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────私の名前は、麗美。
…………いや、違う。
失うものが、もう何もない──
────ただの、“レミ”だ。
……分かっていた、ことだった。
このランドールという世界において、異世界の住人である私など。
異分子である私など。
受け入れられるわけが無いと。
──そう、分かっていた、はずなのに。
レミ
レミ
レミ
気付いたら、口が勝手に動いていた。
レミ
レミ
レミ
レミ
レミ
レミ
レミ
レミ
レミ
レミ
レミ
──最期の言葉は聞こえるかな。
承諾、してくれるかな。
恐れるな、自分。
淡い期待も大きな不安も全部全部この言葉に詰め込んでしまえ。
レミ
クロトは何か考え込んでいるようだった。
永遠のように思える、数秒が流れた。
クロト
クロト
……その答えは、予想していた。
分かっていた。
なのにどうして、こんなにも涙が流れてくるのだろうか。
どうして、思うように笑えないのか。
レミ
恥ずかしい。みっともない。
これじゃあただの──子供じゃないか。
クロト
分かってる……分かってるっ!
だから何回も言わないで。言葉にしないで。
拒絶しないでよ……!
レミ
──今のは、クロトが悪い。
こちらの機微を全く読み取れていないじゃないか。
クロト
クロトは泣きじゃくる私を見て、数秒の間電源の切れた機械みたいに固まっていたのだが、何を思ったのか急に指をぱちんと鳴らす。
すると、何も無かった場所に揺りかごが現れた。
…………え、何してるんだろう。
────って。
レミ
クロト
いやいや、いやいやいやいや!
なんでクロト、私をお姫様抱っこと世間では呼ばれている抱え方してるの!?
レミ
クロト
クロトは暴れる私の足を押さえて、揺りかごの中に入れた。
……はい?
私、赤ちゃんじゃないんですけど……?
私の混乱をよそに、クロトは揺りかごを片手で揺らしながら歌い出した。
歌い出した、のはいいんだけど……。
……もしかして。
歌が終盤に差し掛かった時、私はこの状況とクロトの歌で混乱している頭を使い考え至った。
あのぉ……クロトさん?
顔も怪盗業も超一流で、『なんでもできます』っていう顔して……。
音痴……だったんですか?
クロト
クロト
そう言ってクロトは私の顔を覗き込んできた。
そのまま目を合わせるのもなんだか気まずいので、とりあえず不満を口にする。
レミ
クロト
レミ
……このイケメンめぇ。
気に食わなかったので、私は数発クロトの腹に決め込んだ。
私の渾身の腹パンをもろに受けたクロトは、どこか複雑そうな表情をしている。
私の腹パンを受けて立っていられるとは………流石怪盗。
クロト
クロト
クロト
……『俺が悪い』?
クロトは一体、何を謝っているのだろう。
私が不思議そうな表情をしていたからか、クロトは何かに気付いたようで。
クロト
クロト
レミ
理解できなっかたので、私は何の迷いもなく頷いた。
少なくとも、クロトに過失はないでしょう?
クロト
クロトはそう疲れたように呟いて、壊れた機械人形のように首をガクンと真横に傾けた。
────この後お互いの誤解を解くのに長い時間を要したのは言うまでもない。
クロト
レミ
クロト
レミ
レミ
クロト
レミ
レミ
クロト
レミ
クロト
クロト
レミ
私とクロトの事情を互いに理解するために、互いの事情を紙に書いていった。
……ここまでは良いよね、目に見える形にするのって大切なことだもの。
ただ、そこからが難題だった
予想以上にクロトの情報処理能力がお粗末すぎた。
怪盗をしている時はそんなことないし、決して頭が悪いってわけじゃなさそうなんだけど……。
もういいや。
レミ
レミ
うんうん、と一人うなずく私。
クロト
……キリッとした顔で言わなくてもいいと思うなぁ、その台詞。
私がそう言い返そうとしたその瞬間。
バンといきなり扉が開いた
ディテフ
ディテフ
ディテフ
ディテフ
ユリ
ユリ
ラン
ラン
ラン
ラン
ラン
ラン
ラン
ラン
ユリ
ディテフ
ディテフ
これ見よがしに大きなため息をつくディテフさん。
こちらの視線に気付いたのか小さく手を振っている。
……気付かれている自覚あるのかな。
ディテフ
そんなこと宣言しないで下さい。
ディテフ
ディテフ
……『あんなこと』とか『そんなこと』とは一体?
