桃side
悠佑
悠佑
ないこ
ないこ
悠佑
ないこ
悠佑
悠佑
悠佑
ないこ
ないこ
ないこ
スマホをポケットに入れて教室の窓から外をを覗けば、突如風が強く吹き始めて、俺の髪の毛が頬をくすぐる。
__今日は、俺たち三年生の卒業式だ
三年間の高校生活にけじめをつける日でもあり、新しい人生の門出を迎え大人の仲間入りを果たす生徒たちを送り出す日でもある。
高校を卒業したら、基本的に大学が同じでなければこのクラスメイトで会えることは、同窓会以外に無いだろう。
その所為もあってか、先ほどから教室内は卒業式が始まる前だと言うのに、ひどく騒がしかった。
女子1
女子2
女子1
女子2
一部の女子は記録に残そうと自撮り写真を黒板の前で撮ってみたり、 これから配られるであろう卒業アルバムにメッセージを書いて、 と予約をしたりしていた。
男子も男子で、卒業式が終わった後の遊び場や集合時間などを話し合ったり、卒業式に向けて身なりを整える真面目な人もいた。
男子
ないこ
俺が窓の反射で少し前髪を弄っていると、突然背後から首の辺りに友人である男子が抱きついてくる。
驚いて振り返ると、 友人はもう既に若干涙目で「ないこぉ・・・・・・」と俺のセーターの肩に顔をぐりぐり擦り付けてきた。
男子
ないこ
クラスの熱気と言うべきか、少しばかり暑さを感じていた俺はブレザーを脱いで椅子にかけておいた。
セーターを脱げば、ブレザーを上から羽織るだけなので特に問題は無いのだが、人の服で涙を拭くのはマナー的によろしくない。
俺でなければ 確実にブチ切れ案件だろう。
友人は「だって」とセーターから顔を離して、自分のシャツの袖を捲った腕で目元をごしごしと擦る。
そして鼻を啜りながら、俺に「ティッシュくれ」とねだり、 仕方なく渡した一枚のティッシュで鼻をかみながら言った。
卒業式だからって、友人に向かって何しても良いわけでは無いのだが。
男子
男子
ないこ
まろは冬休みの終盤に、 小さい頃からの通訳という夢を叶えるために、ご両親と同じ飛行機で海外へと旅立っていった。
残念なことに卒業式を出ることは不可能になってしまったが、今でもまろとは時々連絡を取り合っている。
証拠としてポケットからスマホを取り出し、まろと俺のメッセージの会話画面を友人に向けた。
ないこ
ないこ
男子
さらっと友人にスルーされた事は水に流しつつ、まろから送られてきたぬいぐるみたちの写真に目を通す。
りうらはひよこ、初兎ちゃんはうさぎ、俺はいぬでアニキはライオン。
それでほとけっちは・・・・・・大仏。
しかも大仏のぬいぐるみの体には、海外のノリというものなのか、 真ん中に大きく『I LOVE ♡大仏』と書かれている。
何気に兄弟たちの特徴を捉えているぬいぐるみが多くて、何度見ても思わずクスッと笑えてしまうものだ。
担任
担任
ふと、今日はしっかり仕立てのいいスーツを纏った担任の先生が、 前の扉から入ってきてクラスに向けてそう言い放つ。
男子
男子
教室の後ろのロッカーの上に乗った自分のブレザーを手に取った友人に背中をポンと押され、俺は流れるように彼へついて行く。
ないこ
スマホの電源を落とし、再びズボンのポケットに入れる。
燦々と光る太陽に照らされた教室に、突如として静けさともう入れなくなる事に関しての愛おしさが芽生えた瞬間だった。
No side
教師
一人の教師の言葉で、高校生活最後の一大イベントが幕を開ける。
教師
簡潔に告げられた六文字の後、オーケストラのような真面目で広大な音楽が体育館のスピーカーから流れた。
教師
教師
卒業生一人一人の名が各クラスの担任によって呼ばれ、代表として生徒会長であるいふの代わりに副会長が卒業証書を受け取る。
他校だと一人ずつ卒業証書を受け取っていくのだが、本校は時間短縮のためか、はたまた伝統なのか代表一人が舞台に上がり、校長から直々に受け取ることになっていた。
校長
『卒業』
生徒たち
本校の校歌を在校生、卒業生、教師共に体育館に響かせる。
歌う生徒の中には涙を流して歌えていない者や、寂しさを噛み締めるように、誤魔化すかのように大きく口を開けて歌う者もいた。
