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蓮
楽屋に戻れば、こっそりノートを開く。そこには、メンバー全員の顔写真と名前、好きなもの、自分との思い出がびっしりと書き込まれていた。
『岩本照:リーダー。チョコが好き。筋トレ。厳しいけど優しい』 『向井康二:カメラが好き。寂しがり屋。俺を「めめ」と呼ぶ』 『渡辺翔太:俺を見つけてくれた人。歌がうまい。美容に力を入れてる』
ペンを握る手が震える。文字が、時折歪んで読めなくなる。 視界に霧がかかる回数が増え、楽屋の入り口が分からなくなることもあった。
辰哉
ふっかにそう聞かれると、
蓮
あの日拾われた時に持っていた黒い眼鏡をかけて誤魔化した。黒いフレームの中にいれば、自分の動揺を隠せる気がした。
それからの数週間、蓮は「目黒蓮」であり続けるために、血を吐くような努力を続けた。 楽屋の隅で、震える手でノートを書き換える。
『渡辺翔太:俺の光。命の恩人。絶対に、忘れてはいけない人』 何度も、何度も書き殴った。ペン先が紙を突き破っても、書き続けなければ全てが消えてしまう気がした。
視界は日ごとに狭まり、色を失っていく。 時折襲う激痛は、まるで脳を直接万力で締め上げるようだった。 それでも蓮は、あの日翔太に拾われた時の「黒い眼鏡」を深くかけ、表情を殺してステージに立ち続けた。
そして、運命の日は唐突に、最も残酷な形で訪れる。 新曲のハードなダンスレッスン。
蓮
……ぁ、……っ!
脳の芯を、巨大な杭で打ち抜かれたような衝撃。 視界から色が消え、音が消え、上下の感覚さえ失われる。 自分が「Snow Man」であることも、今踊っていることも、自分が「目黒蓮」であることさえも。
照
岩本の鋭い声。 けれど、蓮にはそれが自分を呼んでいるのか、わからなかった。
真都
駆け寄ってくるラウール。その顔が、溶けるように歪んで見えなくなる。
翔太
翔太の声だ。 その声に向かって手を伸ばそうとした瞬間、蓮の意識の糸が、音を立てて断ち切れた。
蓮
声にならない呻きと共に、蓮の膝が砕ける。 あの日、雨の路地裏で倒れた時と同じように。
翔太
翔太の悲鳴が、練習室の天井を突き抜けるように響き渡った。 床に叩きつけられた蓮の体から、力が抜けていく。
白い天井、規則的な電子音。 目黒蓮が目を覚ましたとき、視界はひどく白濁していた。
翔太
掠れた声に視線を向けると、ベッドの脇でパイプ椅子に座り、今にも崩れそうな顔をした渡辺翔太がいた。いつもの完璧なアイドルとしての姿はなく、髪は乱れ、瞳は真っ赤に充血している。
蓮
翔太
翔太が立ち上がろうとしたとき、蓮の細くなった指先が、その袖口を微かに掴んだ。
蓮
主治医が入ってくる。廊下には、岩本を先頭に残りのメンバーが、今にもドアを蹴破りそうな勢いで立ち尽くしていた。
翔太
翔太が詰め寄る。しかし、医師は蓮と視線を交わすと、苦渋に満ちた表情で口を閉ざした。
医者
翔太
翔太の怒号が響くが、医師はそれ以上何も語らず、処置を終えて病室を出ていった。 蓮は力なく微笑んだ。
蓮
翔太
翔太が蓮の肩を掴む。しかし、蓮の体は驚くほど軽く、そして冷たかった。 蓮はあの日拾われた時に持っていた、あの「黒い眼鏡」を震える手でかけた。
蓮
その夜。メンバーが無理やり帰された後、病室には沈黙が流れていた。 翔太だけは、納得がいかずに病室のドアの外に立ち尽くしていた。
すると、中から微かな声が聞こえてきた。蓮が、一人で医師を呼び戻したのだ。
蓮
途切れ途切れではあるが、ドアの隙間から漏れたその言葉に、翔太は息を止めた。
医者
蓮
医者の言葉で確信した。壁一枚を隔てて、翔太はすべてを知ってしまった。 蓮が独りで背負ってきた、絶望。
自分を見つけてくれた世界を守るために、彼は自分の存在が消えていく恐怖と戦っていた。 翔太は、ドアノブを掴もうとした手を、強く握りしめた。
バカかよ、お前……。一人で何背負ってんだよ……
廊下に崩れ落ちた翔太の頬を、熱い涙が伝う。 窓の外には、あの日と同じ青い月が、残酷なほど静かに浮かんでいた。
明日には、また誰かの名前を忘れてしまうかもしれない。 そんなカウントダウンが始まっていることも知らずに、他のメンバーは蓮の回復を信じて、それぞれの場所で祈っていた。
蓮
翔太
蓮
翔太
蓮
生涯最大の嘘をついた。
蓮
