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かえでの妄想吐き溜め場

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かえでの妄想吐き溜め場

33 - 何かがおかしいボク恋if短編集

♥

220

2023年10月05日

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注意!

こちらは歌い手さんのnmmnです そらまふBL要素もちょっとあり

『ボク恋』のifストーリーです 読んでいない方はぜひ本編から

本編とは違うダークなストーリーの為 キャラ同士の仲が歪だったり めちゃくちゃ悪かったりします 苦手な方は注意

いじめ、やや暴力表現 なども諸々注意

何でも許せる方どうぞ!

1、無自覚共依存(真冬&真夏)

〜真冬 side〜

ガンッ!!

真冬

っぐ……!! げほっ、げほっ……

放課後の体育館裏

建物の暗がりに、僕と、 クラスメイトの男子が3人

男子

いちいちムカつくんだよ、お前は!

バシッ!!

真冬

っつ……!

殴られた反動で、体が大きく 突き飛ばされて、背中を建物の 壁に強く打ち付ける

“これ”が始まったのは、 2年生になって少しした頃

僕の何を妬んだのか、最初は小さな イタズラから始まって、段々とこんな ことにまでエスカレートしていった

真冬

(……そらるさんと約束してた通話の時間、間に合うかな)

どんなに辛くても、僕のそばには いつもそらるさんがいてくれたから、 何をされたって平気で耐えられた

今だって、考えてるのは彼のことだけ

好きな人の為なら、何だってできる、 何だって耐えられるんだ

男子

何ニヤニヤしてんだよ、気持ち悪りぃ!

ドンッ!!!

この人達は“これ”の発覚を 恐れてなのか、顔や腕の肌が隠れない 部分には、傷をつけて来ない

そのおかげで、僕も家族に…… 姉さんにすら隠せてるから、 助かってるけど

男子

はぁ、そろそろ帰ろーぜ

いつの間にか、すっかり空は 夕焼けに染まって、最終下校時間を 知らせるチャイムが鳴っていた

真冬

……時間……

彼らが去った後、すぐに スマホで時間を確認する

真冬

(よかった、まだ走って帰れば間に合う……!)

曲がったネクタイを元に戻して、 軽く制服についた土埃を払う

それから、地面に放り出されている カバンを持って、軽快な足取りで 校門へと走って行った

次の日

今日も放課後に呼び出されて、 いつもの体育館裏へと向かう

そこには、いつもの男子3人がいた

男子

よぉ、随分遅かったな

真冬

……“先輩”と少し話してたから

男子

まーたその“先輩”かよ、一体どこの誰なんだか

男子

まぁ何だっていいだろ。それより今日は、ちょっと特別なもん用意してんだよ

真冬

(特別……?)

そう言って、相手がそれぞれ 取り出したのは、ハサミだった

男子

お前のその長い前髪、前からずっと鬱陶しかったんだよなぁ

真冬

(…………まさか……)

男子

だから、特別に俺らが切ってやるよ

真冬

っ……いい、余計なお世話

男子

あ? 誰が口答えして良いっつった??

真冬

っ……!!

そう言われると同時に3人に 囲まれて、ハサミを構えられる

真冬

(まずい……!!)

???

ちょっと!!

真冬

っ!?

突然暗がりの外から、 聞き慣れた声が聞こえる

真冬

姉さん……?

真夏

あんた達、私の真冬に何してんのよ!!

男子

違っ、真夏、これは……!

真夏

気安く下の名前で呼ばないで! いいからさっさと失せろ!!

今までに見たことのない剣幕で、 相手の男子達に怒鳴る彼女

男子

チッ、クソ……!!

その必死の形相にたじろいだのも 束の間、3人が去っていった

真冬

ね、姉さ……

真夏

真冬っ、大丈夫!?

彼らの姿が見えなくなった後、 姉さんがすぐ僕の元へ駆け寄ってくる

真冬

ぼ、僕は大丈夫。それより、何でここが……

ギュッ

僕の言葉を遮って、 突然抱きついてきた

真夏

良かった……。

真夏

……私の真冬……私だけのっ……

真冬

姉さん……?

真夏

……あっ、ごめんね、急に来てびっくりしたよね!

真夏

ここが分かったのは……これ

そう言って見せてきたのは、 姉さんのスマホのとある画面

真冬

何これ?

真夏

GPSだよ、真冬のスマホの位置を登録してるの。

真夏

ほら、少し前から真冬、全然一緒に帰ってくれないでしょ?

真夏

最初は、クラスの友達と帰ってるんだって言うの信じてたけど……やっぱりちょっとおかしいって思って……。

真夏

だから私、どうしても心配で心配でっ……!

