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夏の朝、 いつも電車に揺られて今日が始まる。

今日は月曜日だ。

周りには制服を着た女子達が ケラケラと大声で話している。

同じ学校の子だろうか。

電車の音に 非常識な音が

鮮明に聞こえる。

自分

はぁ…

自分は思わずため息をついた。

憂鬱だ。

何故月曜はこんなにも憂鬱なのだろう?

朝のアラームの音が、 毎週月曜のニュースが 「学校へ行け」と命令してるかの様だ。

自分はふと前の席を見た。

眠そうなサラリーマン、 杖をついたおばあさん。

そして…

自分

春澪くん…

春澪(はるみお)くんは 私のクラスメイトだ。

いつも独りで居て、 何を考えているか分からない。

でも私はそんな彼の表情が好きだ。

私も独りだから。

あの私に向けられる馬鹿にした表情も

嘲笑う表情も

嫌悪する表情も

彼が私に向ける事はない。

自分

(また端の席に座ってる…)

その時、電車のアナウンスが鳴った。

アナウンス

次は、亜望田駅(あもうだえき)〜

アナウンス

お出口は左側です。

アナウンス

The next station is Amoda, station number JZ04.

アナウンス

The doors on the left side will open.

自分

降りなきゃ。

私は今日学校に来たのではない。

勿論親は私が 虐められている事を知らない。

「虐められる貴女が悪いんじゃないの?」

そう言う母の顔が、 タバコを吸って黙って新聞を読む 父の姿が頭に浮かぶ。

私は今日…終わらせに来た。

自分の人生を。

そうして私は早足で電車を後にした。

自分

あ〜あ、

お腹減ったな。

駅を降りて徒歩約15分。

汗だくだ。梅雨明けだからか蒸し暑く 太陽の存在感が半端ない。

自分

暑っつ…

思わず私は汗を拭いた。

汗が目に入った。ヒリヒリする。

もはやそれは涙なのか、汗なのか 分からなくなっていた。

自分

着いた…

ここは元々いわく付きの家で、 色々な怪奇現象が起こると苦情があった為 壊された。

今や廃家となり、近づく人は誰もいない。

その為、椅子やテーブルが残っている。

私は鞄からロープを取り出した。

もはや今の私の心は無だ。

この心の意味深な穴は 誰にも埋められないだろう。

自分

こんな所で死んでも誰も見つけてくれないよね。

カタンッ

自分

……ん?

何だろう?何か物音が鳴った気がする。

こんな所に人は居ないはずだ。 気軽に足を踏み入れられる所ではない。

ガタンッ!

気のせいじゃない。確かに鳴ってる。

風も全然強くない。誰かいるのか?

ガタッガタッガタンッ!

すると、キッチンの方から誰かが……

自分

えっ……

自分

春澪……くん?

春澪

緒方…?

自分

な、何で春澪くんがここに居るの…?

春澪

お、お前こそ…

春澪くんは私の手元を見て 何かを察したようだった。

手元にはロープと… 近くに椅子が置いてある。

春澪

もしかして…自殺しようとしたのか?

自分

…………

自分

もう疲れたんだ。

自分

何もかも。だから終わらせようと思って。

春澪

俺も…

自分

……?

春澪

俺も終わらせるつもりでここに来たんだ。

自分

え?

春澪

俺もさ、虐められてんだ。

春澪

知ってるだろ?隣のクラスの奴らに。

自分

…うん。

「助けられなくて……」なんて言わない。 そんな関係ではない。

助ける暇もないくらい、余裕が無いんだ。 相手も分かってるはずだ。

春澪

まさか…お前が……

私も、まさか春澪くんが こんな所に居るなんて思いもしなかった。

ただ…何だろう。

どこか春澪くんと居ると安心する。

自分

なるほどね…そうだったんだ。

春澪

お前も…大変だったな。

あれから私たちは 今までの事を話し合った。

家族の事、虐めの事、クラスメイトの事。

何もかも、生まれてから今 までの事をまで。

私は、このおかしな状況に 思わず笑ってしまた。

自分

くっ……ははは!

春澪

な、何だよ急に!

自分

いや…何かおかしくって…笑笑

自分

普通ならこんなのありえないじゃん!

春澪

そうだな…笑

そして彼は笑みを浮かべた。

不意に私は何故か、その彼の姿に──……

春澪

どうした?顔赤いぞ

自分

ううん!ただ暑いだけだよ

そうだ。こんな呑気に話をしているけど 今の予報気温は確か36℃だったはずだ。

すごく暑い。

自分

自分

…これからどうするの?

春澪

どうするって……

そして彼は私の方を見た。

春澪

久しぶりに笑ったしな…

春澪

"今日は"やめて、また別の日にするよ。

春澪

とりあえず家に帰るつもり。

自分

そうなの…

私はそんな彼の顔を見れずにいた。

どうせまた明日学校に行っても 同じ事を繰り返す。

春澪

お前は…?

