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とある冬の日

類!すまない、待ったか?

フフ、待ったねぇ…

この男はオレの恋人

なんというか…

マフラーがよく似合う男だ

司くん?

って…素直すぎるだろ!

すごく間があったけれど?

な、なんだっていいだろ別に!

空を眺めながらオレを待つ、 オマエの横顔はあまりにも魅力的で

それじゃあ、そろそろ行こうか

ああ

(…見惚れていただなんて言ったら、一体類はどんな顔をするのだろう)

うおお…綺麗だなあ

…来年も、また僕と共に、ここへ来てくれるかい?

どこか寂しげな顔でそう話している

まるで、 お前に来年なんて来ないかのような

そんな、笑えない冗談を考えてしまう自分が嫌いだ

…もちろんだ

来年も、再来年だって一緒に来よう

…ああ、そうだね

そう微笑む類の顔を見て、オレはお前への気持ちが溢れては止まらなかったんだ

…好きだぞ、類

…!

いきなりどうしたんだい?(笑)

お前への気持ちが溢れて止まらなかったから、そう伝えたまでだ!

僕も…君のそういうところ、一生好きだと思うなあ

オレも、類のことずっーと好きだぞ??

だから、類

ずっと一緒に居ような

…ああ、ずっと一緒だ

その時、冷たい風が頬をすり抜ける

…ううっ、寒っ!

風が冷たいなぁ…

フフ、司くん、耳も鼻も真っ赤だね

そういうお前も!

…鼻水が出ているぞ?

えっ?

全く…ほら、ティッシュだ

ああ…すまないね

子供じゃあるまいんだから、お前もポケットティッシュくらい常備しておけ!?

でも、流石司くんだね

当たり前だ!

というか、お前はそもそも薄着すぎるのだ!

この寒さ、雪だって降りそうだぞ?

フフ、それは楽しみだねぇ

オイ!

そんなことを言っている場合じゃ…

って…雪?

おや、本当だね

うう…そう思うとなんだかもっと寒くなってきたな…

そうかい?綺麗じゃないか

お前…寒くないのか?

いいや、流石にねぇ

寒いんじゃないか!!

ほら、お前に風邪をひかれては困るのだ!

…手袋?

仕方が無いからな、片方だけ貸してやる

…サイズ合うかなあ

は!?
流石に入るだろう!?

ふふ、少し小さいけれどしっかり入ったよ

悪いな小さくて!だが、お前の指が無駄に長いのが悪いんだからな

いやあ、それほどでもないよ

別に褒めてはいない!

…司くん

ん?どうしたんだ改まって

…実は僕――

――キーン

なんだ…この…

耳鳴りか…?

視界が暗くて…

なんだかおかしな感覚だ…

――でね

――だ

――た―よ

…声?

誰か、居るのか…?

でも、真っ暗で何も…

――!?

――い!

――ゃんが…!

なんて、言っているのだろう

なんだか…意識がぱっとしない

…あれ、まぶしい

ここは…どこだ?

――ゃん

ああ、また…この声だ

咲希

―お兄ちゃん!!

あれ…

…咲希?

咲希

ああっ…良かったお兄ちゃん…!!

咲希

アタシのこと、分かるんだねっ…!?

咲希

先生、呼んであるから…!もうすぐで、来てくれると思うからっ…!!

先生…?

一体、なんの…

…さっきから、何を言っているのだ?

咲希

……覚えてない、の?

…ああ

覚えていない?

覚えていないって、何を…

忘れていることなんか…オレには何も…

咲希

――お兄ちゃん、飛び降りたんだよ

……えっ?

咲希

…お兄ちゃんが起きたら、たくさん叱るつもりだったのに…

咲希

覚えてないだなんて、そんなのズルいよっ…

ああ…

オレは何をしているのだろう

咲希を泣かせてしまうような事をして

…すまん、咲希

咲希

――るいさんの事があったからでしょ?

……は??

なんで…なんで今、類が出てくるんだよ…??

咲希

お兄ちゃんが飛び降りたのって…

咲希

るいさんが亡くなってしまったからなんでしょ…!?

……え

し…

しんだ…??

