消えた暁月

ねぇ、情報屋の中で特に優秀な奴って誰？

お前……この辺の人間じゃねぇな？

子供だし…此処は危ねぇから、 とっとと安全なところへ逃げな

…お気遣い感謝するよ

でも、君よりはいくらか年上だと思うよ？

は？馬鹿言え どう見ても10歳そこらのガキじゃねえか

いいから教えてよ

有名で優秀な情報屋

…早く早く、ねぇ、教えてよ

………お前がどうなっても知らねぇからな

…レイヴン、といって女のガキが1人やってる

そいつは店の名前と容姿以外は 何もわかってない謎のガキだが、 依頼を頼めば期待以上の結果が得られるらしい

………………ルオスティンのことも詳しい？

あぁ、むしろそっちのバケモンのほうが専門らしい

…なるほどね

ありがと、おじさん 親切に答えてくれて

…………じゃなきゃ、殺すところだったよ

は？なんて？聞こえなかっーー、

…………あれ？どこ行きやがった？

…蝶…？いや、蛾か…………？ なんでこんなところに

バチバチと火花を散らす2人の間に、 白髪の少女が慌てて入ってきた

ミシ

不気味な音を立てて、楓の頬にヒビのようなモノが走った瞬間ーー、

遠くから碧華が必死に2人の男に抑えられながらこっちに手を伸ばしている

男2人も必死のようだった

2人の拘束から逃れようと顔を真っ赤にしながら抵抗する碧華を見ながら、槭はどうするべきか迷った

僕のこと殺すだろうに。

あの時、伸ばされた手を

振り払わなければ、

楓の言葉を待つ碧華たちの目の前を1匹の美しい蝶が通り過ぎた

桃色の光る羽をヒラリと舞う様子は神秘的で思わず碧華は蝶を追いかけてしまう

碧華は蝶と目が合った気がした

なんだか、ゾッとするような怖さがあった

突然、楓が下を向いたかと思うと、地面に赤い斑点がポタポタと落ちる

顔を上げた槭の様子に、碧華は顔を青ざめて叫んだ

口や目から血を流し、虚ろな目をした槭の体が橋の柵の上でゆらりと傾く

事態に唖然としていた千紗の拘束から逃れた碧華が槭の元へ走り出す

槭が碧華を見て、そして顔を悲しそうに歪めた

ボチャン。

柵から落ちた槭はぼんやりと碧華の伸ばされた手を眺め、静かにそのままーー

川に落ちた

真っ暗な文字裏をスマホを耳元に当てながら怪しい男が歩いている

口元に手を当てた青年は面白そうにくつくつと笑う