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いつだって

世界は闇に包まれている。

何が正解で何が不正解か。

考えることすらも莫迦らしくなるような、そんな邪念ばかりが敷き詰められている。

そうなれば、愛されたい、という願いですらも、結局は邪念であり、なに一つ正解ではない。

尤も、信じるだなんて行為は、愚か極まりなく、自身を危険に晒すだけである。

なに一つとして褒められたものではない。

ポートマフィアに拾われたのは、敦が八歳も満たなかった頃、約十年前も昔の話である。

彼の住む唯一の家であった孤児院を彼が自ら抜け出したその先で、

当時のマフィアの首領に拾われたことが、敦がポートマフィアに加入するきっかけになった。

彼が孤児院を抜け出したのは、精神的にも身体的にも耐えきれず、死を感じたがゆえだった。

己を守るために逃げた先が、他者の命を奪ったり、人には云えぬような荒事をしている組合に入ってしまったことは、

敦にとって最良の結末であるのかと問いたくなってしまうが、

ここは少々割愛をしておこう。

兎にも角にも、彼自身、ずいぶんと生きがいを感じているのだから、

他者がどうこう口を出す権利はない。

エリス

ねえ、アツシ

綺麗なブロンドの髪を緩く巻き、

鮮やかな赤ドレスをまとった可愛らしい少女は、

応接室に飾ってあった真紅の薔薇の造花を持ち出して、敦の前に差し出す。

だが、アツシは会議に出ようと支度をしていたから、少し戸惑う。

エリス

今から、お姫様ごっこをしましょう。

エリス

リンタロウと遊ぶのはつまらないから、アツシが遊んで。

エリス

はい、アツシが王子様よ

中島敦

エリス嬢は、本当に仕方のない方ですね

中島敦

時間も限られていますから、手短にお願いいたしますね

敦はエリスと呼ばれた少女から薔薇を受け取り、

その薔薇に軽く口付けをしたのち、

エリスの柔らかい髪にその薔薇を差し込んだ。

中島敦

あなたを迎えに参りました。

中島敦

ですが、まだ僕たちの仲をよく思わない人たちもいますから、

中島敦

今からその人たちを説得しに参ります。

中島敦

また、お返事をお聞かせください

と、なんともキザっぽい言葉を残し、応接室を出る。

エリス

待っているわ

さほど大きくもないエリスの声が、なぜだか頭に響き渡る。

かつかつと廊下を歩き、とある一室の扉の前に着くと、

敦は一呼吸置いた。

そして、覚悟を決めたような目つきをし、その部屋へ入る。

会議室と書かれた部屋には、もう敦の部下が勢揃いだった。

今日は初めて首領を抜いての会議である。

気を引き締めなくてはならない。

芥川龍之介

……遅かったな

黒い外套をまとった細身の男が口に手を当てそっと呟く。

中島敦

あれ。なんで龍がここにいるの?

芥川龍之介

……僕は、首領に命じられてこの場にいる。

芥川龍之介

それでは貴様の望む理由にはならぬか。

中島敦

……まあ、いいよ。

中島敦

詳しく聞いたところで、お前はどうせ答えてくれないんだろうし。

芥川龍之介。

同じポートマフィアの者であり、

敦の唯一無二の相棒であり、

かつての恋人であった。

その伏せめがちの憂いが香る瞳、

息をのむほど白いその肌、

薄い鼻と唇、

そして、瞳の奥に宿る喪失感を香らせる陰鬱さが好きだった。

だが、それはもうずいぶんと昔のことだ。

中島敦

じゃあ、会議を始めちゃおう。

ど真ん中の席へ腰をどっすり下ろし、敦は目を伏せる。

中島敦。

二十二歳。

異能力、月下獣。

『ポートマフィアの白い死神』

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