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主
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第109話『それでも隣に立つ』
朝だった。
カーテンの隙間から、薄い光が差し込んでいる。
夏の朝特有の、白くて、まだ熱を持たない光。
らんは、ゆっくりと目を開けた。
頭は痛くない。
吐き気もしない。
心臓も、落ち着いたまま動いている。
――何も、戻っていない。
それを、今日ははっきりと自覚できた。
失われた記憶が戻らないことも。
空白が、空白のままであることも。
そして。
部屋の隅に立つ“影”が、昨日よりも――明らかに、歪んでいることも。
らん
らんは、布団の中で息を整えた。
怖い、とは思わなかった。
昨日までなら、思っていたはずだ。
また何かされるんじゃないか。
また、奪われるんじゃないか。
でも今、胸に浮かんだ感情は――それとは、違った。
らん
そう、感じてしまった。
輪郭は揺れている。
欠損は、戻っていない。
それでも、どこか――無理に立っているように見える。
守るために前に出る存在が、今は、倒れないために踏みとどまっている。
その違和感が、胸に引っかかった。
らんは、上体を起こした。
その動きに、影は反応しない。
いつもなら。
少しでもらんの調子が変われば、先に動いていた。
記憶反応が来る前に。
痛みが発生する前に。
でも今日は――何も、しない。
らんは、立ち上がり、数歩進んだ。
その瞬間だった。
視界が、歪む。
脳の奥を、鈍い音が走る。
――来る。
そう思った。
けれど。
影は、動かなかった。
庇わない。
先回りしない。
奪い取らない。
代わりに。
影自身が、ぐらりと揺れた。
輪郭が崩れ、欠損部分が軋むように歪む。
立っているだけで、精一杯のように。
らん
らんの喉から、反射的に声が漏れた。
考えるより先に、言葉が出る。
らん
静かな声だった。
命令じゃない。
拒絶でもない。
ただの、庇い。
影が、ぴくりと反応する。
初めてだった。
“守る存在”が、“守られた”と理解したのは。
らんの影
影が、言葉を探すように口を開く。
らんの影
それは、ずっと正しかった定義。
存在理由そのもの。
けれど、その声には、力がなかった。
らんは、即座に首を振る。
らん
短く、はっきりと。
らん
その言葉は、刃でも、命令でもなかった。
ただ――条件を、外しただけだった。
影は、一歩、下がる。
従えない。
命令されていない。
拒まれてもいない。
けれど――「主のため」という理由が、消えた。
存在の足場が、崩れる。
らんの影
影の輪郭が、さらに歪む。
消えない。
けれど、意味がない。
その瞬間。
空気が、微かに変わった。
視線を感じて、らんが顔を上げる。
部屋の外――正確には、境界の向こう。
そこに、二つの影が立っていた。
いるまの影と、こさめの影。
どちらも、静かだった。
もう、確信している顔だった。
いるまの影
先に言ったのは、いるまの影だった。
断定。
感情は、混じっていない。
こさめの影が、隣で小さく息を吐く。
こさめの影
誰に向けたとも知れない声。
こさめの影
主従が壊れた影は。
主に守られた影は。
こさめの影
いるまの影が、続ける。
いるまの影
視線は、らんの部屋の奥――歪んだ影に向けられている。
いるまの影
こさめの影が、頷いた。
こさめの影
いるまの影
二つの影が、同時に言う。
いるまの影
いるまの影が、静かに締める。
いるまの影
影は、選べない。
それを、影自身が理解している。
らんは、歪む影を見つめていた。
怖くはない。
ただ――放っておけなかった。
らん
らんが、言う。
らん
一拍。
らん
その言葉は、善意だった。
優しさだった。
繋ぎ止めたい、という感情。
でも。
守る理由を奪われた影にとって、それは――毒だった。
存在は、まだある。
形も、かろうじて保っている。
けれど。
意味が、ない。
守れない。
命令もされない。
それでも、隣にいろと言われる。
影の輪郭が、さらに歪む。
崩壊ではない。
再構築でもない。
宙吊り。
どこにも行けない存在。
遠くで、いるまの影が、ぽつりと呟く。
いるまの影
静かに。
いるまの影
一拍置いて。
いるまの影
あるいは。
いるまの影
誰も、間違ったことはしていない。
けれど――もう、戻れない。
それでも。
らんは、影の隣に立っていた。
それが、破滅への一歩だとしても。
第109話・了
主
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𝙉𝙚𝙭𝙩 ︎ ⇝♡370
主
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