この世界は
人の他に獣人や亜人が暮らす、ちょっと不思議な平和な世界。
そんな世界に生まれた、小さな小さな物語。
物語の舞台は、何の変哲もない普通の高校。
そんな高校に通う、寂しい秘密を抱えた7人の高校生達の
ちいさなゆうきのおはなし。
ああ、どうか彼らに
なんてことない平和な明日が訪れますように_ .
ピーポーピーポー、と救急車のサイレンが鳴り響いて。 沢山の人の悲鳴が聞こえていたことだけを覚えている。
倒れ込んだ自分の周りには、血に濡れた両親と飛び散ったガラスの破片があった。 そして、自分の額から流れ出る血でできた血溜まりも。
雨零 涼
ぼんやりとした頭で、そんな事を考えていた。
事故に遭ったはずなのに、思考は妙に冷静で。
動かない両親を虚ろな目で捉えて、「ああ、もうだめだな」なんて考えていた。
諦めかけた頭の中で、唯一心残りだったことは
雨零 涼
雨零 涼
両親から少し離れた所に倒れている姉は、まだ浅く消え入りそうだったが息をしていた。
手を伸ばす、こんなに力が抜けた腕では届くはずもないのに。
手を握った時の、手のひらの暖かい温度を求めて
あぁ、せめて姉だけでも
雨零 涼
それが君の望み?
声が、聞こえた
一体誰の声だ?
???
確かに誰かが俺に答えたはずだ。
???
その声を俺は知っているはずだ
誰だ、誰だ誰だ誰だ…
???
ガタン!!と一際大きい音を机から立てて顔を上げる。
雨零 涼
特に何か運動した訳では無いのに、嫌な冷や汗が流れて止まらない。 随分と嫌な夢を見てしまった。
雨零 涼
なんて呟くと、ふと目の前にある不機嫌そうな顔と目が合った。
???
雨零 涼
改めて遅れたが自己紹介しよう。俺の名前は雨零 涼 (うれい りょう)。 ごく平凡な高校生3年生の人間だ。…で、俺を起こしたのが
小鳥遊 結翔
俺のクラスメイトであり、友人の小鳥遊 結翔 (たかなし ゆうと)だ。 彼は言葉が強く不良のようにも見えるが、小柄で思いやりの心を持つ優しい少年だ。 友人に対して世話焼きで、俺も実際に何度か助けてもらった。
雨零 涼
小鳥遊 結翔
小鳥遊 結翔
だなんて言って、彼はケラケラと子供のようにいたずらっぽく笑った。
雨零 涼
小鳥遊 結翔
そうやってジトリとこちらを睨んでくるので、彼の目線から逃げるように話題を変えた。 まだ、彼が自分を叩き起こした理由が分かっていない。優しい彼だから、魘されていた 自分の事を心配して起こしてくれたのだろうか?
雨零 涼
小鳥遊 結翔
小鳥遊 結翔
小鳥遊 結翔
雨零 涼
雨零 涼
小鳥遊 結翔
小鳥遊 結翔
俺には、高校1年生の頃から仲の良い5人の友人がいる。 奏音(かなと)、恋鞠(こまり)、麗菜(れいな)、泉樹(いずき)、結翔(ゆいと)だ。
それぞれ学年も性格も違う不思議な人達だが、皆とてもいい友人だ。 今日は数週間ぶりに全員の予定が合っていたので、久々に皆で帰ろうという話だったのだ。
しかしまあ…しっかりと忘れていた。そんな自分を見かねて起こしてくれたのだろう。 彼の気遣いには感謝してもしきれない。
雨零 涼
小鳥遊 結翔
小鳥遊 結翔
雨零 涼
ひとまず会話を終わらせて、2人を探すことにした。
俺ら2人は教室から出て、上の階にある3-Dに向かった。
向かっている間に、2人の人柄について話しておこうと思う。
まず、麗菜の方から。 フルネームは小鳥遊 麗菜(たかなし れいな)。高校1年生で、苗字からわかるように結翔の妹。
彼女について話すならば、気の強く自由奔放な少女だ。 自分の気持ちに正直なタイプで、自分の気持ちをしっかりと言える強い女の子。
ただ、兄には生意気というか…毎日些細なことで喧嘩しているが。
雨零 涼
小鳥遊 結翔
雨零 涼
次に、泉樹について。 フルネームは真宵 泉樹(まよい いずき)。高校3年生のハーフエルフで、結翔の幼馴染兼親友。
スタイルも良く性格すら聖人で、多くの生徒を落としてきた生粋のイケメンである。 生徒会役員であり、勉強もできるしっかり者だが、本人は意外と抜けている。
そんな二人は、一見結翔と関わりがある事以外に接点がなさそうだが…
二人は放課後いつもセットで居ることが多い。その理由は…
???
