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エミ
私はアパートで一人、 彼の帰りを待つ。
彼氏と同棲をはじめてから、 一年になった。
しかし以前住んでいたアパートから 急に彼は引っ越すといって、 この部屋には一週間程前に越してきた ばかりだ。
部屋にはまだ荷解きしていないダンボールが積まれてある。
外ではだんだんと小雨が降り始めているようだった。
ゆず
エミ
愛猫のゆずは寂しいわたしの話し相手だ。
エミ
出会ったときから彼は、時間にルーズな ところがあって、今ではそれも仕方ないと 半ば諦めている。
エミ
ゆず
エミ
思わず、ゆずに愚痴をこぼす。
私は退屈しのぎにテレビをつけて 彼の帰りを待っていた。
──雨が強く降り始めた。
カズキ
時間は夜の11時。
明日までに提出する資料の作成に追われて、この時間まで残業していた。
車を走らせる道路は真っ暗で、こんな時間に帰ることはめったにないから、俺は少し不安を感じていた。
──後部座席がやたら気になる。
カズキ
あんな出来事があってから、俺は常に不安に付き纏われていて気が休まる事が少なくなっていた
夜中の道路は小雨が降っていて、 街灯も少なく、静かだった。
薄気味悪さを感じながら、何も考えないように自分に言い聞かせる。
──俺がアパートを引っ越したのは つい最近のことだ。
あんな事が起きる前までは、幽霊だとか そういったものを信じてはいなかった。
すると、横から突然人が目の前の道路を 横切った。
慌ててブレーキをかける
手前で車は止まる事ができたが、 その影は何も言わずに通り過ぎていった。
カズキ
さっきまで小雨だったのがだんだん強く降り始めてきた。
さっきの出来事もあって自分の心臓の音が早くなっている。
不安をなんとか押し殺して、夜中の道路を進んでいく。
車から降りて雨に濡れながら、 ようやく家に帰り着いた俺は 玄関の戸をあける。
ギィ……。玄関の扉の音が真っ暗な中 よく響いた。
カズキ
自分の後ろに誰もいないことを確認して 手早く鍵をしめた。
カズキ
もう引っ越したんだから大丈夫。何もないくせにまだ不安がっている自分が少し情けなくなった。
靴を脱いで部屋にあがる。
カズキ
──つい口をついた独り言が、 誰もいない部屋に虚しく響いた。
カズキ
足に何かが掴みかかった。
急いで電気のスイッチを探り、部屋の電気をつける。
焦りのあまり、何度か壁を探ったが スイッチを探し出せた。
……カチッ
ゆず
カズキ
そこにいたのは、まだ彼女がいた頃 ペットショップでねだられて 飼い始めた、猫のゆずだった。
自室に行くと消して出たはずの テレビがついていた。
ゆず
カズキ
そう言ってテレビを消した
きっとリモコンにじゃれついて テレビの電源がついたのだろう。
俺はそう思って、明日に備え シャワーを浴びて寝る準備をした。
──俺の彼女だったエミは 半年前に亡くなった
彼女の葬式の日 葬儀会場でエミの遺影を見ても なんだか現実感がなかったっけ。
以前から彼女はよく 偏頭痛に悩まされていた。
そして、俺が仕事で家を空けた日 突然道路で倒れた。
近所の人が救急車を呼び すぐに運ばれたが
処置の甲斐もなく 天国へ旅立ってしまった。
──思いもよらない突然の出来事で 何も考えられなかった。
エミのお葬式に行き 棺桶に花を添えるとき エミの眠ったような 安らかな顔をみると 自分の心臓が冷たくなって、 その、冷たさが全身に 広がっていくようだった。 俺は申し訳なくて エミの両親に向ける顔がなかった。
エミの母
カズキ
カズキ
エミの母
エミの母
エミの母
カズキ
カズキ
エミの母
