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いるま
いるま
いるま
手を前に突き出して俺の前に立ちはだかる彼が
かつての親友と重なる
その表情は似ても似つかないけれど…
とはいえ
他人のそら似として片付けられるような
そんな簡単な話でもなかった
確信があったのだ
この男が
俺の親友“暇なつ”であるという確信が…
うまく言語化できないが
俺には分かる
そして同時に感じ取った
こいつは俺と違って
“あの記憶”を持っていないことを
目の前に立ちはだかる今の彼は
もはや俺が知っている彼ではない
でも彼なんだ
“なつ”なんだ
矛盾してる…って?
知ってるよ
でもそうとしか言えないんだ
いるま
いるま
動揺と怒りの混じり合った声で
少し幼くなった彼の名を呼ぶ
喜びたかった
笑い合いたかった
魂の入れ物は違っても
大好きだったおまえに こうしてまた会えたのだから
俺が名前を呼んで
その声で記憶を取り戻したおまえが 駆け寄ってきて
俺の名前を叫びながら
無邪気に俺に抱きついて…
それで……、
そんな夢物語が
現実になるはずもなかった
俺の言葉に一切の反応も見せず
関心も持たず
彼は唯
俺に冷たい視線を向けるだけだった
この視線
見覚えがある
いつだったろうか……
___そうだ
思い出した
彼は過去一度だけ 戦闘中に暴走したことがあった
俺が彼を庇って 敵に滅多刺しにされたときだ
朦朧とする意識の中
人が変わったように無慈悲に人を殺す彼の姿に 恐怖すら覚えた
戦場に立つことが多く 殺すことが日常と化していた俺たちだが
人間の心がなかったわけではない
戦意を喪失した者には それ以上手をかけなかったし
降伏は快く受け入れた
だがあのときの彼は違った
怒り狂った彼は
地面に伏せて命乞いする敵兵を鷲掴み
その圧倒的な魔力をもって
一切の躊躇なく
その全身を押し潰したのだ
あの、体中の骨という骨が砕ける音ほど 不快な音はない
あのときの視線にそっくりだ
感情のない、冷たく曇った眼
残念なことに
今その視線が向けられているのは あのときの敵兵ではない
そう
俺だ
そうか…俺は今
おまえの敵なんだな
いるま
そう自覚した途端
胸の奥がキュウと痛んだ
苦しい
空気が重い
肺がうまく膨らまない
呼吸とは
こんなにも難しい行為だったろうか___
いるま
予期せぬ衝撃に全身が硬直する
ッ何が起こった……?
