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桜城優衣🌸
323
医者
それが、冷徹な白い部屋で医者から告げられた、私の呪いの名前だった
セリーナ
母親はショックのあまり、開いた口が塞がっていなかった
父親は、一言も喋らず、ただ、残念そうな表情を浮かべるだけだった
生まれつき、骨が極端に脆い私にとって、外の世界で元気に走り回ることなど、おとぎ話の世界よりも遠い夢だった
普通に歩くことすら叶わず、冷たい歩行器の力を借りて、車輪を軋ませることしかできなかった
身長は伸びることなく、116cmで成長の時計は止まってしまった
母親
父親
セリーナ
両親はいつも、微笑みながら私に手を貸していた
しかし、私は知っていた
笑顔の仮面の裏側で、私を「面倒なお荷物」として疎んでいることを
子供の敏感さで予想できないはずがなかった
彼らの優しさは、ただの義務感と、世間体を保つための自己満足に過ぎなかった
そんな冷え切った家族の中で、妹のフローラだけは違った
フローラは、私と違って健康体で、いつも元気で外を走り回る、太陽のような子だった
何不自由なく動く健やかな足を持ち、両親の愛を一身に受けていた
当然のように、親戚や周囲は姉妹を比べ続けた
しかし、フローラは親の笑顔の仮面につられることなく、比較される度に私を庇ってくれていた
フローラ
母親
フローラ
フローラの言葉には、一滴の悪意も、哀れみもなかった
本当の光のように、眩しい存在だった
だからこそ、それが唯一の救いともなるし、同時に苦しいものでもあった
どうしてかわからない でも、苦しかった
フローラ
フローラは外で元気いっぱいに遊んできた手で、無邪気に私に触れようとした
しかし…
セリーナ
私はフローラの触れようとしてきた手を拒んでしまった
骨が脆い私は、「折れてしまう恐怖」が脳裏をよぎっていたのだ
後から後悔で胸がいっぱいになったが、拒絶せざるを得なかった
フローラ
セリーナ
フローラは、あからさまにしょんぼりとした顔をした
フローラも、段々私の目の前では、手を引っ込めるようになった
フローラのことが嫌いなわけではない
むしろ好きだ
それなのに、決して触れ合えない その絶対的な距離が、私の心に底なしの寂しさを積もらせていく
いつしか、私は両親と同じ食卓を囲むことすら許されなくなった
それからは、暗い自室で一人、冷えた食事を摂るようになった
セリーナ
考えるたびに、ただでさえない食欲が、どんどん失せていく
ドアの隙間から、楽しそうに食卓を囲む両親とフローラの姿が見える
フローラは満面の笑みを浮かべながら、笑っていた
あんなに純粋に自分を愛してくれるフローラに対して、 ドス黒い負の感情が湧き上がるのを止められなかった
セリーナ
セリーナ
セリーナ
セリーナ
そしてすぐに、自分を本気で想ってくれる唯一の存在にすら嫉妬してしまう、 醜い自分が嫌で嫌でたまらなくなるのだ
両親は偽善者として憎めばよかった
けれど、純粋なフローラを憎む自分は、両親よりも酷い、本当の化け物なのではないか?
