詩織
ねぇ、なんかあの男子ずっとこっち見てるんだけど

結月
……

泰一
(勢い余って中庭まで来たはいいけど……)

泰一
(何年も喋ってない女子にどう話しかけたらいいかわからん!)

詩織
あの人、何も上着来てないけど、寒くないのかな

ベンチに座る結月とその友達の詩織は、挙動不審の泰一を心配そうに見つめるのであった
泰一
(寒い、もう教室戻ろうかな)

詩織
すみませーん、そこの人〜

詩織
大丈夫ですか〜?

泰一
え、俺?

詩織
そう、君!

泰一
だ、大丈夫です

詩織
何か、うちらに用ですか?

泰一
あ、えっと……

雄馬
行け、その女子の気遣いを無駄にするな!

泰一
えっと……

結月
わたしに用があって来たんじゃないの?

泰一
あっ、えっと……

詩織
えっ、結月、あの人と知り合いなの?

結月
うん、幼馴染

詩織
えっ、幼馴染と同じ高校なの?

詩織
何それ、めっちゃエモいじゃん

詩織
早く教えてよ!

結月
ごめん、最近全然喋ってなかったから

結月
わたし、泰一にシカトされてるみたいで

泰一
シカトじゃないよ

結月との数年ぶりの会話に、泰一の心臓はバクバクと高鳴った
泰一
シカトしてた訳じゃないよ

結月
そう、嫌われたかと思ってた

結月
良かった

詩織
あっ、わたしジュース買ってくるわ

詩織
ついでにトイレも行ってくるから遅くなるかもだけど、気にしないで

詩織がそそくさと去っていく
中庭にいるのは、泰一と結月の2人だけになった
結月
詩織に気を遣わせちゃったみたい

泰一
いい友達だな

結月
うん

結月
隣、座れば

泰一
お、おう

泰一
何かいい匂いする

結月
ああ、香水

泰一
結月、香水なんて付けるの?

結月
違う、わたしのじゃない

結月
詩織の

泰一
ああ

泰一
(せっかく隣に座れたのに、何を話していいか……)

結月
ねぇ、用があって来たんじゃないの?

泰一
ああ、あのさ、杉の木が切られちゃうんだって

結月
杉の木?

泰一
覚えてねぇよな、あんな木のことなんか

泰一
ほら、俺と結月と洸と3人でさ、遊んでたじゃん

泰一
結月の父さんに、ブランコ作ってもらってさ

結月
覚えてるよ

結月
杉の木公園のあの木でしょ?

泰一
そう、それ!

結月
あの木が切られちゃうの?

泰一
うん、そうらしいんだ

結月
へぇ、寂しいね

泰一
おう

結月
それで急に話しかけてきたんだ?

結月
ねぇ、なんでわたしのこと避けてたの?

結月
洸ちゃんのこと気にしてた?

泰一
えっと……

結月
図星でしょ

結月
隠さなくていいのに

泰一
ごめん

結月
洸ちゃん俳優として活躍してて、すごい人気だよね

結月
わたし達と遊んでいたのが嘘みたい

泰一
嘘じゃないよ

泰一
俺達あんなに仲良かったじゃん

結月
うん、すごく仲良かったよね

結月
中学生までは……

結月
わたしが洸ちゃんを好きになっちゃったせいで、3人バラバラになっちゃったよね

泰一
結月のせいじゃないよ

結月
人気俳優の洸ちゃんに女の影があったら迷惑

結月
だから、わたしは距離を置くことにしたの

結月
泰一までわたしの真似して距離を置くことないのにさ

泰一
あのさ、杉の木買収しない?

結月
買収?

泰一
そう、杉の木を買収して、切られないようにするの

泰一
俺達の思い出の木じゃん

結月
はぁ、わたし達にそんなお金ないでしょ?

結月
受験控えてるっていうのに、そんな暇なくない?

泰一
そうだけど……

結月
ごめん、わたし行きたい大学あるから今は無理

結月
泰一の気まぐれに付き合ってる暇ないよ
