トントン
おーい、連れてきたで。

トントン
ん、じゃあこん中におるから行ってくれ。

大先生
え、僕一人っすか!?

トントン
わしも忙しいねん。
後でまた来るから。

大先生
え…むり…

トントン
お前…俺も今日あったばっかりなこと忘れてへん…?

大先生
あ…

大先生
失礼します〜…

グルッペン
おぉ、君が鬱か。
座ってくれたまえ。

中に入ると、心地よいバリトンボイスが聞こえてきた。
正面には不敵な笑みを浮かべた人物、グルッペンが座っている。
グルッペン
急に来てもらってありがとな。

大先生
まあ不本意ですけど…

グルッペン
君はコネシマの友人だろ?
話はあいつからよく聞いているよ。

大先生
え、俺の事喋ってんの?

グルッペン
あぁ、おもろいやつがおる、ってはしゃいでたゾ。

大先生
シッマ…

グルッペン
さて、本題だが…
君はコネシマのことを調べてたね?

大先生
え、なんでそれを…

グルッペン
君が知りたいであろうことを教えてやろう。

グルッペン
あいつを保護したのは俺だ。

大先生
え、あなたが!?
でもなんでその情報がないんですか?
普通報道されるもんですけど…

グルッペン
俺は表舞台には立たない。
こういう組織を運営している以上都合が悪いしな。

大先生
こういう組織って…?

グルッペン
ム?知らなかったのか?

グルッペン
俺たちは我々軍。
世の中にはびこるさまざまな悪事を暴いていく組織だ。

大先生
えぇ!?
軍!?

大先生
軍なんかほんまにあるんや…
というか軍が必要なほど悪いやつがいるってこと?

グルッペン
理解が早いな。
さすが秀才。

大先生
じゃああいつはなんで軍に入ったりなんか…
まだ高校生っすよ?

グルッペン
あいつが入ると言ったからだ。
俺が高校には行くように言った。

大先生
訓練のために放課後早く帰ってたのか…。
それなのに成績バカええやん…すげーな…。

グルッペン
あぁ、あいつは俺の期待以上に頑張っている。

グルッペン
…君もここで活躍してみないか?

大先生
え、軍で…?

グルッペン
君の才能を最大限に引き出せると思うんだが。

大先生
いや、俺に才能なんてないですから…

グルッペン
いいや、あるさ。

グルッペン
その情報収集能力、そして頭の回転の速さ。
それだけで十分な才能と言えるだろ。

グルッペン
それに話を聞く限り君は人たらしだ。
色んな女の子と遊んでいる割には友達もしっかりいる。
人たらしは諜報活動において大事な強みだ。

グルッペン
残念ながら今のところうちにはそういう人材があまり居なくてな。
是非やってみないか?

大先生
…ちょっと考えます。

進路に悩んでいた大先生にとって、この話は悪くないものだった。
向こうから自分を欲してくれるなんてなかなかない事だ。
しかし、軍という組織への恐怖もあった。
規則や人間関係に縛られたりはしないだろうか。
はたまた暴力沙汰に巻き込まれて命を落とすことはなかろうか。
大先生
(そりゃシッマと一緒にできるならこれだけいいことは無い。
だけどそもそも俺につとまるのか?
ずっと怠惰な生活をしていた俺に?)

ホムラ
おいグルッペン!

グルッペン
ム、客人が来てるんだゾ。

ホムラ
あ、悪い悪い。
じゃなくて!
お前また新しい武器買ったって聞いたんやけど!

グルッペン
おぉ、気づいたか!
今回のは火力が他のと段違いにすごくてな!
その上ビジュアルも抜群!
これで俺のコレクションも1歩完璧に近付いたとは思わんかね!

ホムラ
思うわけねえだろ!
使いもせんもんをバカバカ買ってんじゃねえよ!
トントンは妙にお前に甘いけど俺は見逃さんからな…?

グルッペン
いや、いいだろ別に!
元はと言えば俺の金でこの軍ができてるんだから!

ホムラ
じゃあ自分の金で買えよ。
軍の金は隊員たちのご飯とかのために使いたいんだよ!
余裕あるならいいんだけど今はないだろ?
トントンに謝ってこい。

グルッペン
…ウン……

グルッペンと呼ばれたその人はとぼとぼと部屋を出ていった。
さっきの威厳はどこへやら、子供のようにしょげている。
ホムラ
君ごめんな?
あいついっつもこんな調子やねん。

大先生
へっ?
あぁ、別にいいっすよ。

ホムラ
…あいつに誘われたんだろ?

大先生
そんなところです。

ホムラ
入る入らないは君の自由やけど確実に言えるのは、あいつは偉大なるリーダーだよ。
ここに来る人全員の救世主や。

ホムラ
お前もきっといつかわかる日が来るわ。
じゃあ俺行くな。

大先生
…あの!

ホムラ
ん?どした?

大先生
俺入ります。
ここなら俺も楽しめそうな気がする。

長身赤髪の人、ホムラはやっぱり、という顔をして手を差し出した。
ホムラ
ようこそ!
俺はホムラ、よろしくな。
と言っても俺はまだ入ったばっかやし偉そうなこと言えへんねんけどな。

ホムラ
ちょっと待っとって、偉い人呼んでくるわ。

そう言って連れてきたのは最初に連れてきた人、トントンだった。
トントン
おう、おまたせ。

大先生
(最初に人偉い人やったんかい!
怖いわけだわ!)

トントン
まだ名前言ってなかったな。
わしはトントン。
ここではグルッペンの次くらいに権限があるから、困ったら俺に言えばいい。

ホムラ
まあ実際、グルッペンをたしなめれるんはこいつしかいないけどな。

トントン
グルさんは突っ走るくせがあるからな。
誰かが止めてやらんとどっか行ってまうねん。

トントン
とりあえずこの書類にサインしてもらってええか?

大先生
あぁ、はい。

トントン
ここに住むか今まで通りの自分の家に住むか決めてもらいたいんやけど、それで待遇が変わることはないから好きな方選び。

大先生
…高校卒業するまでは家におってもええですか?
オカンに心配させたくないし。

トントン
うん、ええと思うよ。
お前はパソコンいじってもらうことが多いと思うし、それなら家でもできるから。

トントン
週に1、2回ここ来て実践経験積んで行こか。

ホムラ
お前家族と仲ええ?

大先生
まあそれなりには。

ホムラ
そっか、親を大事にしろよ。

ホムラはそう言うと大先生の頭をクシャリと撫で、笑った。
ホムラ
じゃあ俺行くな!
訓練が残っとるし。
また会おうな鬱くん!

トントン
…あいつもええ奴やから仲良くしたってや。
多分お前と同じ歳かちょい上くらいやった気がする。

大先生
へぇ…
トントンさんは何歳なんすか?

トントン
俺?
俺は16やけど。

大先生
え"っ、年下!?

トントン
まあ、せやな。
俺は昔からグルさんに仕込まれとるから。

大先生は今更ながら入るのやっぱりやめとけばよかったと後悔したのだった。