……そっか、姉さんは僕を心配して……

真夏

あっ、べ、別に私、真冬のことを信じてないとか、そう言うんじゃなくてね?

真夏

ただ、真冬が心配なだけでっ……!!

真冬

うん、分かってるよ。助けてくれてありがとう、姉さん

真夏

っ……! うんっ!

真夏

じゃあ、そろそろ帰ろっか!

真冬

うん。……あっ、姉さんあのね、一つ言いたいことがあって

真夏

なぁに?

真冬

さっき電話があったんだけど、実は今度ね、そらるさんが千葉に来るんだって。

真冬

それで、せっかくだから会おうよって誘われちゃって!

真夏

わっ、そうなんだ。良かったね!

真冬

うんっ。姉さんは応援してくれてるからさ、どうしても伝えたかったんだ

真夏

ふふっ、そりゃあ私の大事な弟だもん! 誰に恋したって、応援するのは当たり前でしょ?

真冬

じゃあその分、僕も姉さんの恋応援するよ

真夏

私のことはいいの! 姉さんが好きなのは真冬だけだもん

真冬

あははっ、そうだったね。

真冬

ありがと、真夏

彼との約束に想いを馳せながら、 大好きで大切な人と2人で、 夕焼けに染まった道を歩いた

2、懐古(彼方&芽衣&智弥&九葉)

〜彼方 side〜

去年の年明け、両親が離婚した

詳しい理由は、俺達兄妹は分からない

ただ知っているのは、 痴情の絡れではないらしいことだけ

2人の離婚後、俺は父さんの方に ついて実家の宮城に、妹の芽衣は 母さんの方について、変わらず 千葉のあの家で暮らしている

他に変化したことといえば、 芽衣の名字が、母さんの旧姓の 加賀野になったことくらいか

車内アナウンス

『次は、○○、○○……』

ぼんやりと当時を思い出しながら 電車に揺られていると、 あっという間に目的の駅に着いた

電車を降りて、改札を通って、 駅から出る

16年間も住んで、育ってきたこの町

離れたのはたった1年とちょっとの はずなのに、この見慣れた景色が、 やけに久しぶりなものに見える

彼方

(たしか、あっちの広場に……)

ある人と約束をしていた 場所まで行くと、やけに目立つ、 白い頭を一つ見つける

そらる

よ、まふまふ

まふまふ

そらるさんっ!

オレが声をかけると、 すぐにぱっとこちらを 振り返って笑顔を向けてきた

こいつはオレの相方のまふまふ

ネットの歌い手活動を通して 知り合って、去年の春に 音楽ユニットを組んだ奴だ

まふまふ

リアルで会うのは、久しぶりですね。この前のイベント以来でしたっけ

そらる

あ〜、もうそうなるか。どう、元気にしてた?

まふまふ

そりゃあもちろん!

まふまふ

……あ、そういえばそらるさん。今日こっちに来た用事って聞いてもいいですか?

そらる

え?

まふまふ

この町特に何もないのに、用事があるなんて珍しいなぁって思って。ほら、普通は東京に出るだろうし……。

まふまふ

……あっ、別に言いたくなかったら全然言わなくて大丈夫ですけど……!

そらる

……確かにこの町、昔から本当に何もないよな

まふまふ

えっ?

そらる

何でもない。今日はちょっと、人に会いに来ただけだよ。

そらる

元気ならよかった。じゃあオレそろそろ行くな

まふまふ

え……あっ、はい! じゃあまた!

そらる

うん

……今一瞬、あいつが少し悲しそうな 顔をしたように見えたのは、 多分オレの気のせいだろう

立ち止まることはせず、 真っ直ぐ目的の場所へと向かった

久しぶりに見る、元の自分の家

彼方

(……もう1年振りか)

見上げるのをやめて、 家のインターホンに手を伸ばす

ガチャッ

……すると、ボタンを押す直前、 玄関のドアが開いた

芽衣

あ……

彼方

……あー……久しぶり

久々に見た妹は、相変わらず片手に お菓子の袋を持って、隣に遊びに 行こうとしていたらしい

芽衣

久しぶり。その、今お母さんいないんだけど……。

芽衣

……あ、そうだ。こっち来る?

ガチャッ

容赦なく隣の玄関のドアを開けて、 中に入っていく芽衣

九葉

あ、やっと来た……ってえ、彼方兄?