セリーナ
それは、両親やフローラに向けたものではなかった 私自身に対する言葉だった
光のような存在のフローラに対するこの気持ちの名前を、 私はまだ知らなかった
それは、酷く寝付けない、冷たい雨の夜のことだった
喉の渇きを覚え、歩行器を軋ませないように細心の注意を払いながら、 私は部屋のドアを薄く開けた
階下から、両親のひそひそ話す声が聞こえてきたからだ
母親
母親
父親
父親
母親
私は息を止めた
頭の芯が、凍りついたように冷たくなっていく
施設
それは、両親がようやく「良い親の仮面」を脱ぎ捨てて、 自分を合法的に捨てる場所を見つけたという合図だった
あまりにも強いショックを受けて、私は涙すら出なかった
ただ、胸の奥で何かがパリン、と割れて、粉々に崩れ落ちた音がした
セリーナ
セリーナ
セリーナ
セリーナ
深い絶望感が、私の頭を真っ黒に染めていった
私はその夜、両親が寝静まったのを見計らい、小さな身体をコートに包んだ
玄関へ向かう途中、どうしても一箇所だけ、素通りできない部屋があった
それは、フローラの部屋だった
薄く開いたドアの隙間から、月明かりが差し込んでいる
私は思わず、歩行器を止めた
フローラ
ベッドの中では、フローラが不自由なくどこへでも行ける健やかな足を投げ出して、 すやすやと眠っている
その幸せそうな寝顔を見て、私の胸の奥は罪悪感でいっぱいだった
セリーナ
セリーナは、眠る妹に向けて、心の中でそっと手を伸ばした
しかし、その手がフローラの肌に届くことは、なかった
セリーナ
セリーナ
もしこのまま施設に送られれば、私は完全にフローラの未来を濁す「お荷物」になる
それは、私のプライドが、そして何よりフローラを愛する心が、絶対に許さなかった
セリーナ
セリーナ
かすかな呟きを残し、私は二度と振り返らないと決めて、妹の部屋に背を向けた
歩行器の手すりを握る指先が、怒りと悲しみ、そして決意で白く震える
両親の本音を聞いた時には涙が出なかった
それなのに、フローラと別れることを実感した私の目からは、
セリーナ
涙がこぼれ落ちていた
私はフローラに聞こえないように、なるべく口を抑えていた
冷たい雨が降る夜の街へと、静かに、しかし確実に踏み出した小さな足跡
冷たい金属の歩行器の音を鳴らしながら、私はひたすら不器用に歩く
セリーナ
セリーナ
私はその場でキョロキョロしていると、不思議なものを見つけた
セリーナ
そう、それは、怪しくて古びたテントだった
私は内なる好奇心に負けてしまい、そのテントへ入ってしまった
テントの中は、思っていたより綺麗だった
私な何も喋らずに、歩行器の車輪を軋ませていた
ヴィクター
セリーナ
フローラ以外の人に、そんな言葉を言われたのは、初めてだった
振り返ると、そこにはシルクハットをかぶった紳士的な男性がいた
セリーナ
ヴィクター
ヴィクター
まだ名乗っていなはずなのに、私の名前を呼ばれた
しかし、なんだか怖かったので、私はあえて、そのことに対して何も言わなかった
私はそのまま、自分の胸に秘めていた願いを、そのまま言った
セリーナ
セリーナ
そんなこと言ったって、どうにもならないことはわかっていた
ヴィクター
しかし、ヴィクターは、指を鳴らした
その瞬間、私は猛烈な眠気に襲われ、その場で寝てしまっていた
強い光が差し、私は目を覚ました
恐る恐る目を開けてみると、私の体に変化があった
セリーナ
文字通り、私は透明なガラスの体を手にしていた
少し体が透けており、薄らと内臓が見えていた
セリーナ
私はベッドから起きて、恐る恐る歩こうとした
すると、普通の人間のようの歩くことができて、歩行器なんか必要なかった
セリーナ
更に身長は158cmと、以前よりも高くなっており、私は完全に舞い上がっていた
すると、そこにヴィクターが現れる
ヴィクター
セリーナ
ガラスの体を手にしてからは、窮屈な思いをしなくなった
眩しい光によって、苦しむこともなかった
比較されることもなかった
あれから数年が経った頃、フリークショーの元に「アリス」という名の、 普通の少女が迷い込んできた
アリス
セリーナ
私はアリスに向かって、穏やかに微笑んだ
しかし、胸にどこかでは、私の心は痛がっていた
