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上堀 登代子 (先生)
朝のHR直前、教室に響いたのは甲高い女の声だった。
その声の主は──上堀登代子。
この高校の国語教師で、50代後半のベテランだ。
彼女は、男子生徒には驚くほど優しく、女子生徒には異常なほど厳しい。
中でも、小斎茄奈に対しての当たりは露骨だった。
小斎 茄奈
茄奈はうつむきながら、髪ゴムを強く結び直す。
視線の先には、茶髪がふわふわと肩を覆う男子がいる。
上堀先生は、その男子には何も言わない。
男子生徒
男子が軽く笑い、茄奈はその横顔に怒りを向けることすらできない。
これがこの学校の“日常”だった。
加柴 沙里
ぽんっと肩を叩いて声をかけてくれたのは、加柴沙里。
茄奈の幼なじみで、誰よりも信頼できる親友だ。
小斎 茄奈
小斎 茄奈
加柴 沙里
小斎 茄奈
加柴 沙里
沙里のさりげない共感は、茄奈の中の苦さをほんの少しだけ溶かしてくれる。
上堀先生に対する不満は、積もりに積もっていた。
体育祭で応援団に立候補したときは「あなたには向いてない」と冷たく言われ、
提出物が一日遅れただけで放課後に呼び出されて説教。
それでいて、男子生徒の失敗には笑って済ませる。
──そんなに私のことが嫌い?
何度、心の中でつぶやいたか分からない。
茄奈はただの高校生。抗う力なんてなかった。
それから数日後のある放課後。
いつものように教室で沙里とおしゃべりしていた茄奈に、突然の速報がスマホに届く。
画面を見た茄奈の指先が、ふるふると震えた。
小斎 茄奈
何かの間違いじゃないかと願った。──いや、違う。
心のどこかで、これを“願っていた自分”に気づいてしまった。
小斎 茄奈
呆然とつぶやくと、沙里がそっと茄奈の手を握った。
加柴 沙里
茄奈は答えなかった。ただ──こう思ってしまった。
小斎 茄奈
罪悪感は、なかった。
むしろ、世界が少し明るくなったような気さえした。
茄奈の高校生活は、そこから変わった。
朝、教室に入っても叱る声はない。
校則チェックも、理不尽な叱責も、影のような圧力も──すべて、消えた。
小斎 茄奈
初めてそう思えたとき、茄奈は少しだけ笑った。
だが──
そんな“平穏”は、そう長くは続かなかった。
菅岡 奈名子
菅岡 奈名子
そう自己紹介をしたのは、白いブラウスに落ち着いたロングスカートを着た、若い女性だった。
柔らかく笑い、穏やかに言葉を紡ぐ彼女に、教室は一瞬で和んだ空気に包まれた。
小斎 茄奈
そう思った、その直後──
菅岡奈名子の立ち振る舞い、笑い方、視線の動かし方──
どこか、誰かに“似ている”気がした。
小斎 茄奈
茄奈はかすかに首を振った。だが心の奥に、ざわつきが残ったままだった。