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学年が1つ上がってから
数週間が経ってからの事だった
授業後、 荷物をまとめて帰宅しようとしていた時
先生から突然呼び出された。
ここじゃあれだからと
職員室にまで連れていかれた。
はい、と差し出した茶封筒は
パンパンに膨れ上がっていた。
新学期になったばかりで
書類が多くなるのは仕方のないことだけど。
唯人
櫻田、櫻田瑠璃という人は
始業式から1度も来ていない。
去年も彼女はほとんど 学校に来ていないらしい。
理由が知られていないため、
芸能人だという噂が流れている。
当たり前だが、僕も彼女のことは知らない。
だから何故僕に
それを渡してきたのかが凄く謎だ。
唯人
正直、凄くめんどくさいと 思った。
会ったこともないのに。
「だから頼んだよ」
と先生は膨れ上がった茶封筒を
僕に押し付けた。
仕方なくそれを受け取る。
先生のせいで
今日の僕の読書時間が
プリントをクラスメイトに 届けることに奪われた。
少しイラつきながら歩き進める。
先生から受け取った
住所が書かれた紙を頼りに 目的地を探す。
歩きながら少しずつ違和感を覚える。
家を探しているはずなのに
着いた場所は大学病院だった。
先生が住所を間違えてない限り 目的地はここだ。
心配になりながらも
病院の中へと足を運ぶ。
唯人
受付の人に部屋番を伝え 場所を案内してもらった。
大学病院だから当たり前だが
とても広い病院だと思った。
こんなに大きな病院に入院している彼女は
どれだけ重い病気なのかと
少し興味を持った。
さっきまで少しも興味など なかったのに。
静かな廊下がローファーの 鳴らす音でうるさくなる。
それとともに心臓の音も大きくなる。
緊張していることが自分でも 凄く分かる。
703と書かれてある部屋番の下には
『櫻田』
と書かれていた。
間違いなくここだ。
僕は扉の前に立ち止まり、 1呼吸置く。
呼吸を整えてから 扉をノックしようとした時、
急に扉が開いた。
びっくりして身体が固まる。
目の前には女性が立っていた。
唯人
唯人
唯人
先程の声のトーンとは違い
少し明るく聞こえた。
当たり前だが
知らない人が病室の前に立っていたら
驚くのも無理ない。
会釈をし1歩ずつ 病室へと足を運ぶ。
中には瑠璃と呼ばれる女性が
ベッドに座り、読書をしていた。
髪は黒く長く 肌は白い。
病院服を着ているのにも関わらず
その姿が
綺麗だと思った。
なんというか、 オーラが違う。
唯人
黙って彼女を見つめるのも 変なので
軽く挨拶をする。
彼女はこちらを見て
そのまま視線を 本に戻した。
瑠璃
母親は気を使って彼女に 声をかけていたが
彼女は乗り気じゃないようだ。
嫌々挨拶しているのが
声のトーンと表情でよく分かる。
瑠璃
瑠璃
瑠璃
なんとも無愛想な人なんだと思った。
そう言って彼女の母親は
病室を後にした。
なんとも勝手な人なのだろうかと思う。
僕の気持ちを少し考えてほしい。
唯人
唯人
どうにか沈黙をなくそうと
必死だった。
瑠璃
瑠璃
唯人
唯人
瑠璃
瑠璃
彼女は極端に僕が来ることを拒否した。
そんなに拒否する理由があるのだろうかと
疑問に思う。
かと言って
それを聞く勇気などないけれど。
結局あの後話すことも無く
帰っていいよと
流れるように病室を後にした。
一体僕はなんの時間を 過ごしたのだろうと
我に返る。
病室を出てしばらくした後
ここに来た目的である プリント類を
渡すのを忘れていたことに気づいた。
もう一度病室に戻るのも気まずいので
受付の人に
渡してもらうよう頼み
足早に病院を去った。
ただプリントを届けるだけなのに
病院を出た瞬間
どっと疲れが出てきた。
外で読書をする気力もなく
そのまま真っ直ぐ家に帰った。
もう二度と先生にプリント類を お願いされないよう
強く祈りながら。