…類が

そ、そんなはずない…!

オレはだって…クリスマス、一緒にまた…って……

咲希

クリスマス…?

咲希

今はもう…

咲希

春だよ、お兄ちゃん

…えっ?

咲希

…お兄ちゃん、4ヶ月も眠ってたんだよ

咲希

…るいさんが亡くなった次の日、

咲希

…クリスマスの日に、お兄ちゃんは……

……あ

思い出した

全部、全部思い出した

……類っ

こんな…オレだけだなんて…

オレは、類が居ないと…もうっ……

咲希

お兄ちゃん…

あのクリスマスは、全部…全部全部っ……!!

…来年なんて、夢のまた夢だったっていうのか…??

12月のとある日

お前とふたりで買い物も、まあまあ久々じゃないか?

ああ、そうだね

確かに、行ったのは随分と前に感じるよ

クリスマスツリーだなんて…あっという間にもう、クリスマスの季節なんだな

クリスマス、司くんは楽しみかい?

えっ?ああ、もちろん楽しみだぞ

なんせ、類と付き合って初めて迎えるクリスマスなのだからな!

…楽しかったねぇ

む?

この間、海に行っただろう?

夏は忙しくて、ふたりきりでは海に行けなくて…

それで、せっかくだからって冬の季節だけれどふたりで行ったりしただろう?

ああ、あれは楽しかったなあ!

だがしかし、海は冬に行くものでは無いな…

風も海も、スゴく冷たくて…

海水をかけると司くん、子供みたいに怒って僕に仕返ししてきたよねぇ

な!?

だがあんな寒い日の中、いきなり顔に海水をかけられる身にもなってみろ!!

それは君も同罪だろう??

くっ…何も言い返せない…

フフっ

それもだが、クリスマスも楽しみだな、類!

…うん、そうだね

あっ…何か予定でも入っていたか??

…ううん、何も

クリスマス、楽しみだね、司くん

―司くん

次はどこ行こうか?

初デートはベタに、遊園地だったなあ

片思いしてた時と変わらないドキドキで

すごく楽しかったし、幸せな時間だった

―司くん!?

だ、大丈夫かい…!?

ああ…これは、類に告白された時の…

オレ、嬉しくって、信じられなくって その場で大泣きしちゃったんだ

ショーの練習が終わっての帰り道

あの時の空気、類の表情、空

全部、さっきのことみたいにハッキリと覚えてる

類、オレがいきなり泣き出すものだからすっごく心配してたな

風があたたかい…

(もう、春だからだろうか)

長かったようで短かった類とオレの思い出が、次々に蘇ってくる

オレが今こうして息をしているのは、きっと類のおかげなんだと思う

「僕ひとりだけでいいんだよ」って

そう思ってくれたのかもしれない

だけどお前だけだなんて、 そんなのズルいに決まってる

別に 類の良心を蔑ろにしたい訳じゃない

けど、オレはもうお前の居ない世界でなんて生きてはいけないんだよ、類

お前の思っている以上に、オレはお前を必要としていたんだ

だから、オレはお前のしたことを許せない

けどそんなことももう、 オレには言えない

から、今回は許してやる

だけど今回だけ、特別だ

今まで本当に、後悔だらけだ

だけどもう、大丈夫

今はなんだか、今まであったこと全部

不思議と受け入れられている気がするんだ

アイツらと舞台に立てていたこと、

咲希の兄であったこと、

そして、類

お前の恋人であれたこと

オレは全部、心の底から感謝をしてもしきれないくらいに感謝している

そして何より、誇りに思う

…ほんと、短かった

…けど、ありがとうは言えるんだ

類、ゴメンな

そう呟くとオレは、空中に身を投げた

この感覚は、はじめてじゃない

二度目だからなのか、自分でもよく分からないが、こんな状況でも気持ちは不思議と落ち着いていた

類のことを想いながらもそっと目を閉じると、地に横になるその瞬間まで、

そして、地に着いてからも

オレが再び目を開けることは二度となかった

我ながらズルいと思うよ

こんなにも暖かい気持ちで寝れているのだから

類、もうすぐ会えるよ

その時は夏に海、 一緒に行こうな

END

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