ないこは半年間という短い間でも、少しでも高校の一員として馴染もうと校歌を必死に練習したものだ。
そのおかげで何もわからない状態で口も開けない、ということも無く、こうしてメロディーに声を載せることができている。
教師
指揮者と伴奏者が舞台から降りると、入れ替わりで今度は校長がマイクの前に立ち、深々とお辞儀をする。
校長
校長
ないこ
ないこはある意味途中参加のため、この学年の中で関わったことのない生徒がほとんどである。
それでもクラスメイトとは話したことのある人たちばかりで、雰囲気的にはとても仲の良い学年だと思っていた。
実際、ないこがいふに聞いたところ、そこまでこの学年には問題児がいるわけでも無く、 本当に平和だったらしい。
ないこを受け入れてくれたこの学年は、高校の中でも過ごしやすく関わりやすい、言ってしまえば当たりの学年だった、ということだ。
教師
校長からの長い話もようやく終止符を打ち、安堵感と共に刻一刻と近づく終わりの時間へとないこは思いを馳せた
時期生徒会長として君臨する一年後輩の男子が、何百人の前で堂々とした姿で答辞を卒業生に届ける。
鼻の啜る音が合唱となってないこの耳に入ることによって、自然と胸の鼓動が早まった。
男子
時々隣の席に腰掛ける友人のポツリとした声が聞こえてきて、実感の薄かった卒業がより身近に感じた。
教師
在校生の答辞が読み終わり、舞台を降りた在校生に向かって体育館全体からの拍手が送られる。
ないこに、お願いがあるんやけど。
ないこの脳内に、いふと別れ際に囁かれたあの言葉がよぎる。
教師
教師
ないこ
ないこはガタリとその場の席から立ち、舞台の右側の階段へと足を運ぶ。
その様子に体育館の生徒たち、 そしてないこの兄弟たち、 さらには教師までも酷く動揺したように騒がしくなった。
りうら
初兎
ほとけ
教師2
ないこに視線がジッと集まり、困惑しながらも生徒たちは何事もないような顔で歩く彼をひたすらに見つめた。
悠佑
その中でもただ一人__ないこの家族であり、黒木家の長男である悠佑はニヤリと口元に笑みを浮かべた。
いふが海外へ旅立つ前、いふはないこの体を引き寄せ、彼の耳元で彼にしか聞こえないように囁いた。
いふ
いふ
ないこ
いふ
いふ
ないこがマイクの位置を微調整し、未だに騒がしい生徒たちにもなりふり構わず話し始める。
ないこ
ないこ
ないこ
ないこ
淡々と言葉を紡いでいくないこに、現在が卒業式であることを思い出し落ち着きを取り戻したのか、生徒たちは彼の声に耳を傾ける。
ないこは静かになった体育館に、真っ直ぐな視線を向けて答辞の紙を取り出す事もなく言葉を紡いだ。
ないこ
りうら
ないこのその言葉に、当の家族であるりうらやほとけ、初兎がピクリと肩を震わせて反応する。
彼はそんな家族の行動に気づいているのか否か、表情を一つ変える事もせず、若干俯いた状態で話し続ける。
ないこ
ないこ
また体育館がざわつく。
卒業式の内容に『虐待』というワードが出てくることが、 きっと生徒たちからしたら驚くべきものだったのだろう。
ないこ
ないこ
ないこ
りうら
ないこの言葉にりうらが顔を上げる。
その顔は酷く驚いていて、彼の隣に座る悠佑やほとけが不思議そうな顔でりうらを覗いていた。
それもその筈だ、だって彼は・・・・・・この事実を知らないのだから。
ないこはりうらに秘密にしていたのである、たった一人の大事な弟に自分が暴力を振るわれていたことを心配させないために。
だからあえてないこは、 りうらが学校へ通っている午前中や昼頃にバイトから帰った体で父からの虐待を受けていたのだ。
ないこ
ないこ
ないこ
ないこ
ないこの目尻に少しずつ涙が溜まってきて、彼はブレザーの腕で目をゴシゴシと擦った。
ないこ
ないこ
ないこ
彼の柔らかい低音の声に引き込まれたのか、生徒たちだけでなく、親たちや教師も涙を流していた。
ないこ
ないこ
ないこは自分のスマホの写真のアルバムを思い出した。
近頃だとバレンタインで年下組が悠佑とないこにチョコレート・・・・・・とは言い難き、なんとも言えない物体を渡した時の写真。
それからいふたちが海外へ行く前日に家族でした、 パーティーでの集合写真。
