夢を見たんだ
唐辛子のように辛くて
血のようにどす黒い夢
その日は
母さんがいなくなってから
初めて
父さんが酔って帰ってきた日だった
父さん
酒が強かった父さんにしては珍しく
泥酔してて
玄関でばったり会ってしまった
𝑆.
正直ちょっとめんどくさくて
すぐにその場を立ち去ろうとした
父さん
この時は
悪酔いするような人じゃなかったんだ
𝑆.
玄関に座り込んで
その場で寝ようとする父さん
𝑆.
色々忙しくて
ちゃんと寝れなくて
まだ小6だった俺は
うざったくて
他人なんてどうでもよかった
父さん
今思えば
この時には
父さんは酔いが 覚めてたんじゃないかな
𝑆.
大人だって
完璧じゃないのにさ
大きな音が鳴った
何事かと思って
辺りを見渡すと
玄関に置いてあった花瓶が割れていた
𝑆.
父さん
父さん
酒のせいか
顔を真っ赤にする目の前の父
𝑆.
𝑆.
𝑆.
急に責められたのが
意味もなく
頭にきて
同じように怒鳴り返した
父さん
父さん
父さん
さぁーっ、と
血の温度が急に下がった気がした
なにか、
なにかを言い返したかった
でも、事実であるが故に
なにも言えなかった
𝑅.
音を聞きつけてか
ひとつ上の兄がドアから顔を出した
𝑆.
彼がどんな顔をしているのか
見るのが怖くて
唇を噛んで俯いた
𝑅.
𝑅.
𝑅.
呆れたような口調で
父親に説く彼
父さん
目は逸らしたまま
家の奥へと消えていった
続く沈黙が
塊となって
体を圧迫する
𝑆.
こんな俺でごめんなさい
人の痛みが分からなくて
薄情で
他人がどうでもよくて
あぁ
気持ち悪い
𝑅.
𝑅.
𝑅.
彼もまた
多くは語らない
でも
確かに
そこにいた
求めるように
ひとりにならないように
手を伸ばす
その手を
目の前の彼ではない誰かが
強く握った
もうそろそろ
時間か
うっすらと目を開けると
つん、と寒さで閉まる喉と
天井に向かって伸ばした手を掴む彼
今までにあったことを
脳内でもう一度再生する
あぁ
よかった
𝑆.
𝑅.
思考を読み取るように
彼は薄く笑う
𝑆.
𝑆.
𝑅.
俺の手をベッドに置きながら
顎で
突っ伏して寝ている弟を指す
𝑆.
𝑆.
𝑅.
𝑆.
なにをしたかは
なんとなく分かるから
聞かないでおこう
𝑆.
𝑅.
𝑆.
𝑅.
𝑅.
窓の遠くを見つめながら
上の空のように答える
𝑆.
𝑅.
少しだけ目を細めて
笑むように口角を上げる
𝑆.
𝑅.
𝑅.
オールをした時特有の
掴みどころがない話し方
首を持ち上げて
ベッドの背もたれに寄りかかる
𝑆.
まだ4時半
それなりに寝れるはずだから
𝑅.
𝑅.
𝑆.
𝑆.
𝑅.
𝑆.
余計に不安にさせそうで
そこだけ気を使う
𝑅.
渋々、といった表情で
端末を傍の机に置く
ちょこちょこと
うさぎ歩きで
部屋の角まで移動する兄
𝑆.
𝑅.
𝑅.
縮こまって膝を抱える
𝑆.
𝑅.
𝑅.
𝑆.
𝑅.
𝑅.
諦めるように
突き放すように
嗤うように
言葉を届けてくる
𝑆.
𝑆.
𝑅.
見えない言葉をよけるように
ゆらゆらと首を揺らす
この状態の彼に
なにを言っても通用しない
心の中でため息をついて
先程まで使っていた背中にある枕を
全力で彼に投げつける
𝑅.
無言で投げたためか
反応が遅れて
左頬にクリーンヒット
𝑅.
𝑆.
𝑅.
𝑆.
𝑅.
𝑅.
𝑆.
怒った怒ったと
ぶつぶつ呟きながら
枕に顔を埋める彼
すぐ傍にいる
弟の髪を撫でる
久しぶりに夢を見て分かった
夢って
こんなにキツいのか
まるで
もうひとつの現実が 目の前にあるような
恐怖も
焦りも
まるで本物
𝑆.
静かな病室に
自分の声だけが反響する
光源がないせいで
余計に青白く見える彼の頬を
少し迷ってから
そっと撫でる
寝たふりをして静かな兄も
驚くほど頬が冷えている弟も
この時間だけは
ひとりでいい
今だけは
時間が止まってる気がするから
静かな寒さと
今だけは気持ちを共有して
これから起こるであろうことに
思いを寄せる
この冷たい暇を
愛せる気も
憎める気もするから
𝐶.
𝐶.
ぼそり、と
横から聞こえた言葉
寝息とともに
流れてしまった彼の涙を
指先で
触れてはいけないものに 触れるように
優しくなぞる
大体の道筋を予測して
考えを整える
これもまた
一難
𝑆.
𝑆.
𝑆.
𝑆.
𝑆.
独り言にしては大きく
はっきりと言葉にする
𝑅.
𝑅.
寝言のように
薄く応える
𝑆.
白み始めた空に
会釈をして
ふと願う
″ 今日もまた、 いい日でありますように ″
𝑡𝑜 𝑏𝑒 𝑐𝑜𝑛𝑡𝑖𝑛𝑢𝑒𝑑...
コメント
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ブクマ&マイリスト失礼します!!🙇🏻
連載ぶくま失礼します> <