彼方

久しぶり。……つか相変わらずだな、お前ら

芽衣

相変わらずって、生活は結構変わったけどね。お母さん働いてるし、私も高校入ってすぐバイトしてるし。

芽衣

今日はちょうど休みだったけど

彼方

あー、そうか……

九葉

よく分かんないけど……ここでこんな話するのも何だし、部屋来なよ。とも兄もいるから

ガチャッ

そうして案内されたのは、九葉の部屋

……ではなく、智弥の部屋だった

智弥

ちょっと、部屋入るならノックくらい……。

智弥

……って、彼方兄!?

何やらパソコンで作業を していたらしく、こちらを 振り返った途端、目を見開く智弥

彼方

智弥も久しぶりだな

智弥

いやっ、久しぶりじゃなくて! 来るなら連絡くらい寄越してよ!

九葉

あっはは、何だかんだで相当寂しがってたもんね、とも兄

智弥

ゔっ……だ、だって、リアルの遊び相手いなくなったんだからしょうがないだろ!

智弥

っていうか彼方兄、何であっちじゃなくてうちに?

芽衣

ちょうどうちの前でばったり会ったんで、お母さんは今いないし連れてきました

彼方

俺も2人には顔出す予定だったし、それでついてきた

智弥

あぁそっか、今おばさん仕事してんだっけ……

彼方

……っていうか智弥、その髪どうした?

去年は色を抜いて茶髪だったのに、 今年は赤く染まっている智弥の髪

智弥

あ〜……これはまぁ、瑞樹さんに煽られて……

九葉

そうそう、ハンドルネームが“赤髪のとも”なのに、髪赤くないよねーって言われてて

芽衣

しかも、このままじゃ“茶髪のとも”だよね〜って

智弥

ちょっ、2人とも掘り返さないでよ!

彼方

(あぁ、瑞樹の仕業か……)

そういえば、活動関連で通話 することはあっても、あいつにも 久しく会ってなかったな

彼方

いいんじゃないの? 似合ってはいるし

智弥

“似合ってはいる”って……

彼方

そういや、2人はどこの高校入ったの?

芽衣

私らはみんな椛高だよ。観鈴もここ入ってる

九葉

後今、瑞樹さんが生徒会長やってるんだよ……あれ、去年からだっけ?

智弥

うん、俺が1年の頃だから去年から

彼方

え、あいつが?

そんな話、本人からは 一切聞いたことがない

九葉

ただ、相当大変みたいだよ。

九葉

観鈴に聞いたんだけど、家の跡継ぎってこともあるし、生徒会長はほぼ家から強制された形でなったらしくて……

新條家は日本でも有名な財閥家で、 瑞樹はその家の長男

昔から代表の父親についていって、 表舞台に出ることもあったらしい

彼方

(確かに、そういうのを今のうちに経験することも大事なんだろうけど……)

芽衣

お兄ちゃん、あの人と連絡取り合ってるんだっけ

彼方

活動手伝ってもらってるし、結構頻繁に取り合ってはいるよ

……心配だし、後で連絡してみるか

その後、しばらく3人と近況報告を して、一度香月家を出た

彼方

(母さんは、まだ帰って来なさそうだし……)

……久しぶりに、 少し町をふらついてみるか

3、不可逆変化-Ⅰ(棗)

〜棗 side〜

…………

翔太

…………

……いつからだろう

私達が、学校の廊下で すれ違っても、目線一つ 合わせることがなくなったのは

翔太

……何だよ

別に。ってかそっちこそ何?

些細な会話一つで、どうでもいい 口喧嘩をするようになったのは

翔太

……別に

じゃあ話しかけてくんな

……その度に、少し心が 痛むようになったのは

全部、いつからだろう

昔は……たった1年前は、こんなの あり得ないくらい仲が良かったのに

毎日2人で登校して、放課後は 寄り道なんかして、帰ってからも お互いの家に遊びに行ったりして

それが、全部嘘だったみたいな、 幻だったみたいな、今の関係

──本当は、こんなことしたくない

本当は──

その先の気持ちに、もう気づいちゃ いけないような気がして、 脳裏に浮かぶ度、すぐに掻き消す

いい加減翔太君と仲直りしなさいよ、前はあんなに仲が良かったのに

…………

(……今更仲直りったって、どうやって……)

私達は何のせいで喧嘩して、 誰のせいでこうなったのか

何に対して謝ればいいのか、そもそも 自分が謝る側なのかすらも、時間が 経ちすぎた今では思い出せないのに

(もしかしから、もう、一生このままなんじゃ……)

……そんな中、事は突然起きた

……誰、それ……?

放課後、偶然廊下で ばったり出会した

……彼の傍には、 知らない女子生徒が1人

しかも、やけに距離が近い

女子生徒

黒木さん……?

