自分
これは少し前にわたしに起こった話。あなたにも、真剣に考えてほしいなって思う。
アリサ
なに、コレ......。ひどい
自分
朝、学校へ行くと、わたしの机の上には紙クズがたくさんのっていた。
自分
クスクスクス...。リオンたちのグループがわたしを見て笑いをこらえている。
リオン
アリサってかたづけできないの?だめだよ、早くキレイにしなって!
自分
アハハ!リオンが笑うと、まわりの子たちも笑った。
自分
...そっか、今度はわたしの番なんだ。
自分
わたしが小6になってからすぐに、リオンたちのグループのコレがはじまった。
自分
いちばん最初は、おとなしくてマジメなサヤカだった。
リオン
サヤカってさ〜。なんかマジで暗いよね〜
自分
サヤカが教室に入ってくると、本人に聞こえるようにわざと、こんなことを言うようになった。教室にイヤな空気が流れるけど、誰も注意する子はいなかった。だって、リオンたちのグループはクラスの中心だから。
自分
それにサヤカって、イジメられやすい雰囲気だし、本人もイヤだって言わないから、しょうがない。
自分
わたしもみんなと同じく、こう思っていた...。
自分
しばらくすると、これがフツウのことだったかのように、誰もがサヤカをさけるようになっていった。そう、みんな、自分がイジメのターゲットじゃなければ...。
自分
でも、サヤカへのイジメはとつぜん終わった。
リオン
サヤカって反応つまんない。あきちゃった。あっ!いいこと思いついたっ♪
自分
リオンたちのグループが、いつも以上にゲラゲラとさわいでいた。
自分
その翌日。今までサヤカの机にあった紙クズが、ナオの机の上にのっている。紙クズを見て青ざめるナオ。わたしもマコもなにも言えず、ただ見つめていた。
自分
え!?どうして?これってどういうこと?なんでナオの机に...。
自分
すると、リオンがとなりに来て、楽しそうに笑う。
リオン
アリサ、マコ。ナオと仲いいけどさ、本当はちょっとウザイって思ってるよね?
自分
わたしたちはだまったまま、下をむいていた。
リオン
え〜?なに?聞こえな〜い。ねえ、マコ。ウザイとこあるよね?
マコ
.........う...ん。......少しだけ...
自分
リオンの迫力に負けて、マコが泣きそうな顔で小さく答える。
リオン
やっぱり〜。そうだよね。ナオ、ウザイよね〜
自分
そのとき、チャイムが鳴る。わたしとマコはにげるように席へ戻った。
自分
ごめんね、ナオ。リオンたちが怖くて、そんなことないって言えなかった。
自分
ナオがターゲットになって1週間、リオンたちはわたしたちの仲を悪くするようなことばかりしてきた。そして、わたしとマコは自然とナオとのキョリをおくようになった。
自分
ひとりさみしく席にすわるナオを見ると、とても苦しいキモチになったけど、わたしもマコも、ナオに声をかけるユウキがだせなかった。毎日とても重い気分だった。
自分
そして数日後。いつもみたいに教室へ入ったら、わたしの机にあった紙クズ。
自分
うしろから聞こえてくる、クスクスっていう笑い声。
自分
わたしの番なんだってすぐにわかったけど、でもまさか自分にターゲットがまわってくるなんて考えもしなかった。
自分
なんでわたしなの?マコ、ナオ、助けて...。
ナオ
アハハッ。アリサの机、きったな〜い!ねぇ、マコもそう思うでしょ?
自分
...え?ナ...ナオ...!?なんで?
自分
そっか...そうだよね。わたし、ナオがイジメられたとき、助けなかったもんね...。
自分
でも...だからって、マコまで...。
自分
まわりを見わたすと、気まずそうに目をそらしたり、クスクスと笑っている子たちばかりだ。
自分
それからわたしは、クラスでひとりになった...。
自分
なんで、わたしがこんな目にあうの?なにか悪いことした?ツライよ、苦しいよ。
自分
早く終わってほしいのに、1日がまるで1週間くらいかのように長かった...。
自分
つぎの日も、やっぱりわたしの机に紙クズがあった。
自分
今まで楽しかった休み時間も、ジゴクのような時間に変わった。
自分
放課後、リオンたちに呼びだされて女子トイレに行くと、そこにはナオとマコもいた。
自分
うつむいていると、リオンが楽しそうにしゃべりだす。
リオン
ねぇ、ナオとマコさぁ、アリサになにか言いたいことあるんでしょ?
自分
...またか。リオンたち、こんなことしてなにが楽しいんだろう...。
リオン
ほら、この前言ってたじゃん!アリサに仕返ししたいって!早くしなよ
ナオ
......前から言いたかったんだけど、アリサってマジで自己チューだよね
マコ
わたしもずっと、アリサのそういうとこイヤだったんだよね
ナオ
ひとりになるの、当然ってカンジ?
自分
それからも、ナオとマコは、わたしへの不満をたくさんぶつけてくる。
自分
ひどい...。ふたりとも、わたしのこと、そんなふうに思ってたんだ。きっと、きっかけはリオンだと思うけど、だからって、ここまでするなんてひどすぎだよ…。
自分
ふたりの言葉をぼんやり聞いていたら、涙があふれてきた。
リオン
あ〜あ。アリサちゃん、泣いちゃった。ちょっとぉ〜かわいそうじゃんか
自分
リオンたちのキャハハハっていう笑い声が、トイレ中にひびいていた。
リオン
ねぇ、ちょっとサヤカ!アンタもなにか言ってやんなよ
自分
それまで気づかなかったけど、リオンのうしろにサヤカがいた。
自分
サヤカはうつむいたまま、ムリやりわたしの前におしだされる。
サヤカ
......い
リオン
なに?聞こえないって
サヤカ
......わたしは、言いたくない
リオン
ハァ?なにそれ?冷めるんですけど。じゃあナオ、もっと言ってあげなよ
自分
ナオが続けようとすると、チャイムが鳴る。よかった...。
自分
リオンたちがぞろぞろと教室へ戻っていく。サヤカが悲しい顔でこっちを見ていた。
自分
なに、その目?わたしにはあなたのキモチがわかるよとでも言いたいの?
