今日はドキュメンタリーの撮影日。
スタッフ
カメラの向こうでスタッフが合図を出す。
その瞬間、俺は深く息を吸った。
これは演技。
だから、大丈夫…… 本気の気持ちでやったって、 “演技”ってことで通るから。
この間ケビンに言われた言葉が、 ずっと頭の中に残ってた。
『自分の気持ち、ちゃんと向き合えばいい。怖いかもしれないけどさ』
そう、怖い。
でも、向き合わなきゃ何も変わらない。
だから俺は、この“演技”に本気を乗せてみることにした。
楓弥
楓弥
楓弥が無邪気に笑いながら、 メニューを俺の方に見せてきた。
その顔が、光の加減でやけに綺麗に見える。
史記
楓弥
史記
楓弥
楓弥がそう言った瞬間、 心臓がドクンと鳴った。
――これ、“演技”で言ってる言葉じゃないよな。
史記
本当は“嬉しい”って言いたいくらい、心の中がざわざわしてたけど、それも全部“演技”の中に紛れ込ませた。
ねぇ楓弥。
俺、今お前のこと、ちゃんと見てるよ。本気で
楓弥
史記
楓弥
史記
フォークでケーキをすくって差し出す。
楓弥は、いたずらっぽく笑って、それを口に運んだ。
楓弥
楓弥
史記
本当は言いたかった。
“俺の気持ちの方が甘くて、重くて、たぶんもう隠しきれないくらいなんだ”って。
でもそれは、まだ言えない。
今はただ、こうして“演技”のふりをしながら、本気で惹かれてる気持ちを隠していくしかない。
だから俺は笑う。
いつもよりちょっと優しい声で、 楓弥に向けて。
スタッフ
スタッフの声がかかって、 カメラが止まった。
俺と楓弥はカフェの奥のソファ席に移動して、紙コップのアイスコーヒーを受け取る。
静かになった店内。
BGMだけが、俺たちの間を埋めてた。
楓弥
史記
楓弥
史記
俺はなるべく平静を装って答える。
けど、内心は焦ってた。
……まさか、気づいた?
楓弥
楓弥は言葉を探しながら、 俺の顔をチラチラと見てくる。
その視線が、なんだかやけに真剣で――思わず目を逸らした。
史記
史記
そう言いながら、俺はアイスコーヒーを口に運んだ。
冷たいはずなのに、喉がひりつく。
ごめん、演技じゃない。
……むしろ、“演技”に隠して本気で接してる。
楓弥
楓弥は少しだけ笑って、カップを回す指をじっと見つめてた。
その横顔を、俺は見つめてしまう。
何も言わなきゃ、 このまま“演技”で済む。
でも、何も言わなきゃ、 ずっとこのまま“演技”の関係だ。
言いたい。
けど今はまだ、 伝えるわけにはいかない。
だって――言った瞬間、 全部壊れる気がするから。
史記
俺が立ち上がると、 楓弥も続いて席を立った。
その時、ふと俺の手に触れた楓弥の指が、少しだけ長く触れてて――
楓弥
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