一方の相手は、私のことを 知っていたらしい

そりゃそうか、去年までは カップル疑惑とか言われてたんだし、 校内でもそこそこ有名だったから

翔太

……別に。棗には関係無い

っ、関係──!!

彼の言葉についカッとなって、 言い返そうと口が勝手に動く

……だけど、寸前で止まった

……っ……。

っ……そうよな、そっちが誰とつるもうが、別に何も関係無いわ

……さっき、ようやく 久しぶりに目が合ったのに

怖くなって、自分から 逸らしてしまった

翔太

…………。

翔太

……ごめんね、行こ

女子生徒

う、うん……

とうとう2人が私の横を通り抜けて、 離れていってしまう

…………。

……っ……。

っ……何でだよぉ……!

1人になった途端、堪え切れなく なって、両目から涙が溢れ出してくる

何の涙か、自分でも分からなかった

相手に怖気付いてしまった 悔しさなのか、何も言い返せなかった 自分の無力さなのか

……もう、とっくに引き返せない ところにいるのに感じてしまった、 “後悔”なのか

ずっと分かってたよ、相手に対する 自分の本当の気持ちなんて

分かってたけど、 知らないふりをしてたんだ

これの始まりと同じように、 怖くなって

臆病な自分のせいで、 ずっと後悔ばかりだ

今だって、ほら

もう戻れないのに、意味も無いのに、 あの時こうしていたらなんて、 叶わないことを考えてる

っ……ごめん……!

この1年ずっと言えなかった言葉が、 今になってようやく出てきた

本当は──

もう、何もかも手遅れだよ

4、不可逆変化-Ⅱ(翔太)

〜翔太 side〜

この1年の始まりは、きっと あの出来事がきっかけだ

去年の冬頃、いつも通り 96ちゃんがうちに遊びに来て、 一緒に部屋でゲームをしてて

そんな時、こんな話をしたんだ

……つっきー

翔太

ん?

…………。

っ……あ〜……。

……や、やっぱええ! 何でもない!

翔太

え、何それ、気になるじゃん

ええもんはええの!

翔太

この後に及んで僕に隠し事ー?

うぐっ……

15年来の仲、僕には隠し事なんて ないと思ってたし、相手も然り、 お互い何でも言ってると思ってた

……でも、その時は咄嗟のことで 気がつけなかったけど、実は 一つだけあったんだよね

僕が彼女を好きなこと

今考えれば、僕が唯一知らない 96ちゃんの隠し事も、 きっとこれだったんだと思う

……それを、あの日の時点で口に していればよかったんだけど

ほ、ほんまに何もないから! これ以上首突っ込むなっ!

だけど僕は、何でも話してきたと 思ってた中で初めて隠し事を されたのが、嫌だったみたいで

つい、しつこく聞いてしまったんだ

そしたら当たり前だけど、 96ちゃんは怒って出て行っちゃって

それからは、すれ違いが重なって

やっと話せると思った日にはもう、 今までしていた相手への接し方が、 分からなくなってて……

……そこからは、今の関係に至る

出会せば即喧嘩、でも一度に言葉を 交わすのは、いつも3、4回程度

そんな暗いどんよりとした日常の中、 一つの大きな変化は、突然訪れた

女子生徒

ま、前からずっと好きでした!

朝、自分の下駄箱に一通の手紙が 入っていて、中身を開けば、それは 分かりやすいラブレターで

そして放課後、手紙に書かれていた 場所に向かえば、そう告白された

この子は確か、去年クラスが同じで、 数回話したことがある人だったような

必死に告白されて、それでも 一番気になってしまったのが、 “前からずっと”って言葉だった

前からずっとって、一体どれくらい?

それは96ちゃんよりも長くってこと?

僕らは生まれてから ずっと一緒だったのに?

生まれて初めての告白なのに、 僕の頭の中を埋め尽くしたのは、 やっぱり彼女の存在で

だけど……いや、だから、かな

この子と付き合えば、 96ちゃんはどう思うんだろうって、 考えてしまったんだ

もしこの子と付き合ったら、 96ちゃんは嫉妬してくれるかな

本当のことを、隠してたことを その口から教えてくれるかな

今まで通りの仲に……もしかしたら、 それ以上にもなれるかな

……その考えが巡った後、 すぐに僕は、笑顔で答えを出していた

翔太

うん、いいよ

その後、2人で廊下を歩いていると、 幸か不幸か、早速彼女に会った

……誰、それ……?

驚きと、それ以上にショックが 混じったような目を向けてくる

僕が思った通りだった

そうだよね、辛いよね

でも、まだチャンスは あるんだよ、96ちゃん

翔太

……別に。棗には関係無い

敢えて、冷たく 突き放すようなことを言う

っ、関係──!!