闇夜を淡く照らす紅みがかった満月
頬を削る冷たいアスファルトの感触
口内を充満する鉄の味
数秒前まで自身のいた倉庫を視界に捉えた俺は
己が倉庫外に吹き飛ばされたのだと悟った
いるま
続いて
下敷きになった右肩に強い刺激が走る
どうやら脱臼してしまったようだ
が
怪我をすることに慣れてしまった俺にとって
脱臼程度 かすり傷ですらなかった
死ぬわけじゃないし
慣れた手つきで肩をはめ直した俺は
右手に握った剣を杖替わりにし
痛みの引いてきた患部を庇いながら
のろのろと立ち上がる
コツ…コツ…コツ…
おおっとここで
俺を吹き飛ばした張本人様のご登場だ
休む暇(いとま)もない
もうちょっとゆっくり来てくれても 良かったんだけど
いや…
肩はめるの待っててくれただけマシなのか?笑
いるま
大きく息を吐き
呼吸を整える
わかってた
わかってたさ
認めたくないが
この男は
俺を殺す気だ
彼の瞳には一切の慈悲もない
まるでプログラムされた殺人機械人形のようだ
今世の彼をこんなふうに育てた人間に腹が立つ
その人間は俺たちのこの状況を
今も何処かで
高みの見物でもしているのだろうか
そいつを真っ先に 潰しに行きたいのが本音ではあるが
この場から離脱することは 目の前の彼が許さないだろう
戦いたくないなどと 戯(たわ)けたことをほざいている場合ではない
戦う以外の選択肢はないのだ
でなきゃ俺が殺される
………
戦ったからといって
死なない保証はどこにもないのだけれど
彼の強さは
俺が一番知っているから………
俺はこの瞬間初めて
今日この場に忍び込んだことを後悔した
こんなところに来なければ こんな思いしなくて済んだかもしれない
こんなところに来なければ 彼と戦わずにいられたのかもしれない
こんなところに
来なければ___
そう思ったところで後の祭り
状況が好転するはずもない
いるま
愛剣を両手で強く握り
その切っ先を彼へと向ける
いい加減
覚悟を決めなければならない
親友を手に掛けるという覚悟を__
だんだんと近付いてくる人形のような彼に
俺は口角を上げてこう言い放った
いるま
いるま
いるま
あくまで平静を装って
彼に向かって駆け出す
この震えを
恐怖を
不安を
決して悟られぬように
ポタタ…
アスファルトに滴(したた)る赤黒い液体
いるま
暇72
いるま
戦況は思ったよりもこちらに不利だった
涼しげな顔で魔法を放つ彼とは対照的に
滝汗を流しながら懸命に剣を振るう俺
技術、戦術はともに互角
俺がここまで追い詰められたのは
精神状態に問題があった
一度覚悟したとはいえ
親友を故意に傷つけることは容易ではない
なにせ
彼との思い出がフラッシュバックするのだ
一太刀剣を振るうたびに
心のライフが削られる
初めて言葉を交わしたあの日
一緒にご飯を食べたあの日
ぬくもりを分け合いながら眠りについたあの日
俺のために怒ってくれたあの日
俺のために傷を負ったあの日
無心でいようと努めるも
太陽のようなあの明るい笑顔が脳裏にちらつく
苦しい
辛い
悲しい
どうしろというのだ
いるま
そんな事を考えている間も
彼の攻撃の手は緩まない
死角から繰り出された攻撃を間一髪で回避するも
髪の焼け焦げた匂いが鼻を劈(つんざ)いた
そしてついに
最も恐れていたことが起きてしまった
__ガキンッ!
いるま
俺の手を離れて宙を舞う愛剣
まずい
俺は一瞬にして
攻撃手段かつ防御手段を失った
ここぞとばかりに手数を増やし
俺を仕留めにかかる彼
いるま
これでは剣を回収するどころか
致命傷を避けるだけで精一杯である
いるま
そんな状況がどれくらい続いただろうか
暇72
いるま
彼の攻撃が一瞬弱まった隙を見逃さなかった俺は
態勢を立て直すため彼から距離を取る
がしかし
いるま
ふとした拍子に脚がもつれ
その場に座り込んでしまった
立ち上がろうと踏ん張ってはみるが
再び地面にくずおれる
足の筋肉が痙攣して思うように動かせない
精神的にも肉体的にも
俺はすでに限界を迎えていたのだ
上手く力が入らない
もう
体が言うことを聞かない
ここまでか
咄嗟に顔を伏せる
悔しい
何処かで期待していた
どうにかなるんじゃないかと
なんだかんだ彼を救えるんじゃないかと
そんなわけないのに___
俺、めっちゃバカやん
己の意思に関係なく
自然と溢れ出る涙
このような感情を
人々はこう呼ぶのだろう
絶望、と
コツ…コツ…コツ…
体を丸めてうずくまる俺に
黒い影が落ちる
俺が動けないのがわかっているのか
無駄にゆっくりと歩いてきた彼は
俺の目の前で静止した
こんなときでさえ彼の眼は
一切光を通さない、曇ったまま___
冷たい風が
血で濡れた衣服の向こうにある俺の皮膚を撫でる
暇72
いるま
眩しい
眼前で展開された巨大魔法陣の光に目が眩む
逆光が
彼の表情(かお)を隠した
これは……
もう無理だな
己の死を確信した俺は
全身の力を抜く
これ以上の抵抗は無駄
痛いだけ
てか、もう
動く気力もねー
一つ大きなため息をつく
放っておいても今日中には散る命だし
なら
こいつに殺される方がマシ
かな、?笑
心のなかでくすっと笑う
………でも
俺は思い出したかのように
彼へと手を伸ばす
少しでいいから
もう一度
お前に、
ッ触れたかったな
暇72
暇72
俺を安心させる温かな声
暇72
全身を包み込む 俺よりも少し大きな体
暇72
暇72
あのとき感じたお前の体温が
堪らなく恋しい
いるま
俺は呼ぶ
この世で一番大切な人……
大切にしたかった人の名を
いるま
届かなくてもいい
心に響かなくたっていい
だって
俺が呼びたいだけなんだから___
これは俺の
ただの自己満足だ
いるま
魔法陣の放つ光が強くなる
ここに来たことに対する後悔は消えていない
顔だけ見せられて
話すらさせてもらえないなんて
神様はなんて残酷なんだろう
でも____、
俺は目を閉じた
再びおまえと出会えた
この奇跡に
感謝を
コメント
1件
ああ、もう…読んでて胸が締め付けられたよ…。いるまの「なつ」呼びが切なすぎる。親友の身体は別だけど確かに“なつ”だと分かってるのに、向こうは記憶なくて冷たくて、でも戦わなきゃ♡♡♡れるって絶望…。最後の「再びおまえと出会えた奇跡に感謝」って、死を受け入れながらもそれでも彼を想う気持ちが泣けるわ。強いな、いるま。剣落としてからの無力感とフラッシュバックが辛い。続き早く読みたいけど心の準備が必要だわ…。