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校門から約二十分。

 海沿いに歩いて行くと、ターミナルが見えてくる。

 わたしと吾蓮は、無事そこに辿り着いた。

相羽吾蓮(あいば あれん)

何とか間に合ったな

木崎姫歌(きさき ひめうた)

誰かさんが小学生に欲情していなければ、もっと早く辿り着けたがな

相羽吾蓮(あいば あれん)

まだ言うか

 とにもかくにもターミナルには辿りつけた。

 この島から本土に渡る公共機関は一つ。

 それがここ、ターミナルから出る船舶だ。

 他にも救急ヘリに乗るという方法があるが、それは余程のことがない限り叶わないだろう。試すには彼岸に限りなく近づく必要がある。

 ブオーッ……。

 沖から汽笛が聞こえてきた。

 港にフェリーが近付いてきた証だ。

 これから三時間、わたし達は船に揺られることになる。

木崎姫歌(きさき ひめうた)

ところで吾蓮

相羽吾蓮(あいば あれん)

何だ?

木崎姫歌(きさき ひめうた)

尊君は元気か?

相羽吾蓮(あいば あれん)

答える必要はねえな

木崎姫歌(きさき ひめうた)

む……

 世間話のつもりだったが、冷たくあしらわれてしまった。

 面白くないな。

 よし、

木崎姫歌(きさき ひめうた)

最近ウキウキしていなかったか? ソワソワしていなかったか?

相羽吾蓮(あいば あれん)

は?

木崎姫歌(きさき ひめうた)

何かを心待ちにしていなかったか?

相羽吾蓮(あいば あれん)

……何が言いたい?

 仕方ない。とばかりに会話を返してきた吾蓮。

 わたしはそこに向かって、剛速球を投げつけた。

木崎姫歌(きさき ひめうた)

尊君、今日はウチの妹とデートだぞ

相羽吾蓮(あいば あれん)

尊ぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいぃぃぃぃっ!

木崎姫歌(きさき ひめうた)

まあ待て

相羽吾蓮(あいば あれん)

ぐおぉっ……!?

 走り出そうとした吾蓮の襟首を掴み、瞬時に動きを封じた。

 首が締まって苦しいのか、吾蓮はジタバタともがきだす。

 ナイスリアクション。

木崎姫歌(きさき ひめうた)

嘘だけどな

相羽吾蓮(あいば あれん)

てめえ!

 白い目で睨んでくる吾蓮。

木崎姫歌(きさき ひめうた)

まあ、その内実現するけど

相羽吾蓮(あいば あれん)

何ぃぃぃいいいっ!?

 そして落胆&驚愕。忙しいやつだ。

木崎姫歌(きさき ひめうた)

……お、そろそろか?

 吾蓮から目を外すと、フェリーの接岸作業が始まっているのが見えた。

 岸に船体を寄せ、縄で係留。連絡路を船内に渡し、客の出入りを可能にする。

 暫くすると、その連絡路から数人が降りてきた。

 わたし達とは逆で、本土からこの島に渡ってきた人々だ。

 それが終わると、いよいよ乗船が始まる。

 客はわたし達の他には十人ほど。

木崎姫歌(きさき ひめうた)

よし、行くぞ吾蓮!

相羽吾蓮(あいば あれん)

お、おう……

木崎姫歌(きさき ひめうた)

……

 吾蓮はショックから立ち直れていない様子だ。

 ゾンビのようにのそのそと歩きだす。

木崎姫歌(きさき ひめうた)

キビキビ歩け!

 こちらでの停泊時間は短いのだ。

木崎姫歌(きさき ひめうた)

ほらっ

相羽吾蓮(あいば あれん)

うおっ!? って、バカっ、引っ張んな!

木崎姫歌(きさき ひめうた)

 何をうろたえている?

 急ぐぞ。

所長

お、ヒメちゃん、これからデートね?

木崎姫歌(きさき ひめうた)

お守りでーっす

 改札口で顔見知りの所長さんに軽く挨拶をし、船内に乗り込む。

ふむ、空いているな。

木崎姫歌(きさき ひめうた)

こっちだ

 そう言って、わたしは再度吾蓮の手を引いた。

 すると、

相羽吾蓮(あいば あれん)

わ、わかった! わかったっつの! だからいい加減離せって!