???
3階に近づいてきた瞬間に、そんな声が廊下の方面から聞こえてきた。
雨零 涼
小鳥遊 結翔
それはとても聞き馴染みのある声だった。…結翔の顔が一気に般若へと変わり、 ズシンズシンと階段を歩く足が速くなった。
雨零 涼
察しのいい人ならわかるだろう。2人がなぜセットでよくいるのかは……
麗菜が泉樹にベタ惚れだからだ。
小鳥遊 結翔
小鳥遊 麗菜
小鳥遊 結翔
また、よく見る兄妹喧嘩が始まる。…これにも、もう慣れてきた。
話を聞く所によると、麗菜は泉樹と出会ってからこうだと聞いた。 2人の馴れ初めはよく知らないが、結翔が初めて家に泉樹を呼んだときに一目惚れし、 それ以来ずっと泉樹に猛アタックしては振られての繰り返しらしい。
で、結翔がそれを知ってから大激怒し、今じゃこれが毎日の恒例行事だ。 最初は驚いたけれど、今はこの怒号にも慣れてきた。…慣れたくなかったが。
雨零 涼
真宵 泉樹
雨零 涼
真宵 泉樹
雨零 涼
雨零 涼
真宵 泉樹
そんな話をしながら、小鳥遊兄妹の言い争いが収まるのを待つ。 そういえばと思い、ずっと疑問に思っていた事を彼に聞いてみることにした。
雨零 涼
真宵 泉樹
真宵 泉樹
雨零 涼
真宵 泉樹
真宵 泉樹
昔から自分の子供に興味のない人だったから。と泉樹は言った。 その会話で少し気まずくなっていると、タイミングよく兄妹の喧嘩が収束したみたいだ。
小鳥遊 結翔
小鳥遊 結翔
小鳥遊 麗菜
小鳥遊 結翔
小鳥遊 麗菜
が、そうこうしている内にまた暴走しそうだ。 早く昇降口に向かわなければ…
真宵 泉樹
小鳥遊 結翔
小鳥遊 麗菜
その時、メッセージアプリの通知音が鳴った。
雨零 涼
小鳥遊 麗菜
真宵 泉樹
メッセージの送信者は「kanato」…泉樹の言う通り奏音だった。
「相棒、今どこにいんの?」とだけ入力されたメッセージが届いていた。 文面から察するに、どうやら待ちくたびれたようだ。すかさずメッセージを返す。
「今は4人で3-Dの教室前にいる」と送れば「校門で恋鞠ちゃんと待ってるから早く来て〜」なんてメッセージが返ってきた。どうやら2人も一緒にいるらしい。
雨零 涼
小鳥遊 結翔
真宵 泉樹
小鳥遊 麗菜
そんな掛け合いをしてから、校門へと向かった。
急いで校門に向かうと、そこには見慣れた影が2人分見えた。
喜唱 奏音
白蜜 恋鞠
そこには、残りの2人である 喜唱 奏音(きしょう かなと)と白蜜 恋鞠(しろみつ こまり)が立っていた。
小鳥遊 結翔
小鳥遊 結翔
小鳥遊 麗菜
真宵 泉樹
雨零 涼
2人にどうしてここまで遅れたか事の顛末を話せば、 奏音は大爆笑、恋鞠は堪えきれないといった感じで噴き出した。
喜唱 奏音
白蜜 恋鞠
小鳥遊兄妹
そう抗議しようとして兄妹2人してハモればまた喧嘩勃発だ。 ぎゃーぎゃーと騒ぎ出す兄妹を見て、4人で呆れだす。
喜唱 奏音
白蜜 恋鞠
雨零 涼
真宵 泉樹
喜唱 奏音
白蜜 恋鞠
喜唱 奏音
そう言って、2人はにっこり笑った。
随分と遅れたが、奏音と恋鞠について紹介しよう。
