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俺は 暗黒シンジゲートの最後の拠点…
その、はるか上空にいた
透き通るような青空の下
風が鋭く吹き抜け 濡れた服の袖と髪を撫でる
冷たい風は乾いていて
長く続く雨の痕跡を 空に押し上げていくようだった
爽は少し離れた場所で じっと、俺の事を見守っていた
その背中から揺れる 黒いキツネのしっぽだけが
唯一 彼の“非人間”らしさを示していた
足元にある最後の拠点に向かって
ゆっくりと、魔法を発動した
禁忌魔法:焔葬ゲヘナ
─────その名は 神聖な“原初の炎”でありながら 神話の中でさえ、語る事を禁じられたもの
原初の炎は、かつて 髪が誓いを破った魂を断罪する為に 地上に放ったとされる、終焉の火柱だ
一瞬のうちに 地上は燃え上がる溶岩に覆われ 辺り一面が赤く揺らめいた
その熱は、肉体だけでなく 魂まで焼き尽くすような凄まじさだった
溶岩の中から 黒い骸骨たちが、姿を現す
彼らはかつて 「焔ノ神」に仕えていた神官たちの“怨霊” “滅びの日”に生贄にされた者たちの 無念の化身だった
怨霊たちは、地上の生者を 無情に溶岩へと引きずり込んでいく
地獄絵図のような光景の中で 俺は、ただ無表情に その一連の光景を見つめていた
全ての命が焼き尽くされ 引きずり込まれた後────
炎は、ふっと消え去り
まるで何事も無かったかのように 自然の風が草木を揺らした
俺はゆっくりと踵を返し 地上に舞い降りる
柔らかな陽光が肩を撫で
穏やかな風が髪と服を揺らす
────戦火の残骸からは、遠い
静かで平穏な景色に 胸が締め付けられるようだった
爽が 遠くから駆け寄ってきた
青い瞳が 静かな決意を称えて、俺を見つめる
その真っ直ぐな瞳に 俺は何度も、救われてきた
爽は俺に近づくなり 腕を回して、ぎゅっと抱き締めた
それだけで 疲労と心の痛みが
少しずつ、溶けていく
その言葉は柔らかく 優しさが溢れていた
だが、 その問いに胸が締め付けられ
重い感情が押し寄せる
“怯え” “不安”
そして、それでもどこかで “希望”を探している自分がいた
俺は爽の顔をじっと見つめて 言葉はなく、ただ頷いた
その瞬間 爽の表情がパッと明るくなり
俺の手を握って、力強く引く
まるで
暗い深淵から一瞬だけ抜け出せたような ほんの少しの、救いの光だった
俺たちは青空の下 静かにその家へと歩き出す
────でも まだ、終わりじゃない
心には消せぬ傷跡が残り続ける
俺は未だに、 過去に縛られているのかもしれない
それでも今は、俺の隣に爽がいる
それだけで 少しだけ勇気が湧いてきた
俺は、またここにいる
陽光が、静かに降り注ぐ
昼前の光は 優しく街並を包んでいるのに
……俺の心はざわついたままだ
手のひらは、じっとりと濡れている
握った拳に無意識に力がこもり
石のように固まった心臓が 内側からゆっくりと痛む
あの時の目が、風景が 今でも目の裏で焼き付いたままだ
…………………………怖い、
胸の奥に棲みついた“何か”が ずっと囁き続けてくる
「何も変わっていなかったらどうする?」 「また、誰かが消えてたらどうする?」
─────逃げたい
そう思ってしまう自分が ほんの一瞬、そこにいた
ふと、横を向けば 爽が真っ直ぐに、俺を見つめていた
その目は、どこまでも澄んでいて 迷いがなかった
「………そうか、」 「大丈夫、なんだ…」
理由なんて無かった
ただ、そう思えた
少しだけ力を緩めた手をそっと下ろし 足元に視線を落とす
石畳は、所々乾いていた
さっきまで降っていた雨が 全て洗い流してくれたんだろう
血の跡は────残っていなかった
ほんの少しだけ、胸の奥に安堵が灯る
「あぁ……良かった………、」と 言葉にならない息を吐いた
その隣で、爽が1歩前に出る
コン、コン、
木製の扉を、静かにノックした
しばらくの沈黙の後─────
キィ…と ゆっくり扉が開かれた