私たちの物語

あれから約2ヶ月が経った頃、 体育祭目前。

体育祭準備期間。 放課後の学校は、どこもかしこも騒がしい。 ――なのに、 ここだけ妙に静かだった。

瑞希くんは、私の前に立ったまま動かない。 いつもより近い距離。 逃げ場がないくらい。

その一言で、 胸の奥がぎゅっと締まった。

真っ直ぐな視線。 逃げ道は、もうどこにもない。

言葉が途切れたあと、 音が消えたみたいに、世界が静かになった。 近い。 近すぎる。

顎に、指がかかる。 強くない。 でも、確実に私を逃がさない力。

言えなかった。 言えるはずがなかった。

その瞬間、 距離が、ゼロになる。

唇が、そっと触れた。 深くない。 けれど、離れる気配もない。

ほんの一瞬、 触れているだけなのに。 心臓の音が、うるさい。

少しだけ、角度が変わる。 それだけで、空気が変わった。

触れて、離れて、 でも完全には離れない。 名残みたいな距離。

……これ以上は、今はやめる

唇は、もう触れていないのに。 その熱だけが、 いつまでも消えなかった。