自分
放課後、ひとりでランドセルをしょって教室を出ようとすると、リオンたちのグループとナオとマコがこっちを見ながら笑っていた。
リオン
あ、そうだ!うちらこれから遊ぶんだけど、ナオとマコも来なよ〜
ナオ
うん、行く〜!アリサと遊んでたとき、ホントつまんなかったから楽しみ〜
自分
ぐっとくちびるをかんで、なにも聞こえないフリをした。早く、リオンたちからはなれたい。こんな学校なんて、もう来たくない...。
自分
前はよくナオとマコと3人で遊んだ公園が見える。目がじわっとあつくなる。
サヤカ
お〜い、アリサちゃん
自分
ってうしろから声をかけられた。
自分
サヤカはあがっている息を整えると、わたしにむかってほほえむ。
自分
そういえば、わたし...誰かに笑いかけられたの何日ぶりだろ?
サヤカ
アリサちゃん...。あのさ...毎日大丈夫...?
自分
ハァ?大丈夫なわけないじゃん!それってイヤミなわけ?
アリサ
もう、わたしに話しかけないほうがいいんじゃない?せっかくターゲットからぬけられたんだし。てゆうか、なんでわたしにかまうわけ?またイジメられたいの?
サヤカ
だって、最近、イジメがどんどんエスカレートしてるみたいだから
アリサ
それってイイ子ちゃんアピール?ホントがわたしがイジメられるの見て、いい気味だって思ってるくせに...。ほっといてよ。大丈夫だから!
サヤカ
..................ほっとけないよっ!
自分
初めて聞いた、サヤカの大きな声。サヤカって、こんなふうに言えたんだ。
サヤカ
だって、イジメられるのってすっごくツライもん。わたし、わかるから。だからツラそうにしてる人のこと、ほっとくなんてできない
アリサ
わたし、サヤカがイジメられてたとき、なにもしなかった。仲のいいナオがイジメられたときも、助けなかった。だから、ざまあみろって思うでしょ?
サヤカ
そんなこと思わない。自分がされてイヤだったこと、人にはしたくない
自分
サヤカは今にも泣きだしそうな顔で、しゃべっている。
サヤカ
それにリオンたちのこんなくだらないこと、誰かがやめにしなきゃ...。アリサちゃんだって、そう思うでしょ?
自分
ポロポロと、涙がこぼれてきた。となりでサヤカも泣いていた。
アリサ
うぅ......ひっく、サヤカ、ごめん。ごめんね......
サヤカ
うん......わたし、アリサちゃんのことゆるすよ
自分
心がフッと、軽くなった気がした。
自分
そして、わたしの心はとってもあったかいキモチでいっぱいになっていった。
自分
そのままわたしは、サヤカと手をぎゅっとつないで帰った。
自分
サヤカはイジメられてたときの苦しかったキモチとか、わたしがあやまってくれてうれしいキモチとか、全部話してくれた。
自分
わたしもリオンたちが怖くて逆らえなかったこと、自分がやられてキモチがわかったこと、今日サヤカが来てくれてうれしかったこと、たくさん話した。
自分
つぎの日の朝、教室のドアの前。少しだけドアをあける手が止まってしまう。
自分
でも、大丈夫。だってとなりには、サヤカがいる!!
自分
教室に入ると毎日あった紙クズは、わたしの机の上からなくなっていた…。
自分
どうしてだろうと思ったけど、すぐに理由がわかった。鈴木さんの机が汚れてる。
ナオ
ごめんね、アリサ。うちらリオンに逆らえなくて.........
マコ
ホントはアリサのこと、自己チューとか思ってないから!
自分
なにもなかったみたいにナオとマコが笑って話しかけてきたけど、もう前みたいにふたりを友だちだとは思えなかった。
自分
リオンたちが、鈴木さんの反応を見てクスクスとイヤな声で笑っている。
アリサ
ナオ、マコ。ごめん、そこ通して
自分
そのまま、リオンたちの前にむかう。...大丈夫。わたしはひとりじゃない。
アリサ
リオン、もういいかげんにしたら。こんなの、ホントくだらないよ
リオン
なにそれ?また、紙クズおかれたいわけ?
自分
ホントに怖いのは、誰かを傷つけるのが平気になっちゃうこと。
自分
だから、わたしはもう負けない!!
紗良
そうだよ!もうやめようよ
自分
わたしに続くように、あちこちから声があがりはじめる。そしていつのまにか、リオンたちをかこむように、クラスのみんなが集まっていた。
自分
みんなにせめられて、リオンたちはにげだす。
サヤカ
すごいよ、アリサちゃん...!!
アリサ
サヤカが助けてくれたから、ユウキがもてたの
自分
わたしはサヤカと笑顔で見つめあう。そして、本当にひさしぶりに、心から大きい声をだして笑ったんだ。
自分
あなたは今──ひとりで傷ついてない?
自分
あなたは今──誰かのことを傷つけてない?