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2006年3月15日
東北男児でも指が凍るほどの寒さだったのを覚えている。
園内は卒園式。皆はいつも通り騒がしかった。強いていえばさっきまた揺れたよね、みたいな話を親達が話していたと思う。
この地域では地震などよくあることだ。 そんなことより今は。その程度だった
自分と花音は、卒園式が終わったら一緒に通う予定の小学校を、手を繋ぎながら見に行こうねと親に内緒で約束していた。
園長先生
園長先生
胸を張ってアーチをくぐって入場して、各々の席へ座る。園長先生の話は長くて正直寝そうだった。
園長先生
この声ではっと目覚めた。名前順でトップバッターが自分だからだ。もう両親はカメラを構えている。
園長先生
天宮 尚(5歳)
かちこちに固まりながらも頑張って一人で歩いて無事席に座った。
左を見ると花音が羨ましそうに証書をみつめている
天宮 尚(5歳)
花音も少し緊張しながらうん、と微笑む
全員の男子園児達が卒園証書を貰い終わる。 さあ、ついに女子園児達の番。花音が貰う番だ。
尚の母・幸子(さちこ)
尚の父・一也(かずなり)
今朝より少し大きな揺れが続いたが、次第に収まり授与式は続いた。
園長先生
一咲 花音(6歳)
そして花音が立った瞬間だった。
外でけたたましい大きさでサイレンが鳴る。
〝緊急放送です。津波警報が発表されました。海岸や河川から直ちに離れ、高い場所へ避難してください。
津波は繰り返し襲ってきます。避難中はテレビやラジオで最新情報を確認してください〟
園児の親達
園内がザワザワと騒ぎ始める
園長先生
朝比奈先生
尚の母・幸子(さちこ)
尚の父・一也(かずなり)
両親がまるで自分を抱き抱えるようにして逃げようとする。それでも
天宮 尚(5歳)
一咲 花音(6歳)
花音は少しの間呆然としていた。 しかし、両親に手を引っ張られると我を取り戻した。
一咲 花音(6歳)
一咲家の母
一咲家の父
一咲 花音(6歳)
花音が初めて泣いたところを見た。 最初で最期 だったかな。
天宮 尚(5歳)
そうして自分は花音に手を差し伸べた。 すると花音は親の手を振り払い、自分の手を両手でギュッと掴んできた。
そして手を繋いだ僕たちは、先生と親達が指示した方向へとひたすらに逃げた。
園長先生
携帯用のラジオを片手に園長先生が語りかけてくる。
自分のすぐ後ろで乱れた呼吸が聞こえる。皆足が早くて、自分の後ろには、花音しかいない
天宮 尚(5歳)
天宮 尚(5歳)
一咲 花音(6歳)
天宮 尚(5歳)
一咲 花音(6歳)
天宮 尚(5歳)
一咲 花音(6歳)
天宮 尚(5歳)
一咲 花音(6歳)
……と、ふっと繋いでいた左手が軽くなった
後ろをむくと 向こうへ走る花音の後ろ姿。
天宮 尚(5歳)
早く走れば走るほど、当然津波からは距離が遠ざかる。それと同時に、見えてくる津波の全貌。
夏はほぼ毎日一緒に泳いでいたから、自分達はどこか、青白い大きな波を想像していた。
──────津波は、真っ黒だった。
それは確実に自分たちをのみこんできている。
それに対して一直線に走る花音の姿
天宮 尚(5歳)
天宮 尚(5歳)
父親は右手を離してくれない。
天宮 尚(5歳)
父親の足関節めがけて盛大に子供ながらのキックを入れる
一瞬だけ力が緩んだので手が離れた。 今だと思い反対方向に向かおうとしたが
天宮 尚(5歳)
朝比奈先生
自分は元からこの先生が嫌いだったが、この時初めて子供ながらに さつい というものを感じた。
女性とはいえ幼稚園児より体力のある先生にはもちろんかなわなくて。 体を抱きかかえられながら避難所へ
朝比奈先生
朝比奈先生
朝比奈先生
その瞬間花音との思い出全てが走馬灯のようにフラッシュバックした。
天宮 尚(5歳)
叫びすぎて酸欠になったのだろうか、そこで自分は気を失った。