喜唱 奏音は、俺と同級生の金髪の少年だ。 彼は一言で言うと無自覚天才だ。勉強も運動も何もせずに平均以上を取ってしまう才能の塊のような男で、ノリの良く気さくな性格をしている。
彼とは1年の頃に知り合い、気づけば親友と呼べるほどには信頼できる相手となっていた。 奏音の方も、俺を相棒と呼ぶくらいだから信用はしてくれているはずだろう。 彼の周りはトラブルが絶えないが、退屈はしないな。
そして最後に、恋鞠は高校2年生のリスの獣人である少女だ。 彼女とは昔から両親の仲が良く、俺と彼女は幼馴染と言うものなのだろう。
少し引っ込み思案で恥ずかしがり屋なところもあるが、親切で謙虚な性格をしている。 ふわふわとした耳と尻尾に、くせっ毛な髪は穏やかな雰囲気の彼女によく似合っている。 ちょっと心配性なところもある、しっかり者の幼馴染だ。
こんな感じに、性格も年もバラバラな友人達と共に過ごす日々が、俺にとっての宝物だ。 今こうやって皆で帰る時間も、かけがえのないものに感じてしまう。
喜唱 奏音
喜唱 奏音
小鳥遊 結翔
小鳥遊 麗菜
小鳥遊 結翔
小鳥遊 麗菜
何やら、奏音によって「小鳥遊兄妹の喧嘩議論」が開かれているようだ。 両者が睨み合っている最中に、恋鞠がそういえば、と小さな声で泉樹に聞いた。
白蜜 恋鞠
真宵 泉樹
白蜜 恋鞠
喜唱 奏音
雨零 涼
喜唱 奏音
真宵 泉樹
喜唱 奏音
白蜜 恋鞠
雨零 涼
喜唱 奏音
小鳥遊 麗菜
小鳥遊 結翔
喜唱 奏音
白蜜 恋鞠
歩いていた足がピタリと止まり、全員の視線が泉樹へと釘付けになった。 そんな周りの反応に泉樹は俯き、悩むような素振りを見せてから…
顔を上げ、ニッコリと笑ってこう答えた。
真宵 泉樹
喜唱 奏音
白蜜 恋鞠
小鳥遊 結翔
真宵 泉樹
小鳥遊 麗菜
雨零 涼
そんな風にわちゃわちゃと騒ぐ友人達を見ていると、微笑ましくて笑みが溢れる。 _…ああ、やっぱり自分はこの居場所が好きだな、なんて。
そんな事を考えながら、皆と一緒に帰路を歩いていった。
もうすぐで家に着く。家の前の分かれ道で3人に別れて、各々家に帰宅する。
雨零 涼
そんな事を言ったって、結局は家に帰らなければいけないのだが。
足取りが少し重くなる。家には、帰りたくないなぁ。 まだ、あともう少し、この温かくて平和な空間で友人達を眺めていたい。
小鳥遊 結翔
小鳥遊 麗菜
真宵 泉樹
喜唱 奏音
白蜜 恋鞠
雨零 涼
そうして、結翔達と別れた。
その後、少し歩いた先の場所で。
喜唱 奏音
雨零 涼
白蜜 恋鞠
喜唱 奏音
雨零 涼
俺と口約束を交わして、後ろを向きながら大袈裟に手を振りながら彼は帰っていった。
白蜜 恋鞠
雨零 涼
白蜜 恋鞠
雨零 涼
彼女は小さく手を振って、走り去っていった。
雨零 涼
ああ、明日もこんな日々が続きますように。
できれば、なんてことない平和な明日がいつまでも訪れますように。
そう平和な日々を脳裏に思い描いて、帰路についた。
そんな平和は、簡単に崩れ去ってしまう脆いものなのに。
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