三郎さんの話しを聞きながら歩いていると
いつの間にか村長の家に着いてしまった。
村長
三郎
村長
村上さんのところの犬を殺した。
そう聞いて三郎さんは
眉間にシワを寄せて見せた。
三郎
三郎
聞かれて俺は頷く。
三郎
村長
村上さんは昔仲良くしていた子の家だった。
もう十年以上行っていないのに、
不思議と家は覚えているものだ。
と言いたいところだが、
実際には村上さんの家の前に
ちょっとした人だかりができていたので
すぐにわかったというだけだ。
村上
三郎
村上
村上は人を押しのけて
敷地内に三郎を案内する。
俺は門の前で足を止めた。
女の子
そう泣きそうな顔で言ったのは
この家の子供だった。
山本 陸
女の子
女の子
泣きじゃくる子供。
それをなだめる母親。
本当にイビツナ様が犬を殺したのだろうか。
野次馬たちの会話に耳を傾けると
山崎さんのところの子供と同じように
腹を裂かれて内臓が抉り出されていたらしい。
あまりにも酷い有り様で、
子供には見せられないと言っていた。
ならば、
本当にイビツナ様の仕業なのだろうか。
だとしたら、
どうして犬なんか殺したのだろうか。
山本 陸
犬もまたあの社に何かをした
ということなのだろうか。
ほどなくして三郎さんが戻って来た。
三郎
何故か俺にそう言って歩き出したので、
後をついて歩く形となった。
山本 陸
三郎
山本 陸
三郎
三郎
山本 陸
三郎
曖昧な言い方をして
俺たちは村長宅に戻った。
三郎
村長
村長
三郎
村長
村長はちらりと俺の方を見る。
正直、俺もどうしていいのか
迷っていたところだ。
三郎
三郎
村長
三郎
三郎さんは笑って
三郎
と俺を誘った。
別段することのない俺は
頷いて三郎さんについていく。
村長
村長
村長
三郎
村長
村長
三郎
そして、離れに到着する。
部屋の中には
篠原さんとその子供がいた。
篠原さんは随分と疲れた様子で、
子供の顔色も少し悪かった。
三郎
篠原
村長
村長
篠原
かえで
篠原
かえで
村長
篠原
篠原
篠原さんはゆっくりと立ち上がると
篠原
かえで
子供の頭を撫でて離れを出て行った。
三郎
かえで
三郎
かえで
三郎
かえで
村長
村長
三郎
かえで
かえで
かえで
村長
かえで
村長
三郎
三郎
村長
三郎
かえで
三郎
それだけ言うと
三郎さんはおもむろに
懐から紙と筆ペンを取り出す。
紙を机の上に広げ、
筆ペンで何やら描く。
それは文字のような
模様のようなもので
部屋の四方に貼られている
札に描かれた模様によく似ていた。
三郎
トントンッと指先で紙を叩くと
描いた模様が紙から
ペリッと剥がれた。
かえで
山本 陸
驚く俺たちの目の前を模様は
ふわふわと漂い
障子の隙間から
するりと外へと出て行った。
山本 陸
三郎
かえで
三郎
三郎
三郎さんはそう言って笑った。
飄々としているが、
この人はとんでもない人なのではないか。
そう俺は思った。
三郎
そして、
筆ペンを持って立ち上がると
部屋に貼っている札に何かを書き足し始めた。
さすがにずっと離れにいるのは申し訳ないと思い、
夕方篠原さんが帰ってきたら
祖父母の家に帰ろうと思っていたのだが
待てど暮らせど篠原さんは戻ってこなかった。
村長は疲れて寝ているんだろう、と言ったが
かえで君は心配そうな面持ちだった。
山本 陸
村長
山本 陸
村長
村長
山本 陸
村長
山本 陸
村長
村長
山本 陸
ちらりと離れを見て、
それからこれ以上ここに居ても
何の力にもならないと思い
祖父母の家に戻った。
祖父母は少し心配していた様子だったが、
これといって変わりは無かった。
山本 陸
山本 陸
そう思って祖父母に尋ねても
神社を任されている人、としか
答えてくれなかった。
隠し事をしているという雰囲気はなく、
本当にそう思っている様子だったので
俺もそれ以上聞くことはしなかった。
主
三郎
主
三郎
主
三郎
三郎
主
主
三郎
三郎
三郎
三郎
主
三郎
主
三郎
三郎
主
三郎
主
三郎
三郎
主
三郎
三郎
ドンッ!