 何を真っ赤になって抗議しているのだろう?

 迷子の子供みたいで恥ずかしかったのだろうか?

 まあ、何だっていいか。わたしだっていつまでも手を引いているつもりはない。

 希望通り吾蓮から手を離し、客席の方へ足を向ける。

木崎姫歌(きさき ひめうた)

ふむ、ここがいいな

 丸々空いていた席があったので、靴を脱いで上がる。備え付けの棚から枕を二つ降ろすのも忘れない。

 わたしはそれを二つ並べ、吾蓮に言った。

木崎姫歌(きさき ひめうた)

よし、寝るか

相羽吾蓮(あいば あれん)

うえぇっ!?

 大声を上げる吾蓮。

木崎姫歌(きさき ひめうた)

? どうした、吾蓮? ほれ

 バンバンと自分の隣の床を叩く。

 ここに寝ろという意味で。

相羽吾蓮(あいば あれん)

……

 しかし吾蓮は固まっていた。顔を真っ赤にし、微動だにしない。

 ……何だ?

 吾蓮の様子を注意深く観察する。

 すると、

木崎姫歌(きさき ひめうた)

……ああ

 なるほど。そういうことか。

木崎姫歌(きさき ひめうた)

思春期だな

相羽吾蓮(あいば あれん)

うっ……!? ……他に言い方はねえのかよ?

木崎姫歌(きさき ひめうた)

ないだろ

 よくよく考えてみると、高校生の男女が(ほぼ)二人きりである。

 隣で寝るには問題があるか。

済まなかったな。欲望と理性の間で揺れ動く、青少年の微妙な葛藤を考慮してやれずに

相羽吾蓮(あいば あれん)

だから、もっと他に言い方はねえのかよ!?

木崎姫歌(きさき ひめうた)

しかし、フェリーでは詰めて寝転がるのが常識だ。まだ数回しか乗っていないから知らなかっただろうが、覚えておけよ、青少年

相羽吾蓮(あいば あれん)

青少年はマジでやめろ!

 ほう……なるほどねえ。

 弟LOVEだからといって、女子に興味がないわけではなさそうだな。

 これはからかいがいがある。

木崎姫歌(きさき ひめうた)

吾蓮

相羽吾蓮(あいば あれん)

な、何だよ?

木崎姫歌(きさき ひめうた)

寝ている間は、何をしても許してやろう

相羽吾蓮(あいば あれん)

なっ!? ……って、しねえよっ!

木崎姫歌(きさき ひめうた)

胸を揉んでもいいのだぞ?

相羽吾蓮(あいば あれん)

マジでか!? じゃねえっ! だからしねえっての!

 まあ、もちろん冗談だが。

 しかし気付いてみると、確かに二人きりというのは落ち着かない。

 と言うか……よくよく考えてみると、男子と二人きりでどこかに出かけるのは初めてではなかろうか?

木崎姫歌(きさき ひめうた)

むう……

 何と言うか、凄くデートっぽい。

 相手が変態というのは甚だ不本意だが。

 まあしかし、人生初のデート(?)である。

 そう考えると、何故か少しワクワクしてきた。

相羽吾蓮(あいば あれん)

木崎

木崎姫歌(きさき ひめうた)

っ! ん?

木崎姫歌(きさき ひめうた)

 ヤバい、一瞬心臓が跳ねた。

 他愛ない会話でも、何かが違う。

 まるでフィルターでもかかっているかのように、目の前の景色がキラキラして見える。

 おお、これが初デート。

 なかなかいいものではないか。

木崎姫歌(きさき ひめうた)

何だ、吾蓮?

相羽吾蓮(あいば あれん)

あ、あのさ……

木崎姫歌(きさき ひめうた)

? 何だ? 勿体ぶらずに言え

相羽吾蓮(あいば あれん)

ああ、それがさ……

木崎姫歌(きさき ひめうた)

うんうん

相羽吾蓮(あいば あれん)

酔った。マジで吐きそう……

木崎姫歌(きさき ひめうた)

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

 まあ、うん。

 初デートが必ずしも楽しいものとは、限らないよな。

ファウル・ファイブ

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