するとほら、 やっぱり突っかかってきた

……っ……

翔太

(……あれ……?)

何故かそこで、言葉を詰まらせる彼女

だけど次の瞬間、 こんな言葉が飛んできた

っ……そうよな、そっちが誰とつるもうが、別に何も関係無いわ

翔太

(……え?)

なんで?

……なんで、そうなっちゃうの……?

せっかく今、久しぶりに 目を合わせてくれたのに

それもすぐ逸らされて

翔太

…………

翔太

(……あぁ、そっか)

そういえば96ちゃんって、 昔から見栄を張るばっかりで、 ほんとは臆病な子だったよね

こんなに体も小さいし、 本当に子猫みたいな子だった

……だけどそっか、こんな時でも 96ちゃんは、自分の気持ちを 優先しちゃうんだね

翔太

……ごめんね、行こ

隣にいる子に言葉をかけて、 スタスタと彼女の横を歩いて去る

……後ろから、小さな泣き声が 聞こえたのは、知らないふりをした

5、先天性“無”自由(瑞樹&観鈴)

〜瑞樹 side〜

それは、とある秋頃のこと

彼方

……瑞樹?

生徒会の用事が終わった、 休日の学校帰り

いつもみたいに特に意味も無く寄り道 した駅前で、そんな声をかけられた

瑞樹

彼方……?

振り返ると、そこには かつての親友の姿が

瑞樹

久しぶりじゃん。え、何でこっちに?

彼方

お前こそ、何で土曜に制服着て駅前彷徨いてんだよ

瑞樹

え? あぁ、今日学校に用があって、その帰りだよ

彼方

……家の方向逆だけど

……まぁ流石に、1年ちょっとじゃ 忘れてなかったか

瑞樹

っ、まぁ、それより俺の質問にも答えてよ。こっち来るなら教えてくれればよかったのに

軽く誤魔化して、話を逸らす

彼方

……休みだったから。後流石にそろそろ顔出した方がいいと思って。

彼方

さっき芽衣と智弥達に会ってきて、今はその辺散歩してたところだよ

瑞樹

へぇ……。おじさん元気? 2人ともあっちで上手くやってる?

彼方

まぁまぁ。学校も普通に楽しいし、父さんも仕事見つけて働いてる。

彼方

実家の人達も優しくしてくれてるし、意外とどうにかできてるよ

瑞樹

そっか

彼方

……そっちは?

瑞樹

え?

彼方

あいつらに聞いたけど、去年から生徒会長してんだろ。活動も手伝ってくれてんのに大変じゃない?

瑞樹

いや、全然平気だよ。寧ろ手伝いが息抜きになってるっていうか……

彼方

けど、家のこともあるだろ

少々食い気味に、そう投げかけられる

瑞樹

……!!

瑞樹

…………。

瑞樹

これくらいこなせないと、家の跡継げないでしょ?

瑞樹

ほら、俺のことはいいからさ。久しぶりに帰ってきたんだし、もっと色々見て回ったら?

……また、はぐらかしてしまった

彼方

……無理だけはすんなよ。倒れられても嫌だし

瑞樹

分かってるよ

彼方

じゃあ

瑞樹

うん、また

かつての親友相手にも、 弱音一つ吐けない

本当の自分を、弱い姿を 見せるのを、恐れてしまった

瑞樹

(……そりゃそうか)

始めから隠してきたくせに、 今更曝け出せるわけがない

観鈴

あ、お兄ちゃん……

瑞樹

ただいま、観鈴

観鈴

おかえり……その、お父様がさっき……

瑞樹

……分かった、すぐ行くよ

用件は多分、いつものやつだろう

観鈴

お、お兄ちゃん

瑞樹

ん?

観鈴

えと……最近ずっと、無理、してない?

心配そうな表情で、観鈴に聞かれる

瑞樹

……俺は大丈夫だよ。それより父さんが呼んでるんでしょ、行ってくる

 ……俺は、この子にだけは、 心配をかけちゃダメだ

観鈴を振り切って、荷物を置く為に 一度自分の部屋に戻ってくる

瑞樹

……大丈夫……

毎日毎日、家の重圧に耐える日々

自分を偽って、自分自身を 騙していないと、こんな日常は やっていられなかった

……だから、中学の頃、屋上にいた 自由な彼を見た時、心の底から 羨ましいと思ってしまったんだ

何にも囚われず、自由に “自分”の人生を生きている彼が

それが、いつしか憧れになって…… そんな彼の近くにいれば、俺も少しは 自由になれるのかな、なんて夢を見て

瑞樹

(……そんなもの見たところで、結局現実は何も変わらないのにな)

瑞樹

失礼します

部屋で荷物を置いて着替えた後、 無駄に長い廊下を歩いてきて、 父さんの書斎に入る

父親

……遅かったな

瑞樹

生徒会の仕事が長引いたから。……それで、用件は何?