さらに遡っていくと、みんなでショッピングに行った時のりうらのヘアゴムをつけた写真や、初兎が捉えた、いふとほとけが仲良さそうに机で寝ている珍しい写真もあった。
そしていつ撮ったのか、ないこがソファでサメとヒヨコのクッションを抱きながら寝ている姿も入っている。
高校の写真だと、文化祭でいふが軽音楽部でライブをした時や、クラスメイトにたこ焼き屋さんの法被を無理やり着せられた写真。
ないこ
スマホのアルバムの写真が、 走馬灯のようにないこの脳裏へ流れ込んでくる。
嬉しかった事、楽しかった事。
それだけじゃない、悲しかった事、 辛かった事や悔しかった事もたくさんあった。
でもここまで歩いてこれたのは・・・・・・クラスメイトがいて、 ないことりうらを連れ出してくれた兄弟たちがいたから。
ないこ
ないこ
ないこ
ないこ
ないこ
ないこ
ないこがまるで、全人類の気持ちを全てを受け入れるように、光が差し込むかのように両手を広げた。
ないこ
ないこ
ないこ
ないこ
桃side
男子
ないこ
体育館での堅苦しい卒業式も終わりを告げ、現在は校庭や校舎前で卒業の写真撮影や友人との思い出作りが行われている。
俺も友人からの一方的な質問責めに苦笑しながら、のんびりとその質問に答えていた。
詳細を言うと、あの後まろから「こういうのは秘密にしておいた方が面白いじゃん」と言われたから。
学校を巻き込んだサプライズとして、海外へ行ったまろが残した最後の生徒会長としての仕事だったのである。
りうら
ないこ
突如背後から実の弟の声がして驚きざまに振り返ると、口元は笑っているが目が笑っていないりうらが仁王立ちで、こちらを見下ろしていた。
彼の後ろからは、ほとけっちや初兎ちゃん、アニキが苦笑しながら俺たちに近づいてきている。
頬を膨らませて不機嫌そうにするりうらに、俺は頭をぽんぽんと撫でて言い訳するように語りかけた。
ないこ
ないこ
りうら
ないこ
あっかんべーと舌を出したりうらは、上に羽織っていた上着のポケットから、アニキのものと思わしきスマホを取り出す。
そして若干投げやりに、俺に向かって渡した。
不思議に思って画面を覗くと__突然、その画面に犬のぬいぐるみが大きく映し出されて、思わず「うわっ?!」と声が漏れる。
いふ
ないこ
ぬいぐるみを画面から離し、 ギュッと自分の膝の上に置いて強く抱きしめたまろは、右手で小さくピースをつくる。
ないこ
いふ
ないこ
顔を上げて兄弟たちを見ると、 ニヤニヤと口元を緩ませた、 ほとけっちや初兎ちゃんが悪戯っ子のように笑ってくる。
完全にやられた、そう思った。
いふ
いふ
ないこ
正直、決まった答辞なんて無かった。
この前試しに開いてみたら、答辞の真ん中に「自由に話しちゃえ☆」とまろの字で書いてあって、ご丁寧にまろのイラストまで書いてあった。
なにを話せば良いのかわからなかった俺は、誰にも相談することもせず、一人で夜な夜な話すことを考えた始末である。
ないこ
いふ
ないこ
いふ
いつも通り変な声を出し始めたまろに呆れて、ふと桜が散り始めた校庭を振り返る。
草原を流れる小川のような優しい柔らかい風が、膨らみかけた若葉たちを揺らした。
騒がしい笑い声、卒業シーズンの伝統とも言える生徒たちの告白、スマホやカメラのシャッター音。
さまざまな声が、音が、俺たちの耳に入り込んでくる。
ないこ
俺は、画面越しの兄に話しかける。
いふ
不思議そうな表情で犬のぬいぐるみと共に首を傾げたまろに、俺はにっこりと微笑んでスマホを団子状態のクラスメイトたちに向けた。
クラスメイトからこちらの様子は気づかれていないが、せめて卒業式を味あわせてあげようとピントがブレないように両手で支える。
ないこ
いふ
大きく吸い込んだ息は吐くことを忘れてしまいそうで。
綺麗な輝く景色をこの目に焼き付けていたい。
目の前で笑う卒業生たちを見て、 俺はそう思った。
コメント
6件
泣いてもいいですか?まじで涙目です
感動しすぎて目がギンギンです...(?) あの、黒木家へのクラウドファンディングはどこから行けばよろしいのでしょうか...?((