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薔薇の隠し事

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薔薇の隠し事

23 - 薔薇の隠し事 第23話

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2020年03月29日

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ヴィクターは重い瞼をゆっくり開いた。

体全体を支配する倦怠感が再び押し寄せてくる。

誰かが口論でもしているのか人の声が聞こえてくるが、

離れた場所でしているようで内容までは分からない。

仮に聞こえたとしても、頭がぼんやりする今の状態では、

内容を理解するのも難しかった。

なんとか意識を集中させてから、ヴィクターは体に違和感があることに気付いた。

ヴィクター

木製の椅子に腰掛け、両手首は後ろに回されロープでキツく縛られている。

それもかなりきつくである。

無駄な抵抗と思いつつ体を揺するが、

木製の椅子は今にも壊れそうな音をギシッと立てたものの、

ただの揺さぶりだけで壊れるほど脆くはなかった。

諦めて室内を見回す。

天井の豆電球のみが唯一の明かりで、それ以外は闇が広がっている。

なんとなく錆の臭いがしたし、冷気も漂っている。

ヴィクター

(何処かの廃工場か?)

突然、額にヌルッとなにかが流れたような気がした。

ヴィクターが少し体を屈めると、床に一滴、二滴と血がポタリと落ちた。

それから襲いかかる痛み。

ヴィクター

(さっきぶつけられたときだ)

そこでようやく、ヴィクターは額に怪我を負い出血していることと、

いきなりトレーラーが自分とジーナが乗っていた車に激突したのを思い出した。

額の傷はそのときに切ったのだろう。

ヴィクター

薄暗い部屋の何処からか音がし、1人の男が目の前に現れた。

ヴィクター

さっきの事故はやっぱりお前か

ヴィクターは苦笑を浮かべながら、目を細めて男の顔を見た。

男、マックス・アンダーソンもお返しとばかりに笑いを浮かべ、

マックス

あれは予定外だった

マックス

あんたのせいで今夜の目的が果たせなくなったから

マックス

急遽、計画を変更したのさ

ヴィクター

目的とはモリー・シェパードを連れ去り

ヴィクター

誘拐して、これまでの被害者と同じように

ヴィクター

惨殺して世間に自分の犯罪を注目させることかい?

マックス

注目だと?

ヴィクター

そうだろう?

ヴィクター

それ以外、なんの目的がある?

ヴィクターはあえて挑発するような口調で言葉を発した。

が、マックスは意に介せず、ただ微笑を浮かべてだけだった。

マックス

刑事さん

マックス

あんた、結婚はしてるのか?

ヴィクター

いや、独りだ

マックス

恋人、或いは大切な存在といえる人はいるのか?

ヴィクター

いない

マックス

俺にはいたんだ

ヴィクター

エレノアか?

マックス

俺とエレノアは相思相愛の関係だった

マックス

亡くなった今でも俺は時々、彼女のあの笑顔が脳裡によぎってくる

マックス

どうして死ぬことになったか?

マックス

嫉妬深いあの女どもが結託して、エレノアを窓から突き落としたからだ

マックス

俺は復讐を誓った

マックス

復讐が俺の生きる糧であって

マックス

別に世間から悲しい復讐者として注目を浴びる気なんかない

ヴィクター

お前はエレノアの死がいじめでないと割り切ったんじゃなかったのか?

マックス

最初にあんたと顔を会わせたときの話だな

マックス

あの頃の俺は復讐を成し遂げた後も

マックス

警察の目から疑惑が向けられないよう必死になってたんだ

マックス

だが、今はもうそんなことどうだっていい

マックス

彼女の復讐さえ果たせれれば未練なんかない

マックス

全て終わったら警察に自首するつもりだ

ヴィクター

では何故、俺をこうして縛り付けてるんだ?

マックス

さっきも言っただろう

マックス

エレノアを追い詰めた最後の1人

マックス

モリーを殺害する計画があんたのせいで台無しになった

マックス

トレーラーをぶつけたとき、俺はてっきりモリーが一緒だと思っていたんだ

マックス

そしたらあんたがぐったりしてたんで戸惑ったんだ

マックス

仕方なく、こうして拘束したわけさ

ヴィクター

車にジーナも一緒だと知っていただろ?

マックス

………

ヴィクター

恋人の復讐を果たすためなら

ヴィクター

仲間の命も危険にさらしても構わないという考えらしいな

マックス

やかましいっ!

マックスが表情を歪めてヴィクターの顔を殴り付けた。

頭の痛みも重なり、ヴィクターは一瞬意識が遠退いた気がした。

マックスは明らかにイライラしていた。

ヴィクターに計画が邪魔されたことへの怒りもあるが、

それとは別に、かすかな狼狽もその表情から感じ取れた。

ヴィクター

(こいつはあくまで自分を悲劇の復讐者に留めておきたいらしい)

マックス

マックス

刑事さんよ

マックス

どうして俺のやることを邪魔するんだ?

ヴィクター

それが仕事だからだ

マックス

警察には情ってものがないのか?

マックス

どうして無力のエレノアが勝手な理由で殺され

マックス

加害者の連中が生きていられるんだ?

