午後12時
僕はお屋敷を前に深呼吸
目指すはベランダ
すっと羽を広げると すぐにベランダに着いた
静かにノックすると カラカラと開く窓
彼女
こんばんは、修理屋さん
僕
こんばんは、お嬢さん
彼女
今夜は少し寒いわね
僕
えぇ、秋を感じますね
薄く笑うと
釣られたように彼女も 目尻を下げた
他愛もない会話を終えると
僕はそっと彼女を抱えて
飛んだ
彼女
うわわわわわ!!
驚く彼女を落とさないように
慎重に夜空を飛行する僕
少しすると慣れてきたのか
僕の首に巻かれた 腕の強さが緩んだ
彼女
貴方はどうして飛べるの…?
僕
あぁ、これの事かい?
不思議そうな彼女を横目に
背後に生えた黒い羽を指す
頷く彼女が見えたので 薄く笑って答えてみせた
僕
僕
現実逃避行だよ
彼女
へ……?
僕
現実逃避行だよ。君と僕の。
彼女
何よ、それ……
呆れるように笑いながらも 少し嬉しそうな彼女
……僕の正体はまだ 話さないでおこうかな
僕
僕
さぁ、ここからどこに行く?
彼女
そうね……
彼女
………そうだ。
彼女
貴方の名前を教えてくれないかしら?
僕
僕かい…?
彼女
えぇ。
僕
僕は…そうだなぁ
僕
ライア、とでも名乗っておこうか
勿論、偽りの名前。
彼女
ライア…?
僕
あぁ。君は?
彼女
私は魔由よ
魔由
魔法の魔に自由の由
僕
僕
いい名前だね
魔由
そう?
魔由
ありがとう
優しく笑った彼女が
月光に照らされて 美しく輝いていた
魔由
これからどうなるの…?
僕
僕
僕の家にでも招待するね
魔由
やったぁ!
魔由
これからどうなるの…?
僕
その質問、さっきも聞いたよ?
おどけたように言いながら
不安そうな彼女の顎を スッと上げる
薄紅色の唇がなんとも綺麗だ
魔由
だって…ここに居ることがバレたら…
僕
大丈夫。
僕
僕がなんとかするから
安心させるように言って
華奢な肩を抱きしめて
そっと彼女の髪に 口付けを残した
続く