手短に済まそうと、父さんがいる 机の近くまで寄って、返答を煽る

父親

“そらる”……本名は一ノ瀬彼方だったか

瑞樹

っ……?

父さんの口から彼方の名前が出て、 思わず体が強張る

……こういう時は、 到底良い予感はしないもので

父親

彼と関わるのをやめなさい

瑞樹

…………は?

彼方と……関わるのをやめろ……?

瑞樹

っ……理由は? 関わるなって、なんで……

父親

彼の手助けだか何だか知らないが、そんなことに時間を費やしている暇はお前には無いだろう?

父親

それに瑞樹、お前は人の下についていい身分じゃない。少しは立場を弁えなさい

瑞樹

いや、立場って……

父親

将来的に考えても、いずれ離れることになる。それが少し早まっただけだ。

父親

昔から言っているだろう、交友関係は慎重に選べと。こういうことが起こるから言っていたんだ

瑞樹

そ、れはっ……。

瑞樹

っ、でも、別に家のことにも学校にも、支障は来してないよね?

瑞樹

成績だって、下がってるわけじゃ……

父親

成績?

父親

……成績が良いのは大前提だろう、今更何を言っているんだ?

瑞樹

っ……!?

瑞樹

(後……他に、何か、言い返せることは……??)

どうしても、どうしてもこれだけは 手放したくなくて、必死に頭を 回転させて、言い訳を探す

自分の唯一の逃げ場だったのに、 それを取り上げられたら、俺は──

父親

あぁそれと、お前の部屋のパソコンは破棄させてもらう。使い道も無いのに、スペースを無駄に取るだけだろう

瑞樹

なっ──!?

今更こいつは何を言っているんだ

こんな広い屋敷に住んでおいて、 しかも人の部屋の、パソコン一つを 置く場所が勿体無いだって?

瑞樹

(勝手に人の居場所を……!!)

瑞樹

っ!!

いてもたってもいられなくなって、 書斎を出て、急いで自室に向かう

観鈴

やめてください!!

その途中、階段の上から 観鈴の声が聞こえてきた

観鈴

ねぇお願い、それはお兄ちゃんの大事な物なの! いくら何でも取り上げるなんて……!!

使用人

お嬢様、落ち着いてください

観鈴

そもそも何でこんなことをしているの!? 一体誰の許可があって……

使用人

慶一郎様直々のご命令です

観鈴

え……お父様の……??

使用人

……失礼します

使用人が降りて来ると、俺の前を 横切るなり、軽く会釈をされる

瑞樹

(……間に、合わなかった……?)

観鈴

……あ、お兄ちゃ……!

瑞樹

観鈴……

観鈴

っ……ごめんなさい……! 私、守れなかった……!

目に涙を溜めながら、 そう謝ってくる観鈴

瑞樹

……いいよ、ありがとう。

瑞樹

さっき父さんに言われたんだ、もう彼方と関わるなって

観鈴

え……? な、なんで、そんなこと……!

瑞樹

仕方ないよ。元々自由に使える時間はほとんどなかったんだし、父さんの言ってることも分かるからさ。

瑞樹

俺は大丈夫、大丈夫だから

……最後は、ほとんど 自分に言い聞かせていた

泣きじゃくる観鈴を宥めて、 部屋に送ってあげた後、改めて 自分の部屋に戻って来る

瑞樹

(あっはは、ほんとに無くなってるや……)

作業机としてパソコンを 置いていたスペースからは、 それが跡形も無く消え去っていた

さっき、自分で言ったじゃないか、 元々俺に自由は無いって

この家に生まれた時点で、 俺の人生はとっくに決まってたんだ

俺の人生には、俺の意思が関与できる 隙も、“俺自身”を見てくれる人がいる スペースだって、1ミリも存在しない

瑞樹

……疲れた……

きっと俺はこれからも、この家に、 この肩書きに飼い殺されるんだろう

だったらもう、最初から全部諦めて いれば、楽になれるじゃないか

……あれ

──なんで泣いてんだ、俺?