病室の窓から差し込む夕日に照らされた蓮の笑顔は、透き通るほどに美しかった。 翔太は、その細くなった体を力いっぱい抱きしめた。
翔太
翔太は知りながらも、蓮の隠す、という気持ちを尊重している。
真都
ラウールが泣き笑いで蓮の背中に飛びつき、康二がカメラを構えて「めめの最高にかっこいい顔、撮らせてや!」とはしゃぐ。
岩本、深澤、阿部、宮舘、佐久間——全員の瞳には、希望の光が宿っていた。 ライブが始まり、蓮は誰よりも激しく、誰よりも高く踊った。
あの日、翔太に手を引かれて見た世界。 そこに自分が存在している証明を、一分一秒、網膜に焼き付けていく。
蓮
あ、やばい、、、あとちょっとなのに、、
限界、か、笑
翔太
翔太の異変に気づいた叫びが、爆音のBGMを突き抜けて蓮の耳に届いた。 蓮は、自分を支えようとする翔太の手を、一瞬だけ強く握り返した。
蓮
蓮はそっと、舞台裏にはける。 蓮の瞳から光がゆっくりと消えていく。
ライブ終わり、翔太によって運ばれ、楽屋のソファに横たわる蓮は、ゆっくりと目を開けた。だが、そこに宿っていたのは「トップアイドル・目黒蓮」の自信ではなく、怯えきった、あの日泥の中にいた少年の目だった。
亮平
阿部亮平が心配そうに身を乗り出す。しかし、蓮はその瞬間、ガタガタと体を震わせ、ソファの隅へと這うように逃げた。
蓮
亮平
阿部が優しく手を伸ばそうとする。だが、今の蓮の目には、阿部の理知的な眼鏡も、心配そうな表情も、かつて自分を囲んで嘲笑っていたいじめっ子たちの姿に重なって見えていた。
辰哉
康二
深澤や康二、ラウールたちが次々と声をかけ、蓮を取り囲む。
涼太
大介
照
翔太
何重にも重なる「名前」を呼ぶ声。仲間たちにとっては愛の証明であるその合唱が、蓮にとっては、逃げ場のない教室で浴びせられた罵声の濁流へと変わる。
蓮
蓮は両手で耳を塞ぎ、喉が千切れるほどの悲鳴を上げた。
蓮
照
岩本照が、その混乱を鎮めようと強い力で蓮の肩を掴んだ。 しかし、その屈強なガタイと鋭い眼光が、いじめの主犯格の男と完全にリンクする。
蓮
蓮は岩本の手を振り払い、床に転がり落ちた。 過呼吸で喘ぎ、床を掻きむしりながら、彼は絶望的な言葉を吐き出した。
蓮
大介
康二
その場にいた全員が、心臓を素手で握り潰されたような衝撃を受けた。 自分たちが愛し、守り、共に高みを目指してきた仲間が、自分たちの顔を見て「死にたい」と泣き叫んでいる。
翔太
静寂を切り裂いたのは、翔太の怒号だった。 翔太は、パニックで自分の顔を引っ掻こうとする蓮を、後ろから強く、壊れそうなほど抱きしめた。
翔太
翔太の腕の中で暴れていた蓮の体が、その声を聞いた瞬間、嘘のように硬直した。 蓮は恐る恐る、涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げた。
蓮
翔太
蓮は、翔太のジャケットの裾を、指が白くなるほど強く掴んだ。
蓮
翔太の胸に顔を埋めて咽び泣く蓮。 その姿を、一歩離れた場所で見守るしかない7人のメンバー。 彼らの頬を、静かな涙が伝う。
自分たちの存在が、愛する人を追い詰める凶器になってしまった。その事実が、何よりも彼らを絶望させた。
楽屋の外には、皮肉にもアンコールの声を上げるファンの歓声が響いている。 だが、この閉ざされた空間には、ただ、一人の少年の悲痛な祈りと、それを抱きしめる絶望だけが満ちていた。
蓮
翔太
突然の言葉にみんなびっくりする
翔太
アンコール
Dear,
照
蓮
亮平
辰哉
康二
涼太
真都
涼太
亮平
辰哉
照
大介
蓮
翔太
康二
真都
蓮
大介
辰哉
翔太
亮平
康二
大介
涼太
真都
蓮
翔太
康二
全員
蓮
体の力が抜ける
翔太
康二
大介
真都
亮平
翔太
康二
涼太
真都
大介
亮平
照
辰哉
翔太
翔太
蓮
意識はそこで途切れた
蓮
翔太
そう、聞こえたような気がした
主
主
主
主
主
主
主
主
コメント
1件
いや、最後まで読み終わったんだけど…マジで泣いたわ。蓮が一人で抱え込んで「最強の目黒蓮」でいようとする姿が胸に刺さりすぎた。翔太が全部知ってなお、蓮の気持ちを優先してそばにいる選択、めちゃくちゃ重いし尊い。アンコールの歌詞のとこで自分たちの声が消えてく表現、演出として天才的だと思った。めちゃくちゃ刺さる作品だった…ゆそさん、ありがとう。
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