それは、アリスがナビゲーターとして活躍し始めてからだった
照明で輝くアリスを見て、私はいつしか、妹のフローラとアリスを重ねていた
しかし、こんな思いを持っているのにも関わらず、 私はアリスの前では「優しいお姉さん」を演じる
こんなの、まるで偽善者の両親と同じだ
セリーナ
そんなことをぼーっとしながら考えていると、誰かにぶつかった
その瞬間、私の体の一部からは、パキンと割れた音がした
セリーナ
アリス
セリーナ
私のすぐ近くには、アリスが立っていた
アリスは私に謝りながら、落ちていたガラスの破片を素手で片付けようとする
セリーナ
傷つけたくなかったが故に、私は咄嗟にアリスを止めた
そして、いつものような優しい笑みを浮かべた
アリス
セリーナ
本当は、大丈夫なわけがなかった
でも、そう言わないとやっていけない気がした
ある日、掃除を終えた私は、いつものようにアリスに声をかけた
セリーナ
私は無邪気で子供らしい返事を待っていた
しかし、今日のアリスは、なんだかおかしかった
ミラードール
口調がやけに丁寧だった
しかも、立ち振る舞いがあまりにも完璧すぎて、むしろ不自然だった
セリーナ
セリーナ
私は戸惑いを隠すために、必死に平常心を保とうとした
ミラードール
アリスは首を傾げながら、本気でわかっていない顔をした
セリーナ
やはり、私は動揺を隠せなかった
ジョークにしては、悪質すぎる
昨日まで普通だったアリスの様子が明らかにおかしいため、本気で焦ってしまい、 言葉が上手く出てこなかった
しかし、アリスは挙動不審な私の様子を見ても、気にも留めなかった
ミラードール
セリーナ
セリーナ
私はパニックになり、アリスの言葉を遮ってそう言い放った
その叫び声は今まで出したことのないくらい、大きなものだった
いつものアリスなら、私の様子に「どうしたの…?」とびっくりするはず
しかし、今回はいつものようにはいかなかった
ミラードール
ミラードール
一瞬だけ、いつものアリスの声に戻った
私は、元のアリスに戻ったと錯覚していたが、安心したのも束の間だった
パリンと割れたような音がした
セリーナ
恐る恐る顔を触ってみると、私の頬にヒビが入っていた
それだけでは収まらず、片腕がバキバキッと崩れ落ちた
この体は壊れない、強い体なはずなのに
私の体は次々と崩れ落ちていくが、アリスはただ、立ちながら私の様子を見ているだけだった
この様子を見て、目の前にいるアリスが、本性を出したと、思い込んでいた
セリーナ
セリーナ
セリーナ
私はアリスに対して、溜め込んでいた重い感情を精一杯ぶつける
私が喋るたびに、ガラスの体は床に崩れ落ちていく
しかし、アリスの答えはとても残酷なものだった
ミラードール
開いた口が塞がらなかった
まさか、アリスも両親のような偽善者だったなんて
本物のようなあの笑顔は、本当は全部嘘だったなんて、私は信じたくなかった
受け入れることができなかった
セリーナ
セリーナ
片腕、両脚が砕ける
セリーナ
その言葉を言いかけた瞬間、私は完全の床に崩れ落ちた
今の私は、割れた窓ガラスと同等の存在だった
そこで私の意識は途切れ、もう二度と喋ることはなかった
最後の最後に、アリスの恐ろしい本性を知るなんて、本当に最悪な最期だった
しかし、アリスとフローラを重ね、勝手に嫉妬をしていた自分が、今でも大嫌いなままだった
結局、私も両親のような「偽善者」へ染まってしまっていたのだ
…なんて皮肉な結末なんだろう
コメント
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ああ、第19話……読み終えて言葉がすぐに出てきませんでした。セリーナの「誰にも必要とされていない」という絶望と、それでもフローラを想って家を出る決意、そしてガラスの体を得た後の「自由」の裏にある脆さ……全部が心に刺さりました。 特に、アリスに「貴女の感情、表情を観察し、最も相応しい言葉を選びました」と言われるラストが本当に残酷で。最後まで自分を「偽善者」と責めるセリーナが痛くてたまりませんでした。桜城優衣🌸さんの、優しいのに抉るような心理描写、本当にすごいです。