優
…いないか…。
彼女が家を出てから早30分近く。
体力からしてさほど遠くには行けないはずだが、一向に見つからない。
近くには学園・人里・博霊神社・魔法の森ぐらいしかない。
なのに、見つからない。
いくら探しても影すら掴めない。
よりによって見つかったのは元パートナーだった。
赤尾
…空渚?
優
…なんですか?
彼の猫の様な耳が見える。
横には耳はあったが、偽造…つまり偽物の人耳だった。
瞳の下の赤い線がはっきり見えて何かトラウマを呼び起こしそうだった。
僕はこの人が少し苦手だ。
この人の逆鱗に触れると、取り返しのつかない事になるから。
赤尾
なんでこんな時間帯にいるんだ?
良い子は寝る時間だぞー。
優
子供扱いしないで下さい。
これでも14です。
赤尾
14は未成年だぜ?
優
そうですね、貴方は何歳でしたっけ?
赤尾
16!
優
お互い様じゃないですか!
赤尾
そうだな!
んで、お前なにしてんだ?
優
…葵を探してるんですよ。
赤尾
葵?ああ…ゼルか。
優
はい。見掛けませんでしたか?
赤尾
そうだな…見てないな…。
何かあったのか?
優
喧嘩をしまして…。
赤尾
喧嘩?
優
…いつものです…。
赤尾
ああ…珍しいな、ここまで発展するなんて…。
優
すみませんね、迷惑で。
赤尾
迷惑…まぁ、そうかもな…。
ただ、お前らしいと思うぞ?
優
お前らしい、とは?
赤尾
そうだな…好きな人の為には身を張る…馬鹿馬鹿しいが、それがお前だからな。
…だんだん、本当にバレてるんじゃないかと冷や汗がしてきた。
元からこの人は勘がいい。とても鋭い人だ。もし、バレているなら…。
優
(…怖いな)
赤尾
まぁ、俺も探してやるよ。
優
…有り難うございます。
僕は葵の事になると暴走するのは悪いと思ってる。
けど、本当に無理なんだ。止めるのは自分でも無理なのは、きっと処理が追いつかないからだろう。
そこまで先にいってしまうのは必死だから、夢中になってるのかもしれない。
確かに好きだ、いや、大好きだ。
それが彼女にとってどんな境界にあるのかは知らないけれど、
それが一番、伝えたい事だ。
何故こうなったかなんて知らないし、誰かが悪いわけでもない。これは僕のある事と彼女の甘さだろう。
赤尾
なぁ、空渚。
ゼルを気にいった理由ってなんだ?
優
…へ?
赤尾
だから、なんでアイツをパートナーにしたってような事だよ。
優
………。
赤尾
…初恋とかか?
優
…なんで、そうなるんですか。
赤尾
お前、殺意とかって言ってただろ?
ゼルに聞くとアイツ必ず誤魔化すか分からないって返してくんだよ。
優
知りませんよ。
僕はー。
赤尾
僕は?
優
…ただ…。
赤尾
!…空渚!
あれ、ゼルじゃー。
優
じゃないですね。
ただのゴミ袋じゃないですか。
赤尾
見つけたと思ったんだがなぁ…。
優
(とりあえず、助かったな。)
優
赤尾さん、貴方はどうして此処にいたんですか?
赤尾
んー?
ああ、まぁ人間の魂を回収しにな。
優
どんな人間の?
赤尾
なんか、アンチ?って奴等のせいで自殺した奴の魂。
優
アンチ…?
赤尾
なんかな…ネットってあるだろ?
その中にある作品とかに悪口を書き込む奴等の事だとさ。
優
悪口…。
赤尾
ああ、死ねとか馬鹿とか色々あったぞ。
優
…相手は人間同士なんですか?
赤尾
そりゃ、そうだろ。
そんな馬鹿馬鹿しい事するのは人間しかいねぇよ。
優
…それも、そうですね。
赤尾
お前はどう思う?
同じ種族でぶつかりあってる、人間の事。
優
…分かりません。
赤尾
俺はそんな事をして意味があるのかと思うんだ。
優
意味?
赤尾
ああ、物事には意味があるだろう?
だが、これには意味が無い。
人は得を求める。何故損も求める?
これは損だけを求める、あまりにも馬鹿な事だ。
赤尾
正直、皮肉なもんさ。
俺達にとっては面白い事に過ぎない。醜さを全面的に出してくれているのだからちょっとした駆け引きのゲームが出来る状況にもなりうる。
優
赤尾さん…人間は何がしたいのでしょうか…?
赤尾
さぁな…目の前にいない人間を言葉で痛めつけて何が楽しいのやら。
どうせなら正々堂々目の前で言い合っていればいい。
ネットにある言葉でなんて面をあわせていないのだからなんでも言える。
赤尾
勇気を簡単に出せる。
面白いくらいにな。
優
そうですね…自殺した方は…。
赤尾
耐えきれなかったんだ。
心が脆かった。
精神が限界に達してまで人は口を止めなかった。
自殺した奴が報告された時、口は閉じる。
誘導した奴から生まれるのはなんだろうな。
恐怖か、達成感か、それとも呆れか。
赤尾
どっちにしろ、ソイツの心は染まってるだろう、真っ黒に。
優
………。
この後、結局見つからなかったが、彼女は帰ってきた。
説明には納得出来た為、もういいとしよう。
冥界に怒られるのは憂鬱だが。