かえで

さて……()

かえで

あ、申し遅れました、かえでです

かえで

なんでこんな話書いたんだ私……←

かえで

っと、一旦各話の解説をしていきましょうか……w

かえで

そもそもの話をするんですが、今回の話、全て同じ世界線の、ほぼ同時期の話になります

かえで

大方の事の発端は、一ノ瀬家の父親が病気にかからず生きていることです

かえで

それによってこの夫婦は離婚という道へ進み、彼方が宮城へ引っ越したことで、さらに色々と歯車が狂い始めます

かえで

そらまふは出会う事なく、彼方が生徒会長として“王子”になることもなく…

かえで

その代わり、瑞樹が生徒会長となっています

かえで

ちなみに、相川家と天宮家と黒木家、この世界線では、実は大して仲が良くないです

かえで

まふまぬは双子で、96月は幼馴染でそれぞれ仲は良かったけど、ここの2つはただの隣人みたいな関係で、特に交わることがありません

かえで

そらるさんは本編で不幸だった分、今回は比較的幸せ寄りなわけですが…(宮城の学校楽しく過ごせてるそうなので←)

かえで

その分、不幸が倍以上になって、他の人達の元へ行ってしまうという…()

かえで

ではまずは1話目、『無自覚共依存』

かえで

活動の相方である“そらるさん”に恋をしているいじめられっ子の真冬と、ブラコンを拗らせて弟への愛が歪みに歪んでしまった真夏のお話です

かえで

到底まぬんちゃんが言うとは思えないセリフ吐かせてますがそれはまぁご愛嬌ということで(?)