ドンッ!
ドンッ!
イビツナ様
イビツナ様
主
三郎
主
三郎
主
三郎
ガンッ!
ガンッ!
イビツナ様
イビツナ様
三郎
ガタガタッ!
ガタガタガタガタッ
主
三郎
主
三郎
三郎
三郎
イビツナ様
三郎
イビツナ様
三郎
イビツナ様
三郎
イビツナ様
イビツナ様
イビツナ様
ガタガタガタガタッ!
三郎
ガタガタを障子が揺らされるたびに
貼り付けたお札の端が
ひらひらと揺れる。
三郎
中指の爪が突然剥がれて
畳の上に落ちる。
主
三郎
主
主
三郎
三郎
主
三郎
人差し指の爪も剥がれる。
ガタガタガタガタッ!
イビツナ様
イビツナ様
イビツナ様
主
三郎
主
主
三郎
三郎
ガタガタガタガタッ!
ガンッ!
ガンッ!
ガンッ!
三郎
三郎
主
三郎
机の上に置いていた紙の上に
不意に姿を現す役。
その手(?)には
社の飾りがくっついていた。
三郎
三郎は己の血で
素早く紙に紋様を描き
紙の端をトントンッと軽く叩くと
役はイビツナ様がいるであろう
障子へと飛んで行き
"するり"と障子をすり抜ける。
三郎
三郎
イビツナ様
イビツナ様
イビツナ様
イビツナ様
イビツナ様
三郎
三郎は深い息を吐いて立ち上がると、
障子を開ける。
そこには
異形のモノがいた。
右腕は地面に着くほど長く。
その太い三本の指先に
鋭利な鉤爪が生えていた。
対して
左腕は
まるで赤子のように細く貧相で
爪も生えていない。
胴は細く長く
浅黒い肌から
肋骨が浮いて見えるほどだった。
両足は極端に短く太い。
そして、
頭は
鼻から上が無かった。
目も脳味噌も無い。
断面は真っ黒で
時計回りに渦巻いているように見えた。
それが
イビツナ様。
歪な様。
引きこもりの呪術師がそう名付け
この集落の守り神としての
役割を与えたモノ。
そのイビツナ様が
地面でジタバタと暴れていた。
三郎
イビツナ様
イビツナ様
三郎
イビツナ様
三郎
三郎はため息混じりに言って
懐から一枚の札を取り出す。
三郎
札に筆ペンで紋様を描くと
息を吹き掛けて
"ふわり"と飛ばした。
札はイビツナ様の胸に貼り付く。
イビツナ様
三郎
イビツナ様
三郎
イビツナ様
三郎
イビツナ様
三郎
三郎
三郎が指さした先
細い左腕が
しっかりと飾りを握りしめていた。
だからこそ、
三郎の組んだ束縛の術式が発動したわけだが。
イビツナ様
三郎
イビツナ様
三郎
イビツナ様
三郎
三郎が呼ぶと
部屋の真ん中で眠っていた男の子が
ゆっくりと起き上がる。
かえで
かえで
かえで
三郎
かえで
イビツナ様
かえで
三郎
かえで
かえで
イビツナ様
かえで
イビツナ様
かえで
三郎が右手で払うような動作をすると
札が外れて焼失した。
イビツナ様
それだけ言うと
イビツナ様は音も無く消えた。
三郎
かえで
三郎
かえで
三郎
うんうんと頷き、
これでこの事件は解決したと思われた。
しかし…。
かえで
村長
篠原さんは
自宅の庭先で亡くなっていた。
腹を
鉤爪のような物で抉られ
内臓を引きずり出されていた。
もちろん、
そんなところ子供に見せられるはずがないが。
ゴザをかけられ
青白い顔をした父親の顔を見て
かえで君は絶句していた。
かえで
かえで
かえで
大声で泣くかえで君を