しばらくは何もする気になれず、 ただ同棲していたアパートで、 だらだらと暮らし続けた
仕事もそこそこに 引きこもりがちな日々だった
休日はただ、ぼおっとテレビをつけて 飼い猫のゆずの世話をして過ごした。
そんな時に違和感が起こり始めた
物の位置が変わっているだとか、 パキッという音や足音みたいなものが 聞こえるだとか、そういったことが、 まあ、ささいな違和感で済むことなのだが、頻繁に起こるようになっていった。
そしてある日の夜。
夜中に目が覚めた。
すぐに寝直そうと布団をかぶる
しかし、なにか違和感のようなものを 感じた俺は、布団の隙間から 部屋の様子を眺めてみた。
布団の隙間から覗くと、赤いスカートからまっすぐのびた女の足が こちらを向いて立っていた。
恐ろしく、布団をあげて、顔まで見る気にはとてもなれなかった。だが、肌は青白く、生きている人間のものではないと、すぐにわかった。
それがだんだんと近づいてくる、
逃げることもできずに 布団をかぶって目を瞑った
カズキ
──しばらく何の音も鳴らなかった
そう思ったのも束の間
冷たい人の手に足首を掴まれた。
俺が金縛りのように動けずにいると、 次第にそれが太腿まで上ってきて 徐々に、布団から 這い上がってくるようだった。
ゆず
ゆずがそばで 威嚇をしている
カズキ
焦った俺は無理矢理に布団から 飛び出した
そして、勢いよく布団をめくったが そこには何もいなかった。
つぎの日の出勤日になった。
少し前に社内研修があり、みんなで記念に 撮った写真を机に乗せて見ていた。
俺はエミがいなくなったばかりで 落ち込んでいたのだが 塞ぎ込んでいた俺を心配した同僚に 強く進められ、参加していた。
一人の上司が言った
上司
上司
カズキ
そこには、髪の毛で顔はみえないが 女性の姿がぼんやり透けて写っていた
海岸で並んで撮った写真の中 俺の斜め上に彼女が写っている
長袖のブラウスに 赤いスカートを着ている
その赤いスカートには はっきり見覚えがある
エミのお気に入りの服だ。
カズキ
そういえば、あの時勝手についていた テレビのチャンネルは エミがよく見ていた バラエティ番組だったことを思い出す。
もしかしたらエミは自分が死んだことに 気がついていないのかもしれない。
なにかのオカルト番組で そんな話を聞いた事がある
その日から、家の中の不思議な出来事は エミが見守っているのだと 思うことにした。
俺自身、エミがまだ そばにいた事に、嬉しさを感じた。
そして、つぎの休みの日になった。
俺は家でただぼおっと テレビをつけていた。
ゆず
ふと、ゆずが何もない へやの空中に向かって 鳴きだした。
ゆず
まるでそこに誰かがいるかの様子で
鳴き声はしばらく続いた。
だけど俺は疲れていたので しばらくテレビに向かっていると
──プツン
テレビの電源が ひとりでに切れた
カズキ
もう一度電源を付けようとしたが リモコンを向けても反応がない
ふと、ゆずに目を向けると
ゆず
ゆずは警戒するかのように 部屋のすみで 何も無い場所を見ていた。
カズキ
俺は部屋にいるはずの エミに向けて 言葉を発した。
カズキ
もちろん返事が返って くるはずもないが。
すると今度は部屋の 電気がフッと消えて 真っ暗になった
カズキ
カズキ
その時俺は何かを感じて スッとテレビの画面に視線を向けた
だんだんと、 そこに つっ立った 女性の姿が浮かびあがる
ぼんやりだが 確実に エミの姿だった。
エミ
カズキ
エミ
語りかけても 顔をじっと見ているだけで 何も言わなかった
カズキ
カズキ
エミ
いつしか画面から浮かび上がり 俺の目の前にエミの 顔があった
口元がゆっくりと動く
エミ