坪崎忠太・32才
北海道から先週
この風都に来たばかり
だという。
実家の農家の
不作を支えようと風都
の会社に出稼ぎに
来たらしい。
彼はその日バッグに
新居の家具を揃える
ための資金を詰めて
夜の街を帰宅
していくところだった
忠太
ボクは毎日言われた
仕事をこなす事に
必死の無趣味な男です

忠太
その日も仕事を終え
実家からの送金を
おろしてまっすぐ
帰宅するところでした

忠太
その時です

忠太
魔女に会ったんです

魔女
私はいつも飢えている

魔女
あなたは私を
満たしてくれる人?

翔太郎
(!あの女だ)

忠太
ボクは彼女に
見入りました

忠太
雑誌の表紙から
抜け出してきたような
人でした

忠太
田舎育ちなもの
ですから
これが都会の
女性なのかと

亜樹子
(うーん
北海道の方が
美人が多い気が
するけどなあ)

忠太
近づくと彼女は
少し青い顔を
しているように
見えました

忠太
表情も暗いし
本当にお腹が
空いているのかな
と思いました

忠太
食べ物を買って
あげるぐらいなら
できるかなと思って
バッグを開きました

忠太
そしたら

魔女
ごちそうさま

魔女
追わない方が
いいわよ

魔女
私、魔女だから

忠太
何がどうなったのか

忠太
とにかくフワっと
バッグが彼女に
引き寄せ
られたんです

翔太郎
それで

翔太郎
あんた、どうしたんだ?

忠太
もちろん慌てて
追いました

忠太
物取りだったのか、と

忠太
でも全然
追い付かないんです

忠太
彼女はまるで
空でも走ってる
みたいに軽やかで!

忠太
気がつくと
完全に見失って
道に迷ってました

忠太
一時間ほど呆然と
したままウロウロ
していると
ようやく見た事のある
一角に出て

忠太
そこはT字路でした。

忠太
夕凪町でしたか
あそこの

亜樹子
まー無理も無いよね。
来たばかりの街だし

亜樹子
うまい事
まかれちゃったんだね

忠太
それが妙なんです

忠太
ボクが振り向くと

忠太
後ろはビルの
外壁でした

忠太
ボクは

忠太
何もない
行き止まりから
出てきた事になります

翔太郎
たしかに
ちょっとした
怪談だな
