5年後
あれから5年。
俺と蘭葵は今も惺蘭様の元にいる。
だが、あいつは変わった。
あいつは、生珠を喰う時。
絶対に笑う。
生珠を喰えるのが嬉しいからじゃない。
そんな笑みじゃない。
何かが壊れそうな時に浮かべる笑み。
何かに耐えてるような笑み。
幸せそうな笑みじゃない。
どこか苦しそうな笑み。
蘭葵
何ぼぉっとしてる。
河炉
いや、なんでもない。
河炉
帰るか。
蘭葵
ッ...。
蘭葵
ニヤッ
河炉
ッ...?!
河炉
また笑みを浮かべた。(心)
河炉
今回も苦しみのような笑み(心)
蘭葵
ッ...なんだ?
河炉
え...?
蘭葵
俺の顔をずっと見てるから
河炉
あ、いや、その。
河炉
角!
河炉
それ、本物?
蘭葵
もう5年もたってそれ聞く?
河炉
え、あ、いや。
蘭葵
ふっ(笑)
河炉
え?
蘭葵
ははははっ(笑)
河炉
蘭葵...?
蘭葵
河炉、ちょっと変だよ(笑)
河炉
は、はははっ(笑)
河炉
なぁ。
河炉
何か、隠してるか?
蘭葵
ッ...。
蘭葵
なんで?
河炉
様子が変だし。
河炉
お前の部屋に行くと、なんだか獣の匂いがするし。
河炉
この間、屋敷に犬の毛が
落ちてた。
落ちてた。
蘭葵
やっぱ、バレたか。
河炉
どういうことだ。
蘭葵
もう、全部話す。
蘭葵
俺、悪魔でも、鬼でもない。
蘭葵
伏っていう、生き物なんだ。
河炉
伏?
蘭葵
人に化けた犬。
河炉
伏って、あの童話の。
蘭葵
そう。
河炉
ッ...。
河炉
なんで隠してたんだよ。
蘭葵
河炉には言いたくなかった。
蘭葵
それだけ。
河炉
ッ...。
ある日
蘭葵
ハァハァハァ...
悪魔
ヴゥ゙...
蘭葵
死んじまったら生珠喰えねぇじゃねぇかよ。(息荒)
蘭葵
ヴッ
端に座り込む
蘭葵
生珠...
蘭葵
喰わねぇと...。(息荒)
少女
お兄ちゃん、どうしたの?
蘭葵
ッ...。
少女
だいじょーぶ?
蘭葵
こんな夜中に何してる。
少女
おさんぽだよ!
蘭葵
夜は危ないから早くお家に帰んな。
少女
でも、くるしそうにしてるよ。
蘭葵
俺が怖くないのか?
少女
こわくないよ!
少女
お兄ちゃん、優しいもん!
蘭葵
そうか。
少女
お兄ちゃんのうでもふもふだね!
少女
わぁ、爪がすっごいとがってる!
蘭葵
怪我するなよ。
少女
うん!
蘭葵
ッ?!
蘭葵
ア゙ァ゙ッッ "!!
少女
どうしたの!
蘭葵
もう帰るんだ。
少女
やだ!かえらない!
少女
たすけてあげる!
蘭葵
今の君には無理だ。
少女
ならおっきくなったら助けてあげる!
蘭葵
早く帰るんだ。
少女
約束!
少女
ゆびきりげんまんするまでかえらない!
小さな少女の指と毛深い蘭葵の指がからむ
少女
でも、お兄ちゃん私の事
わかるかな。
わかるかな。
蘭葵
じゃあ。
ツ-
少女の首元に爪で傷を付ける
少女
痛い!
蘭葵
この傷を見たらきっと分かる。
少女
ほんと?
蘭葵
ほんとだよ。
少女
じゃあおっきくなった時また来るね!
蘭葵
嗚呼。
少女
お兄ちゃん、なまえなに?
蘭葵
蘭葵。
蘭葵
君は?
少女
麻里!
少女
またね!
蘭葵
麻里...。
雅玖
あの小娘は誰だ?
蘭葵
さっき知り合った子。
雅玖
人の子だったな。
雅玖
何故生珠を喰わなかった。
蘭葵
子供は喰わない。
雅玖
変な奴だな。
蘭葵
子供にはまだ、未来がある。
雅玖
じゃあ、次会った時はあの小娘の生珠を喰うのか?
蘭葵
ッ...。
蘭葵
黙れ。
立ち上がって歩く
蘭葵
あの娘には手を出すなよ。
蘭葵
もし出したらお前の生珠を喰うからな。
雅玖
鬼の生珠は伏にしか喰えない。
蘭葵
俺はその伏だから。
蘭葵
喰えるんだよ。
雅玖
そうだったな。