ファウル・ファイブ

　目を細めて通学路の方を見る。

　しかし待ち人の姿は現れない。

呼びだしておいて遅刻とは、いい度胸じゃないか

　昨日の夜、部員（ドレイ）一号から電話があった。

　早くも入部撤回の申し入れかと思ったが、真逆だった。

　ということで、回想入りまーす。

　意外な用件に間抜けな声が出た。

　バッシュ――バスケットシューズ。

　名が全てを物語っているので説明は必要ないだろうが、ザックリ言うとバスケ版体育館シューズだ。

　さっきと同じ声が出た。

　え、えーっと……、それって、

　電話口から、はあはあと荒い息遣いが聞こえてきた。全力で突っ込み過ぎだろう。

　美学を語られてしまった。ドン引きだわぁ……。

　それはいい申し出だ。

　船代はフェリーだと往復五千円。高速艇だと一万円近くかかるからな。

　妹への無料家庭教師（算数）は用事に含まないでいいだろう。

以上、回想終了。

　現在時刻は八時十五分。

普通十五分も遅刻するか？

　フェリー出航まであと三十分ほどだぞ。

　イライラする。

　待たされるのはあまり好きではない。吾蓮の顔を見たらぶん殴ってしまいそうだ。

……いや、待てよ？

　先刻自分で言った通り、船の出航時間が迫っているのに十五分も遅刻するなどあり得ない。

　ならば、何かあったと考えるのが自然だろう。

考えろ、姫歌……

　思考を巡らせるわたし。

　吾蓮の性格、性能、性癖、全てを考慮して予想を立てる。

　その結果、ある答えが頭に浮かんだ。

　それは、

　くそ、認めないつもりか。

　貴様が小学生とキャッキャウフフしていて遅刻したのはわかっているんだぞ。