放課後
山野英真
山野英真
英真の言葉どおり、理科棟の階段は二人並んで上がるには手狭で
ほとんど用を成していないような照明がぼんやりと灯っているだけだった
一人で昇るにはなんとなく寒心を誘われそうな雰囲気だが
五人も、しかも話しながらという状況ではそれもない
これで本当にいいのだろうかと疑わしげな英真に気づいたのか
久留間がケラケラと笑い飛ばした
久留間悟
久留間悟
渋谷大
鬼王篁
本田芙蓉
山野英真
久留間悟
それでも、久留間は気楽な態度は崩さない
若干呆れながらも、最上階である準備室に到着した面々は
渋谷がシリンダー錠を手早くピッキングするのを複雑な面持ちで見つめた
山野英真
渋谷大
渋谷大
渋谷大
渋谷大
渋谷大
鬼王篁
山野英真
渋谷大
渋谷大
久留間悟
渋谷大
本田芙蓉
本田芙蓉
本田芙蓉
本田芙蓉
本田芙蓉
本田の枯れ木のような指が、力を込めて扉を開く
重々しい金属扉が軋むと、中からは鬱屈としたカビの臭いが噴出した
その中にかすかに、怖気が混じる
山野英真
渋谷大
渋谷大
思わず足を止めた英真の肩を叩き、渋谷が先行する
その先で開かれたのは、ほとんど明かりも見えない階段への扉だった
鬼王篁
久留間悟
久留間悟
久留間悟
渋谷大
渋谷大
階段を上がる足が重い
一段上がるだけで、なんとなく呼吸が上がるような思いだ
たった一つ、狭い踊り場をはさむだけの短い階段
にもかかわらず息が詰まるような感覚に、英真は唇を噛んだ
山野英真
見上げた先は、文字で真っ黒に埋め尽くされていた
久留間悟
山野英真
久留間悟
久留間悟
やがて、屋上へ続く扉の前に出る
渋谷大
鬼王篁
鬼王篁
本田芙蓉
鬼王篁
山野英真
山野英真
英真が指したのは、屋上へ続く扉のすぐ脇だった
途端、文字の群集が噴出するように大きく湧き上がる
山野英真
それは威嚇するように全員の前をかすめ、屋上への扉を突き破った
渋谷大
久留間悟
猛然と逃走しようとするそのモヤの先に、呪符が投げられる
それはまるで空中に壁があるかの如く貼り付き、モヤの行く手を阻んだ
その躊躇の間にも、周囲に何枚もの札が張り巡らされ
やがて屋上は、壁に覆われた室内のように区切られた
山野英真
久留間悟
鬼王篁
鬼王篁
鬼王篁
瞬間、モヤは塊を成して襲いかかる
山野英真
慌てて扉の内側に滑り込み、その衝撃をかわす
しかしどうにか呪符結界を破ろうと暴れ回るそれに対し
英真ができることなどなにもなく、ただ焦燥感だけが胸を占めた
その時、同じく壁に貼り付いて攻撃をやり過ごしている久留間が口を開く
久留間悟
久留間悟
山野英真
メガネの奥の瞳は、わずかに笑んで応えを待つ
それは明らかに、熟考した回答を待つものだった
困惑し、視線をそらし、押し黙る
しかしやがて壊れた扉から屋上を覗き見た英真は、戸惑い気味に声を絞った
山野英真
久留間悟
山野英真
山野英真
山野英真
山野英真
久留間悟
久留間悟
山野英真
山野英真
久留間悟
久留間悟
英真の言葉の終わりを待たず、刺すような声が飛ぶ
そのあまりの内容に英真は衝撃を受けた表情を見せたものの
屋上でモヤに包まれる渋谷と篁はむしろ、指標に向けて呼吸を整えた様子だった
渋谷大
渋谷大
鬼王篁
鬼王篁
鬼王篁
鬼王篁
渋谷大
久留間悟
あまりに理屈の通らない会話を揶揄する言葉に、思わず英真から苦笑が漏れる
しかし直後、屋上が重いなにかで揺れたことで、金棒が現れたのを感じた
山野英真
山野英真
久留間悟
久留間悟
山野英真
久留間悟
にんまりと笑んだ久留間に首を傾げつつ、身を隠したままふたりを見る
すでに篁は鬼化しており、咆吼しながら金棒を振るって風を起こし
意図しているのか、それともただの偶然なのか
渦巻く文字たちを巻き上げては一箇所に渦巻くつむじ風のようにまとめ
ある程度黒々と塊になったところを、渋谷が叩きつぶすという連携を見せていた
山野英真
久留間悟
久留間悟
久留間悟
久留間悟
山野英真
久留間悟
ウインクに不思議そうに首を傾ぎ、ふと、一人この場にいないことに気づく
山野英真
久留間悟
久留間悟
久留間悟
瞬間、鋭い声が迸った
本田芙蓉
悲壮な声色に、何事かと慌てて屋上へと飛び出す
黒いモヤはまだその多くが屋上を覆っている
だからこそ、塊となりつつあるそれが屋上を隔絶する呪符を隠したのか
渋谷の足もとは、すでに屋上のへりから一歩踏み出してしまっていた
渋谷大
久留間悟
山野英真
それはとっさに出た一言だった
落下しそうな渋谷ではなく、篁の名を叫ぶ
しかしそれに、篁の中の鬼が機敏に反応した
特に指示されたわけもなくコンクリート床を蹴り、落下していく渋谷へ向かう
しかしその手が呆気なく落下していくのを目にすると同時に
篁は握りしめた見えない金棒を力の限り振り上げ、次の瞬間
金魚すくいのように、渋谷を上空に跳ね上げていた
渋谷大
思わず、呆気にとられた声が落ちる
そんな渋谷、そして篁に向かって、残っていた黒いモヤがじわりと形を変えた
たった一瞬、すべての文字から殺意が溢れ、黒からドス黒い赤に染まる
山野英真
鬼王篁
英真を振り返りもせず、見透かしたように檄が刺す
そんな篁と渋谷を、モヤが包み込むように襲いかかった
鬼王篁
渋谷大
呼応し、中空から落ちる渋谷は、両腕を広げたまま屋上に飛び降りる
二人の体は、木の葉型の薄刃が飛びかかったように切り刻まれていた
が
渋谷大
渋谷大
鬼王篁
鬼王篁
渋谷大
渋谷の右手には、圧縮された両腕一杯分のモヤが
そして篁の足もとには、一纏めに叩き落とされたモヤの残骸が燻っていた
久留間悟
ぼそっと呟かれた声は二人に届かない
鬼王篁
渋谷大
渋谷大
言いながら、振りかぶる
それが渋谷の指先から放たれた途端、篁の手に握られた金棒が引き寄せられる
まるで正しく、野球中継でも見ているようなスローモーションのあと――
それは、風船がはじけ飛ぶ音に似た衝撃を残し、屋上に霧散した
コメント
4件
わ、かっこいい...! 井之上さんの書かれるバトルシーン大好きです!!! 途中に挟まれた渋谷さんと篁君の会話も面白かったです!w 次回いよいよ決着ですね...! 改めて英真君が特別な能力を持っているんだなぁと今回の連携(?)を見て思いました!
長い獲物での殺陣、そして野球のような演出、とても見応えがありました!