どんな凄まじい想像をしたのか、隣でクロトがブルブルと震え──
────ブチっと、彼のの堪忍袋が切れる音がした。
クロト
おぉ……!
珍しい、クロトがマジギレ寸前だ。
私と出会ってから怒っている所なんて見たことないのに。
ディテフさん、凄い……!
私はディテフさんを尊敬の眼差しで見つめた。
ディテフ
ディテフ
胸をそらすディテフさんに、私は心からの賛辞を送る。
レミ
レミ
レミ
ディテフさんが硬直した。
ディテフ
ディテフ
……彼のこの言葉に、プッと吹き出す者あり。
誰だろうか、と私が後ろを振り向くと、ラン君がお腹を抱え、必死に笑いをこらえていた。
……よく見ると、ラン君の隣にいるユリちゃんもプルプルと震えている。
ディテフさんの言葉がそんなに面白かったのだろうか?
うーん……。
文化の違いというものなのかな?
そうクロトに尋ねてみると……何を言ってるんだお前、という目をされた。
なんと言うべきか……うーん……。
傷つく。
クロト
クロト
ユリ
ラン
そう言って二人は両手に持っている風船とクラッカーを、ズイッと私達に見せる。
絵面は可愛いんだけど……なぜ無表情。
君たちさっきまで笑ってたよね?
ディテフ
ディテフ
ディテフさん、言い直したってバレてますから。
というかディテフさんって、こんな人だったっけ。
私が地球に行く前はもっと真面目だったはず……。
……あ。
クロトがディテフさんをジトーっとした目で見だしたぞ。
ディテフさんはそれに笑顔で応戦しようとしていたけれど、だんだん冷や汗をかいている。
クロトって顔芸が上手いのかな?
ディテフ
ディテフ
ディテフさん、クロトの視線に耐えられなくなったみたい。
露骨に話題転換。
ディテフ
あ、止めてください私を巻き込まないで!
そんな心の声も虚しく、ディテフさんは私の腕をガッチリと掴んだ。
ディテフ
ディテフ
レミ
ディテフ
ディテフ
ディテフさんの言葉に、ハッとする。
思わず、クロト、ユリちゃん、ラン君を見回した。
クロトはプイッとそっぽを向いた。
ユリちゃんは視線を下に落とし、自分の人差し指同士をつついて、
ラン君はクラッカーを構えた。
…………あぁ、そうか。
皆、私を励まそうとしていたの?
元気がないように、見えたから?
……それなら、私は。
レミ
レミ
誰にも心配をかけないよう、笑いたい。
強く、なりたいよ。
────たとえそれが、嘘だったとしても。
もう、構わない。
だって私には、失うものが何もないから。
だからこそ、どれだけ悲しんでいたとしても、笑わなきゃ。
それ以外に、能のない私だから。
クロト
クロト
レミ
レミ
私はご飯を食べる前に、クロトに伝えたいことがあるのだ。
レミ
レミ
クロト
クロトは片目を閉じて、促す。
だから私は安心して、告げられる。
レミ
クロト
クロト
クロト
前言撤回。人が一生懸命考えた名前を『よく分からない』なんて失礼だ。
────ディアリー。
それはとある世界のとある文字で、「dearly」と綴る。
意味は、「心から」。
────心から、ありがとう皆。
心から、ありがとうクロト。
私に居場所を与えてくれて。
そんな感謝の意を名前に付けて。
『私』は、始まった。