自分

私はもう…

春澪

それとも俺と駆け落ちでもするか?

自分

そんな冗談…

彼の顔は真剣そうだった。

本当に…?

春澪

俺はもう、何もかもを捨てる覚悟でここに来たんだ。

春澪

お前もそうなんだろ……?

自分

そうだけど……

すると突然、胸がドクドクとなり始めた。

本当に彼は私を…?

春澪

俺さ、お前にずっと言いたかった事があるんだ。

自分

何…?

春澪

本当はこんな所じゃなくて、学校の屋上とかで言いたかったんだけど…

春澪

好きです。

自分

え?

春澪

俺、ずっと緒方の事が好きだった。

春澪

付き合って欲しい。

自分

そんな…嘘でしょ?

自分

罰ゲームとかで言わされてるんじゃないの?!

虐めなんかなかったら、こんなに醜い心になっていなかっただろう。

春澪

ち、違う!本当だ…

すると、何故か私はいつも電車で見かける春澪くんの表情が…姿が……

自分

そうか…

私は呟いた。

私はずっと春澪くんの表情が 好きだったんじゃなくて…

春澪くんの姿が、 春澪くん自身が好きだったんだ。

気付くと私は泣いていた。

春澪

ど、どうした?!

あまりの自分の心の醜さに、

彼の気持ちが嬉しくて。

自分

ううん…何でもない。

春澪

それで…?

自分

宜しくお願いします。

春澪

え、マジ?

自分

うん、マジ笑

春澪

やったぁああ!!!

彼の声が家中に響いた。

今、すごく幸せだ。

あれから2人で学校が終わる時間まで 時間を潰した。

カラオケ、ゲームセンターなど 沢山まわった。

時間になり、それぞれ家へ帰った。

自分の部屋に入ろうとしたその時──…

●●!!あんた今までどこ行ってたの?!

自分

え?…どこって学校に…

さっき学校から無断欠席してるって連絡があったのよ!!

自分

!!

ついに担任が……

担任は私が 虐められている事を知っている。

無理やり学校へ行かせるつもりなんだ…

自分

……………

パンッ!

自分

っ…!

母に顔を叩かれた。

嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!

恐怖で身体が震える。

自分

っは!ぐっ……

顔を殴られ、お腹を蹴られ、 遂には包丁を取り出してきた。

自分

やめてお母さん…!!

ただえさえ成績が悪いのにその上朝から遊んでるだって?

こんなんじゃ…お父さんになんて言ったら…!!

いつも母は父を恐れている。 たまに出来る母の顔の傷は そういう事だろう。

殺される。

私は母を突き飛ばし、家を走って出た。

待ちなさい!!

母の声を背に、走った。

自分

っはぁ…はぁ…はぁ…

自分

嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ……

まだ震えている。

もう…死にたい。死のう。

私は春澪くんにLINEした。

"助けて"と。

10分後彼は来た。

春澪

緒方!!

自分

もう嫌だ、嫌だ。

自分

死にたい、死にたいよ……

春澪

……っ

春澪くんは私の手を握り、走った。

遠くへ、鬼の手が届かない所へ。

もう誰も私達を追ってこない。

私達の足跡は深い夜の森に消えていった。

自分

はぁ…はぁ…ここは…?

春澪

…俺の秘密基地

ずっと走り続けて、ようやく着いた。 絶対に見つからない、彼の秘密基地。

自分

ねぇ…春澪くん。お願いがあるの。

春澪

………

彼は黙って私を見た。

自分

私を…殺して。

春澪

え?何言ってんだ。

自分

もう私、嫌だ。生きたくない。

自分

私おかしくなりそう。
怖いの。すごく怖い。

自分

ずっと…心の穴が埋まらないの。

涙で顔はびちゃびちゃ。 鼻水も出て、声も震えている。

初の彼氏にこんな顔…見せたくなかった。

自分

……っ!

彼は私を抱きしめた。

そして、彼は私を埃まみれの ベッドへ押し倒した。

自分

………

そして私達は重なり合った。

想いも、身体も何もかも。

私はただ泣いていた。

彼も……泣いていた。

事が終わった後、彼は包丁を取り出した。

春澪

本当にいいの…?

自分

うん、ありがとう。

自分

本当に、本当に大好きだよ。

自分

千尋。

春澪

俺も、大好きだよ。

春澪

幸。

そして彼は鞄からナイフを取り出し、 私の首に当てた。

抱きしめながら、すっと ナイフをさした。

2人は涙で溢れていた。

次のニュースです。

行方不明だった緒方 幸さん(16)と

春澪 千尋くん(17)が

○○市の森の廃家で 死亡しているのが発見されました。

2人には首にナイフで刺した後があり、

自殺と見て調査を進めています。

蝉の声が遠くで響く。

ずっと空腹だった私の心。

彼からの愛情を受けて 満たされた。

お腹いっぱいだよ。千尋。

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