夏の朝、 いつも電車に揺られて今日が始まる。
今日は月曜日だ。
周りには制服を着た女子達が ケラケラと大声で話している。
同じ学校の子だろうか。
電車の音に 非常識な音が
鮮明に聞こえる。
自分
自分は思わずため息をついた。
憂鬱だ。
何故月曜はこんなにも憂鬱なのだろう?
朝のアラームの音が、 毎週月曜のニュースが 「学校へ行け」と命令してるかの様だ。
自分はふと前の席を見た。
眠そうなサラリーマン、 杖をついたおばあさん。
そして…
自分
春澪(はるみお)くんは 私のクラスメイトだ。
いつも独りで居て、 何を考えているか分からない。
でも私はそんな彼の表情が好きだ。
私も独りだから。
あの私に向けられる馬鹿にした表情も
嘲笑う表情も
嫌悪する表情も
彼が私に向ける事はない。
自分
その時、電車のアナウンスが鳴った。
アナウンス
アナウンス
アナウンス
アナウンス
自分
私は今日学校に来たのではない。
勿論親は私が 虐められている事を知らない。
「虐められる貴女が悪いんじゃないの?」
そう言う母の顔が、 タバコを吸って黙って新聞を読む 父の姿が頭に浮かぶ。
私は今日…終わらせに来た。
自分の人生を。
そうして私は早足で電車を後にした。
自分
お腹減ったな。
駅を降りて徒歩約15分。
汗だくだ。梅雨明けだからか蒸し暑く 太陽の存在感が半端ない。
自分
思わず私は汗を拭いた。
汗が目に入った。ヒリヒリする。
もはやそれは涙なのか、汗なのか 分からなくなっていた。
自分
ここは元々いわく付きの家で、 色々な怪奇現象が起こると苦情があった為 壊された。
今や廃家となり、近づく人は誰もいない。
その為、椅子やテーブルが残っている。
私は鞄からロープを取り出した。
もはや今の私の心は無だ。
この心の意味深な穴は 誰にも埋められないだろう。
自分
カタンッ
自分
何だろう?何か物音が鳴った気がする。
こんな所に人は居ないはずだ。 気軽に足を踏み入れられる所ではない。
ガタンッ!
気のせいじゃない。確かに鳴ってる。
風も全然強くない。誰かいるのか?
ガタッガタッガタンッ!
すると、キッチンの方から誰かが……
自分
自分
春澪
自分
春澪
春澪くんは私の手元を見て 何かを察したようだった。
手元にはロープと… 近くに椅子が置いてある。
春澪
自分
自分
自分
春澪
自分
春澪
自分
春澪
春澪
自分
「助けられなくて……」なんて言わない。 そんな関係ではない。
助ける暇もないくらい、余裕が無いんだ。 相手も分かってるはずだ。
春澪
私も、まさか春澪くんが こんな所に居るなんて思いもしなかった。
ただ…何だろう。
どこか春澪くんと居ると安心する。
自分
春澪
あれから私たちは 今までの事を話し合った。
家族の事、虐めの事、クラスメイトの事。
何もかも、生まれてから今 までの事をまで。
私は、このおかしな状況に 思わず笑ってしまた。
自分
春澪
自分
自分
春澪
そして彼は笑みを浮かべた。
不意に私は何故か、その彼の姿に──……
春澪
自分
そうだ。こんな呑気に話をしているけど 今の予報気温は確か36℃だったはずだ。
すごく暑い。
自分
自分
春澪
そして彼は私の方を見た。
春澪
春澪
春澪
自分
私はそんな彼の顔を見れずにいた。
どうせまた明日学校に行っても 同じ事を繰り返す。
春澪
自分
春澪
自分
彼の顔は真剣そうだった。
本当に…?
春澪
春澪
自分
すると突然、胸がドクドクとなり始めた。
本当に彼は私を…?
春澪
自分
春澪
春澪
自分
春澪
春澪
自分
自分
虐めなんかなかったら、こんなに醜い心になっていなかっただろう。
春澪
すると、何故か私はいつも電車で見かける春澪くんの表情が…姿が……
自分
私は呟いた。
私はずっと春澪くんの表情が 好きだったんじゃなくて…
春澪くんの姿が、 春澪くん自身が好きだったんだ。
気付くと私は泣いていた。
春澪
あまりの自分の心の醜さに、
彼の気持ちが嬉しくて。
自分
春澪
自分
春澪
自分
春澪
彼の声が家中に響いた。
今、すごく幸せだ。
あれから2人で学校が終わる時間まで 時間を潰した。
カラオケ、ゲームセンターなど 沢山まわった。
時間になり、それぞれ家へ帰った。
自分の部屋に入ろうとしたその時──…
母
自分
母
自分
ついに担任が……
担任は私が 虐められている事を知っている。
無理やり学校へ行かせるつもりなんだ…
自分
パンッ!
自分
母に顔を叩かれた。
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!
恐怖で身体が震える。
自分
顔を殴られ、お腹を蹴られ、 遂には包丁を取り出してきた。
自分
母
母
いつも母は父を恐れている。 たまに出来る母の顔の傷は そういう事だろう。
殺される。
私は母を突き飛ばし、家を走って出た。
母
母の声を背に、走った。
自分
自分
まだ震えている。
もう…死にたい。死のう。
私は春澪くんにLINEした。
"助けて"と。
10分後彼は来た。
春澪
自分
自分
春澪
春澪くんは私の手を握り、走った。
遠くへ、鬼の手が届かない所へ。
もう誰も私達を追ってこない。
私達の足跡は深い夜の森に消えていった。
自分
春澪
ずっと走り続けて、ようやく着いた。 絶対に見つからない、彼の秘密基地。
自分
春澪
彼は黙って私を見た。
自分
春澪
自分
自分
怖いの。すごく怖い。
自分
涙で顔はびちゃびちゃ。 鼻水も出て、声も震えている。
初の彼氏にこんな顔…見せたくなかった。
自分
彼は私を抱きしめた。
そして、彼は私を埃まみれの ベッドへ押し倒した。
自分
そして私達は重なり合った。
想いも、身体も何もかも。
私はただ泣いていた。
彼も……泣いていた。
事が終わった後、彼は包丁を取り出した。
春澪
自分
自分
自分
春澪
春澪
そして彼は鞄からナイフを取り出し、 私の首に当てた。
抱きしめながら、すっと ナイフをさした。
2人は涙で溢れていた。
次のニュースです。
行方不明だった緒方 幸さん(16)と
春澪 千尋くん(17)が
○○市の森の廃家で 死亡しているのが発見されました。
2人には首にナイフで刺した後があり、
自殺と見て調査を進めています。
蝉の声が遠くで響く。
ずっと空腹だった私の心。
彼からの愛情を受けて 満たされた。
お腹いっぱいだよ。千尋。