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スタッフ
スタッフの声が響く。
冬の終わりの空気が、 少し冷たくて澄んでいる。
楓弥
楓弥が、俺を見上げるようにスタッフに聞こえない小声で訊いた。
史記
俺は自然に笑って、楓弥の手を取った。
でも俺は、演技のつもりじゃない。
繋いだ手は、少しだけ震えてた。
それが寒さのせいか、緊張のせいか――わかってたけど、何も言わなかった。
そのままゆっくり歩きながら、俺はふと立ち止まって、楓弥の方を見た。
楓弥
戸惑う楓弥の手を軽く引いて、 向かい合わせに立たせる。
楓弥
カメラは回ってる。
ここで“自然な恋人の空気”を見せるのが目的。
――だから、 言い訳はいくらでもできる。
史記
楓弥
言い終わる前に、俺はそっと、 楓弥の額にキスを落とした。
楓弥
史記
わざと茶化すみたいに言って笑う。
でも心臓は、ずっとバクバクしてた。
楓弥
楓弥の声は小さくて、 目は俺をじっと見てた。
――多分、気づいた。
これは“演技”なんかじゃないって。
史記
俺はそれだけ言って、 また手を取って歩き出す。
楓弥は何も言わず、 でも手を握り返してくれた。
そしてその手は、さっきよりもしっかりと、俺を掴んでいた。
楓弥
カメラが回る直前、少しだけ緊張して、小声で訊いた。
史記
ふみくんは、いつもみたいに優しく笑って、俺の手を取った。
同時に気づく。
手、ちょっとだけ震えてる。
それに、俺の手もきっと… 同じくらい震えてたと思う。
撮影だから、仕事だから。
そう言い聞かせてるはずなのに、 心臓が変な音立ててる。
ふみくんと手を繋いだまま、 並木道をゆっくり歩いて――
ふと、ふみくんが立ち止まった。
楓弥
急に手を引かれて、 向かい合うように立たされる。
カメラが回ってるのはわかってる。
でもそれ以上に、ふみくんの目が、俺を真っ直ぐ見てきて。
楓弥
史記
楓弥
戸惑う暇もなく、額に、 ふわっと何かが触れた。
楓弥
それが“キス”だと気づくのに、 数秒かかった。
撮影だから、演技だから――
そう思わなきゃいけないのに、 俺の体は完全に固まっていた。
史記
ふみくんは、いつもみたいに少しふざけた調子で笑った。
でも、その笑顔の奥にあるものに気づいてしまった。
楓弥
俺の声が震えたのは、 驚きだけじゃない。
もしかしてって思ってしまった 自分が、怖かった。
史記
そう言ってまた手を取られたとき、ふみくんの手は、まっすぐだった。
迷いがなかった。
そして――
俺は、その手を、さっきよりもしっかりと握り返していた。
ねぇ、ふみくん…… これ、本当に“演技”なの?
心の中で、何度も問いかける。
でも答えは出ない。
ただ、ひとつ言えるのは――
俺の心は、さっきよりずっと、 ふみくんに向いてた。