近所に住む叔母さんが優しく抱きしめた。
山本 陸
その死体を複雑な表情を見つめる三郎さん。
三郎
村長
三郎
村長
村長
三郎
村長
村長は目を泳がせる。
三郎
三郎
言いながらも
三郎さんは死体から目を離さなかった。
実家に帰る前
神社にお参りしようと立ち寄ると
先客がいた。
和服姿に不似合いな
金髪が眩しい男性。
俺は三郎さんの隣に並んで、
社を見上げた。
三郎
三郎さんは煙管から口を離し
ふわりと紫煙を吐いた。
山本 陸
三郎
山本 陸
山本 陸
三郎
山本 陸
山本 陸
山本 陸
三郎
山本 陸
山本 陸
三郎
山本 陸
三郎さんはまた
紫煙をゆっくりと吐いた。
三郎
山本 陸
山本 陸
三郎
三郎
三郎
三郎
山本 陸
三郎
山本 陸
三郎
三郎
三郎
山本 陸
三郎
三郎さんは飄々として言った。
山本 陸
山本 陸
三郎
山本 陸
三郎
山本 陸
三郎
三郎
三郎
山本 陸
三郎
山本 陸
三郎
山本 陸
言いかけて三郎さんを見る。
口元こそ笑っていたが
その目は一切笑っていなかった。
三郎
三郎
三郎
差し出されたのは
一枚の名刺だった。
山本 陸
三郎
三郎
三郎
三郎
三郎さんは”パチリ”とウインクをしたので、
ついつい笑ってしまった。
山本 陸
俺は名刺を受け取ってポケットに入れた。
集落の中は相変わらず忙しそうで、
満足に見送り出来ない祖父母が
申し訳なさそうに謝ってきたが
また来ると約束して集落を後にした。
それでも気になって
帰りのバスの中で考えてしまう。
もし、
三郎さんの言うことが正しいとしたら
村上さんの犬と
篠原さんは誰かに殺された
ということだ。
だれが
どうして
というのは
考えたところでわからないが。
もし、
イビツナ様に殺されたように見せかけて
殺したというのなら、
わざとイビツナ様を怒らせたということになる。
イビツナ様が怒らなければ
似せて殺しても意味が無いのだから。
……
あの集落にはイビツナ様に対して妄信的で、
昔から住んでいる者は絶対に
社に悪戯なんかできない。
………
だが、余所者ならば…
イビツナ様を信じていない山崎くんなら
誰かに何か吹き込まれたら
後ろめたさ無く
社に悪戯をしたことだろう。
実際、
俺の目の前で
賽銭箱を蹴ろうとしたぐらいなのだから。
そして、
誰かの思惑通り
山崎くんは社に悪戯をし
イビツナ様に殺され
篠原さんをイビツナ様の仕業に見せかけて
殺すことができた。
山本 陸
山本 陸
小さな集落だ
隣近所どころか
そこに住んでいる人全員知っている
そう言っても過言ではない。
子供たちは皆、兄弟のようで
集落の人たちは皆、家族のような
固い絆で結ばれている。
しかし、その反面
余所者を毛嫌いする傾向が強かった。
そうだ
最近越して来た
余所者なら
死 ん で も
構 わ な い ……?
なんて
そんな考えが過ぎって
背筋が”ぞわり”とした。
山本 陸
そんなバカな話があるわけない。
あの集落の人たちは
みんな優しくて
良い人たちばかりだ。
ああ、そんなわけがない。
俺は頭を横に振って
考えを捨てた。
そんな恐ろしいこと…
あってはならないんだ…。
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