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―試練其の弐拾陸

銀故幻木の種を見つけ出し、植えてください―

いよいよ明日がお祭りという ところまで来た。

明日ここで祭りが行われるのだと思うと、 わくわくして眠れない日が多く続いた。

けれど、試練の内容に書かれて いるものは。

咲蓮

だんだん、見つけるのが
難しくなってきたんだよね…

咲蓮

まぁ、今日も探すか

昼の陽射しが穏やかに降り注ぎ、 風が一面の草を揺らしていた。

広がる原っぱには小さな花々が咲き誇り、 蜂や蝶が舞っている。

足元の植物はどれも見慣れたもの ばかりで、特別なものはなかなか 見つからない。

咲蓮

うーん、どこだろ…

咲蓮

あ、あれ!

咲蓮

は、丁字草だった…

咲蓮

種なんて小さすぎるから、
すぐ見つかるわけ
ないよね〜

ふと、少し先に目を引く花があった。

他の花よりも背が高く、白銀に光る 花びらを持つ。風が吹くたび、まるで霧を まとっているように儚く揺れていた。

咲蓮

わぁ…この花、綺麗!

そっと近づき、花の中心を覗き込む。 そこには小さな実がなっており、 指で触れるとぽとりと落ちた。

実は軽く弾け、その中から小さな種が 現れた。まるで月の雫を閉じ込めた ような、淡い銀色を帯びている。

咲蓮

これって、もしかして!

看板へと戻ると、そこにはすでに小さく 掘られた穴があった。

咲蓮

植えるところは―
ここでいいかな

手のひらの種をそっと穴の中に落とし、 指先で土をかぶせる。

咲蓮

よいしょ…っと

咲蓮

よし、これで―

迎え犬の少女

え?

不意に背後から声がしたので、 驚いて振り向いた。

迎え犬の少女

うそ、送り犬!?

咲蓮

そこには、一人の少女が立っていた。

柔らかな耳。

ふわりと揺れる尻尾。

そして、迎え犬特有の一色に染まった髪。

彼女の瞳に敵意はない。

むしろ、純粋な興味と親しげな 雰囲気が滲んでいる。

迎え犬の少女

ねぇ、あなたここで
何してるの?

迎え犬の少女

よかったら少し話そう?

一瞬迷ったけれど、彼女の雰囲気に 少しだけ肩の力を抜いた。

そして、彼女の方へと歩んでいく。

そのとき。

風がざわめき、向こうに黒い影が現れ、 私たちのもとへと迫ってきた。

背筋が冷たくなる。

迎え犬の少女

あ、あれって―

咲蓮

っあぶない!

ドンッ!

私たちを襲ってきたのは、紛れもなく 化け狼だった。

あの日の惨劇が蘇る。

迎え犬の少女

あ、ありがとう…

咲蓮

逃げて!

迎え犬の少女

え!?で、でも―

咲蓮

早くっ!!

迎え犬の少女

っ…ごめんね!

彼女が向こうへ駆けていくのを確認する。

ふと後ろに気配を感じて振り向くと、 化け狼は知らぬ間に私の背後まで 来ていた。

鋭い爪が風を切り裂くように 振り下ろされる。

しかし次の瞬間―

空気が切り裂かれるような音が轟いた。

鮮やかな紫色の影が目の前を横切る。

獣の姿になった兄だった。

小萩

咲蓮!

小萩

乗れっ!

咲蓮

!あっ…

体がふわりと浮くような感覚。

風が顔をうち、視界が一気に流れていく。

兄は疾風のごとく天渡の丘を走り抜け、 新月の里へとまっすぐに駆けてゆく。

化け狼が追ってこないのを確認し、 しっかりと兄の背にしがみついた。

家に戻ったころには、空にはすでに星が ひとつふたつ浮かんでいた。

疲れた体のまま夕食を終え、 入浴を済ませ、居間にあった小説を 読んでいたとき。

兄が唐突に口を開いた。

小萩

―咲蓮。
明日の祭りには
決して行くな

一瞬、頭が真っ白になった。

咲蓮

な、なんで?

私の口から出た言葉は、震えていた。

咲蓮

せっかく、今日まで
頑張って準備したのに―

小萩

行くな

咲蓮

理由を教えてよ

小萩

お前が行くべき
場所じゃない

咲蓮

そんなの、
納得できないよ!

声を荒げた私に、兄の目が鋭く光った。

小萩

行くなと言った

その声音には、普段とは違う冷たい 圧力があった。

思わず息を呑む。

咲蓮

…どうしてそんなに…

小萩

お前は、まだ―

そこまで喋って、兄は口をつぐんだ。

その目はどこまでも真剣で、強く、 揺るぎなかった。

威圧に耐えられず、読んでいた本を 閉じて居間をあとにした。

自分の部屋へ駆け込み、枕に顔を埋める。

悔しさと悲しさが混ざり、 涙が頬を伝った。

鼻がつんと痛み、喉の奥が苦しくなる。

ゆっくりと目を閉じる。

胸の奥にざわざわとするものを 抱えながら、その夜、 静かに涙を流し続けた。

𝓉ℴ 𝒷ℯ 𝒸ℴ𝓃𝓉𝒾𝓃𝓊ℯ𝒹

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