かえで

この真冬の恋心は、どちらかというとガチ恋とかそっち系に近いものです

かえで

ずっと推して相方にもなって、その中で好きになっちゃった、みたいな感じですね

かえで

そして、例の如く姉の権限で共に白髪になり、コンタクトを作らされた真冬…←

かえで

この世界線では「メガネしないと恋愛禁止」って彼方に言われてない(そもそも同じ学校に通ってない)ので、普通にコンタクトをしています

かえで

姉からの異常なまでの愛を、弟は異常と感じず普通に受け取って、お互い無自覚に共依存している双子でした

かえで

2話目の『懐古』は、1年振りに元いた町へ帰ってきた彼方、そして再会した妹と隣人達のお話です

かえで

このそらるさんは別にまふくんに恋はしてないので、会っても結構あっさり受け流してますね

かえで

おそらくコミケとかのイベントか何かで会ったことはあるので、お互いの顔は認知しています

かえで

懐かしい道を辿って、自分の元の家に着くと、そこでばったりと妹の芽衣と再会

かえで

さらに隣人の香月兄妹とも再会し、お互いに近況報告をします

かえで

話によると、彼方と芽衣の母親は、今は働いており、芽衣もバイトをしてお金を稼いでいるとのこと

かえで

智弥は仲間とゲーム実況を続けていますが、少々口調が荒めになって、微妙にグレています←

かえで

九葉は相変わらずの調子に見えますが…

かえで

おそらくこの子は、辛い時ほど笑って、痛みを誤魔化す癖があるのかなと思います

かえで

自分の気持ちを隠すのは人一倍上手いのではないでしょうか

かえで

そしてここで彼方は、活動を共にしているにも関わらず、初めて瑞樹の近況を知ります

かえで

これは瑞樹本人が心配をかけたくなくて隠していたことが原因ですね

かえで

4人で話した後、彼方は香月家を出て、久しぶりの町を歩き始めました

かえで

…と、ここでこの話はいったん終了

かえで

3.4話目の『不可逆変化-Ⅰ・Ⅱ』

かえで

同じ話を、96月それぞれの時点で書いたものになります

かえで

自分の気持ちを伝えることが苦手で、それでいつも後悔をする棗

かえで

一方、どうしても本当の気持ちをちゃんと言葉にして伝えてほしい翔太

かえで

些細なことから2人の仲に亀裂が入り、それを1年もの間、引きずることになります

かえで

そんな中訪れた次の変化は、とある女子生徒からの翔太への告白でした

かえで

まぁもちろん最初は断るつもりだったであろう天ちゃんですが←

かえで

「この子と付き合えば、96ちゃんは嫉妬して、本当のことを話してくれるんじゃないか」

かえで

ふとした瞬間に巡ったこの考えにより、その告白を受け入れることにします

かえで

しかし、思惑通りにはいかず、相手は今まで通り何も話してくれませんでした

かえで

彼女の内にあったのは、「本当は相手のことが好きなのに」という考えではなく、「本当はもう何もかも手遅れなのに」という考えだったからです

かえで

このすれ違いにより、翔太は失望し、2人の仲はもう二度と元には戻らなくなってしまったと…

かえで

5話目、『先天性“無”自由』

かえで

財閥級の特殊な家に生まれたことによる、瑞樹の苦悩の話です

かえで

実は2話目の終わりは、この話の冒頭に続いていました

かえで

休日、生徒会の仕事の為に学校へ行き、そのまま家に帰ることはせず、意味もなく家とは反対方向の駅前へと寄り道した瑞樹

かえで

そんな彼の心の内には、「息苦しい家に帰りたくない」、「自由が欲しい」という気持ちがあったのではないでしょうか

かえで

ちなみにこの瑞樹さん、コンタクトではなく眼鏡をしていて、さらに生徒会長なのでしっかりネクタイもしています

かえで

本編の自由人瑞樹さんと比べるとこんな感じですね

かえで

その明るい笑顔は一体どこへ…←

かえで

話を戻して……この日は駅前で、偶然彼方と再会します

かえで

久しぶりに会話を交わす中、瑞樹はいくつか嘘をついたり、話を誤魔化したりしていますね

かえで

彼方と別れて帰った後、妹の観鈴から、父親が呼んでいるとの話を聞き、書斎へ向かいます

かえで

ちなみにお父さんの名前は新條慶一郎(けいいちろう)さんです

かえで

親友に本当のことを話せなかったことを少々悔やみつつ、そこで言われたのは、親友との関係を断つこと

かえで

さらに話している合間に、作業の為に使っていたパソコンまで没収されてしまうという徹底ぶり

かえで

ちなみにこれプロセカのまふゆ母がしてることとほぼ同じです(((

かえで

父親からは、成績は良くて当たり前、他のことにうつつを抜かしている暇などないと、間接的に自由がないことを告げられます

かえで

瑞樹にとって、MV制作など、インフォとして彼方の手伝いをすることは、現実を忘れられる数少ない趣味……言わば心の逃げ場でした

かえで

観鈴もそれを理解していて、兄の壊れかけの心の為に抗おうとしますが、結果は呆気なく…

かえで

自分の唯一の居場所を奪われた瑞樹は、全てを諦めて、自分の人生の未来の可能性すらも手放してしまいました

かえで

こちらやみずきさん…(((

かえで

いつもみんなの前で見せていたあの明るい性格は、自分の心を守る為、弱いところを見せない為の“キャラクター”だったっていう話です

かえで

ただ、彼方の“王子”とは少々似ても似つかないものですね

かえで

本編の瑞樹さんのキャラが実際に作り物だったのかどうかは、皆さんにお任せします…

かえで

そんなわけで、解説は以上になります

かえで

ちなみに今回出てこなかった蒼井姉弟ですが、本編から色々と変わったことによって、引っ越してすら来ていません

かえで

(ほんとは病み要素作るの難しかっただけ←)

かえで

大半を深夜テンション(というより寝落ちする寸前の状態)で書いてたので、特に天ちゃんの話とか瑞樹さんの話はとんでもないくらいに重い話になってしまいました()

かえで

瑞樹さんに関しては本当にごめんなさい←

かえで

96月も不仲にしてごめん←

かえで

(にしても久しぶりに筆が乗ったなぁ…←)

かえで

というわけで今回は、全5話、約560タップ…

かえで

ここまで読んでいただきありがとうございました!

かえで

おつえで!

かえでの妄想吐き溜め場

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コメント

6

ユーザー

一ノ瀬家のお父さんが生きてた世界線でこんなに変わるとは… どれも素敵なストーリーだったけど一番好きなのは96月だなぁ〜 ああいう系はいつかハッピーエンドになると考えてしまうw 瑞樹さんと慶一郎さん、本当にまふゆちゃんとまふゆママと一緒だなぁ、 ということはいつか瑞樹さんにも希望が!!← やみずきさん…良いなぁ〜(( 今回も全て最高でした! ありがとうございます!!

ユーザー

あああ…どのお話も最高すぎる… 特に96月と瑞樹さんのお話が好きすぎる… あの平和な青春してたボク恋はどこへ… 96月のすれ違い…悲しすぎる… 96ちゃんもあまちゃんも……ただ… そして瑞樹さん……ほんとにまふゆちゃんや 冬弥と同じですね… 闇深系のお話が大好きな私なんだよなぁ… ありがとうございます(?) めっちゃめっちゃ最高でした!

ユーザー

あんなに平和なボク恋も、ここまで暗い展開にできるなんて…… 少しボク恋本編と違うだけで、まふくんや真夏ちゃん、96月がこんなことになるとは…そしてともくん達も少しグレちゃってる(?)し、何より瑞樹さんが…… 個人的にはこういう展開も好きなのですが((((殴 やっぱりボク恋は平和なのがいいですね…😭 今回もマジで最高でした!投稿ありがとうございます♪

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