僕は表情すら動かせなくなっている。

この人は本気で怒るとこんな感じなのか。 ____しかし。

山崎孝太の火炎のような怒気を前にしても、吉田は何ら動じた風ではなかった。

吉田

主人公気取りもここまで来ると病気だな

極低温で以(もっ)て山崎孝太を見下ろし、羽虫を払うように襟を掴む手を振り払った。

吉田

じゃあ話戻してやるけど、汚い物触った手で触んないでくれる?

汚い物を触った___とは、鳴沢柚月の背中を押したことを指しているのだろう。 鳴沢柚月が俯いた。

山崎 孝太

………柚月は汚くなんか

吉田

あーーごめん勘違いさせちゃった?

吉田

下駄箱処理した手でって意味だったんだけど。鳥の死骸とか触ったんだろ

吉田は大袈裟に手を払う真似をすると、可笑しそうに目を細めた。

吉田

……何で柚月出て来た?孝太の中では汚い=柚月なんだ

山崎 孝太

……っ

___あぁ駄目だ。

レベルが違う。何をしても倍の威力で返される。

僕にとっての脅威も吉田にとっては塵同然。 ___ならば僕は。

吉田にとって僕は。 何のことはない。先程はっきりと公言してくれた。

「トモダチ」だ。

「孝太の中では汚い=柚月なんだ」

「……っ」

「……」

「___あーあー、柚月ショック受けて出て行っちゃった」

「柚月っ___

「まだ話は終わってねぇよ孝太」

っ…放せっ…」

「最高だったぜ孝太。トドメ刺したのも しゃしゃり出て来たのもお前だったな」

「違う……違う俺は」

「中途半端なんだよお前は。昔も今も

物語の主人公ぶって反乱ごっこしてるけどさ

それで誰を幸せにしたわけ?」

宮原 聡志

聞いてる?

山崎 孝太

あ………すみません…

宮原 聡志

助けなんて来ないよ。
さぁ質問に答えて欲しい

朝の一幕。 不用意に柚月を傷つけてしまった俺に放った吉田の言葉。

頭の中にずっと居座り、何度も何度も再生されてしまう。 塾の帰りの今も大音量で再生されてしまったのは___

宮原 聡志

___柚月は学校で、いわゆる いじめにはあっていないだろうか

宮原 聡志

君に訊いたらいいと助言を頂いてね

今一番答えたくない問いに答えないといけないからだ。

山崎 孝太

…………

宮原 聡志

……………ハァ

宮原 聡志

宮原 聡志

柚月の母親に会ったことはあるだろうか。結構な顔立ちだろう。あいつが本気を出して飾り立てれば道行く人は誰もが振り返ったものだ

宮原 聡志

そんな女の息子だからな。柚月とあいつが一緒にいる時はよく言われたよ。「美形親子ですね」
___まぁ柚月は父親似なんだけどね

宮原 聡志

俺は宮原 聡志(さとし)。「宮原」は柚月の旧姓だ

宮原 聡志

さぁ納得出来ただろう、質問に答えてくれ。
あまり気が長い方じゃないんだ

山崎 孝太

……………

「助言を頂いた」。 きっと、いや絶対に吉田の入れ知恵だ。

全部 全部吉田の___。

宮原 聡志

どうした答えられないのか?君は柚月の「友達」なんだろう

山崎 孝太

っ………

抗えると思っていた。 もう傷つけないと思っていた。

山崎 孝太

………………

駄目だ。

また朝の一幕が再生される___

「それで誰を幸せにしたわけ?」

「……俺は…正しいことをしたかった…後悔しないように生きて……」

「だ、か、ら。 誰の為にもならないんなら結局それは自己満だろ?」

「っ…………俺、は」

「_______覚えてるか孝太。 お前が裏切ってくれた時も、こーやって牛乳が関わってたよな」

「……………」

「そん時もオレ言ったよな

女子大生と男子中学生が交際している話 シーズン2

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コメント

3

ユーザー

澪さんのために怒る孝太くんがかっこよすぎて…笑 なんか色々急展開で続きが楽しみです‼︎ 読むの遅くなってごめんなさい💦 これからも頑張ってください✨✨

ユーザー

今回はショッキングな画像が出て来たかと思います。彼の残虐性を表現したいと考えてのことです。 申し訳ございませんでした。 次回もサブタイトルは「吉田」です… 胸糞だけどお付き合い頂ければと思います。 読んでくださりありがとうございました❗

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