マックス

あいつらには自分たちがしたことと同じ苦しみを味わわせるのが当然じゃないか

マックス

俺はそれをしただけだ

ヴィクター

ネルソンを殺したのも当然だと言うのか?

マックス

…あぁ、あのちんけな小悪党か

マックス

ジーナから聞いてたよ

マックス

エレノアの死について色々と探ってる男がいるってね

マックス

最終的にあいつは俺に辿り着き

マックス

今度の殺人事件の犯人である俺を脅迫してきたんだ

マックス

脅迫は立派な犯罪だろう?

ヴィクター

だからって殺していいとでも思ってるのか?

マックス

あんなやつは荒っぽいのを雇って黙らせる程度で済ませられる

マックス

だが、脅迫のためにエレノアのことまであれこれ探られたのが堪らなかった

マックス

これ以上、彼女の精神を傷付けるのは許さない

マックス

ネルソンはそれを犯した

マックス

だから、殺すことにしたのさ

ヴィクター

ネルソンはどんな情報を掴んでお前の所に現れたんだ?

マックス

それは教えられない

マックス

…いや、教えたくない

ヴィクター

何故だ?

マックス

天国のエレノアを悲しませてしまい兼ねないから口にしたくはない

ヴィクター

ヴィクター

ネルソンが殺されて「ローズ」を訪ねたとき

ヴィクター

ジーナはヤツが調べていたのがエレノアではなく

ヴィクター

お前だと俺に教えた

ヴィクター

あれは嘘じゃないのか?

マックス

ご明察、さすがラング刑事だ

マックス

俺は自分を容疑圏外に出すための用意も準備しておいた

マックス

いざ、俺に疑惑を向けてあんたたちが来ても

マックス

アリバイを証明する手筈が出来ていた

マックス

警察はアリバイを重視して犯人を割り出すからね

マックス

早めに俺は容疑者から外される、つまり犯人ではないんだと分からせるために

マックス

あえて、ネルソンが俺のことを聞きに来たと言うようジーナに指示しておいたんだ

ヴィクター

なるほど、自分を容疑圏内から外すためにそうやってジーナを

ヴィクター

そして大富豪夫人のキャサリンをも利用したってわけか

マックス

キャサリン?

ヴィクター

あくまで推測だが

ヴィクター

キャサリンは一方的にお前に好意を抱いていたんだろう

ヴィクター

彼女自身、夫に隠れながらの逢瀬を楽しむ感覚でお前を想っていた

ヴィクター

お前を庇うために俺たちに嘘の証言までしたんだからな

ヴィクター

ところが、お前にはその気は微塵もなく

ヴィクター

執拗に関係を迫ってくる彼女に反って辟易していた

ヴィクター

殺害の対象だったこともあり、キャサリン殺しはお前にとって一石二鳥

ヴィクター

…いや、一石三鳥と言うべきか?

ヴィクター

キャサリンはお前にとってはある意味、危険な存在でもあった

ヴィクター

一方的に好意を寄せてくる彼女が

ヴィクター

いつ自分の仮面を剥いで恐ろしい正体に気付くか分からなかったからだ

ヴィクター

一方的な恋心を寄せ、自分の正体を知るリスクの高い人物が元から殺しの標的なら

ヴィクター

一石三鳥と言っても悪くないだろう?

と、ヴィクターはわざとニヤッと挑発的な笑みを浮かべた。

マックスは自分の行いが正しいという自負を抱いて犯行を繰り返していた。

いずれ、警察に自首し事実を打ち明けるつもりとも話していたが、

ヴィクターはこれっぽっちもその言葉を信じていなかった。

あえて彼の心を逆撫でさせることで、その意思を間接的に伝えていたのだ。

ヴィクター

キャサリンから電話があった夜

ヴィクター

お前は彼女の屋敷で一緒にワインを飲んだ

ヴィクター

その際、お前は初めて彼女に殺人を起こした動機を説明した

ヴィクター

彼女の顔が恐怖で歪むのを見たいあまりにね

ヴィクター

怯えた彼女は機嫌を取ろうとセラーに駆け込み新しいワインを取りに降りた

ヴィクター

彼女はあくまで相思相愛を信じていた上で機嫌取りを図ったんだろう

ヴィクター

そこで、切断された腕を発見した

ヴィクター

恐怖で竦み上がった彼女は俺に電話を掛けるが、捕まってしまった

ヴィクター

数分後、キャサリンの屋敷に出向いた俺がセラーの腕に気を取られている間に

ヴィクター

お前はセラーの出入り口に錠をし、俺を幽閉した

ヴィクター

あれは迂闊だった

と、ヴィクターは苦笑して見せた。

マックスは笑われるのが心底嫌なのか、睨むようにヴィクターを見ていた。

ヴィクター

ヴィクター

お前は愚かな男だよ

ヴィクター

自分の犯罪を成功させるために

ヴィクター

女の恋心と好意を利用したんだからね

ヴィクター

天国のエレノアもきっと呆れ返ってるぞ

マックス

なにをっ…!

マックスがまた殴り掛かろうとした途端、何処からかドアの開く音がした。

ヴィクターは額から流れる血を振り払うように首を振った。

薄い暗闇からジーナが姿を現した。

2020.03.29 作

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