キーンコーンカーンコーン…
先生A
C
月曜4限の終わりのチャイムが鳴るとともに、教室を飛び出す そう、この時間は ー 世界に一つだけの、世界で一番綺麗な音楽が聴ける時間だから
C
R
…やっぱり、いた
僕がどんなに急いで教室を出ても、必ず先に音楽室に着いてピアノを弾いている人
C
R
僕が来たのに気づいてピアノを弾いていた手を止め、ふにゃっと笑って話しかけてくれる
R
C
R
そう言って軽やかにまたピアノを弾き始める
C
月曜の昼休みにだけ、音楽室に現れてピアノを弾いているきみ たった一人その演奏を聴く僕 この時間が、間違いなく週で一番幸せで至福だと感じる
きっかけは別にありふれていること ー 昔、音楽室に忘れ物をしたときに偶然ピアノを弾いているきみに出会った
どんなに憂鬱な月曜でも、このピアノが聴けるならいくらでも頑張ろうと思える
R
C
R
へへっ、とまた得意そうに笑った
教室でもこんな感じで笑ってるのかな 当然、ここで以外関わったことなんかないんだから教室にも行ったことはない
そもそも、名前もクラスも部活も、なんにも知らない
本当にただここで成り行きでピアノを弾いて聴く、というだけの関係 それに約束している訳でもない、いつ壊れるか分からない関係
別にここで以外でも関わりたい、なんて思わない このピアノを聴いていられるだけで幸せだから それ以上も以下も望まない きっと向こうもそう
R
C
1曲弾き終わったら、また次の曲をすぐに弾き始める ほとんど会話は交わさない でも逆にこの感じが心地よかったりする
・ ・ ・
R
C
それから何曲か弾き終わって、昼休みが終わろうとしている
R
C
そう一言二言交わして、音楽室を後にした
女子A
女子B
C
今日の体育は急な授業変更で他のクラスとバスケをしている でも正直僕は球技が苦手なので退屈だ
く
C
見学をしていると(と言ってもほとんど見てないが)、隣にくにおがやってきた
く
言われた方に目をやると、ずいぶん遠い位置からゴールを決める人がいた
C
すごいなあ、と見つめているとその人と目が合った
C
後ろ姿じゃ気づかなかったけど、あの子…。
…やっぱり、あの人だ。 毎週月曜の昼休みにだけ見る、あの姿。
C
色白だし、ピアノとか得意だから勝手に運動は苦手だと思い込んでいた
女子A
まわりを女子達が取り囲んでいる ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ「でもその子がピアノ弾けるの知ってるの、僕だけなんだ」って言いたくなった …いや、女子と張り合ってどうするんだ。意味がわからない。
く
C
く
C
名前、バスケが得意なこと、女子に人気なこと。昨日までほとんど何も知らなかったのに、今日だけでいろいろなことを知った。
く
C
でも、その情報が必要になるときはこれからもきっと来ない
ピアノを聴くのに名前も特技も知っている必要がないから
先生B
C
男子A
C
C
C
部活を終えて帰宅するともう真っ暗で、疲れていたので部屋に直行する そして、そのままベッドに身体を預ける
C
ご飯も明日の予習もせずにこのまま寝れそうだった
ピコンッ
C
スマホに1件LINEが来ていた
女子C
見るとたまに話す女子からのものだった
れるくん、?あのれるくんで合ってるのかな でも当然LINEなんて持っていない
C
女子C
言いにくそうにしている文面から、なんとなく察した 多分、れるくんのこと狙っているんだろう
C
女子C
やっぱり、れるくんって人気なんだ なんで今まで気づかなかったんだろ
女子C
女子C
さっきまでれるくんの話してたのに。ほんと恋多いやつだな、こいつ。 心配することもなさそうだったのでさっきからかろうじて開いていた重い瞼を閉じた。
C
最近は特に部活に力が入っていることもあり、疲労がたまり続ける一方だ
C
自然とあのピアノを求めている自分がいた 単にピアノの演奏が聴きたいんじゃない あの人の、れるくんの創り出すピアノの音が聴きたい
C
昔はあんなに嫌いだった月曜が、今では一番好きな曜日になっている
女子C
C
女子C
C
女子C
C
自分で今言ったことを思い出す なんでこんなこと言ったんだろ、別に持ってたら普通に教えるはずなのに
C
女子C
C
女子C
C
女子C
C
ずっと少し気にしてる、女の子よりも高い声が出ること、顔も多分かっこいいというよりも可愛い寄りなこと れるくんも僕のこと可愛いとか思うのかな … なんて
C
れるくんのピアノが聞きたすぎておかしくなったんだろうか
余計に月曜の昼休みが恋しくなった
キーンコーンカーンコーン…
C
この時間のためだけに生きていると言っても過言ではないほど、好きな時間
いつもみたいに音楽室に行くときくらいしか使わない、この階段を駆け上がって、廊下を小走りで進む
C
R
もうすっかり習慣となった、音楽室での待ち合わせ
必ず先に来てピアノを弾き、僕が来たのに気づいたら手をとめて笑ってくれること
R
C
…ん?というか、
C
R
C
ここ以外での接点がなさすぎて、個人的なことは聞きづらかったのかもしれない 廊下とかですれ違ったことも多分あるんだろうけど、お互いに話しかけないし
R
C
C
R
言われてみればたしかにくにおもそんなようなこと言ってたかも、と思い出す
C
R
れるくんがにこっと微笑む …なんか嬉しいな。 いつもはほとんど会話なんてしないから。いつもよりいっぱい笑ってくれたり、僕の好きなアーティストさんを覚えててくれたり、僕の名前を知ろうとしてくれてたことを知れたり。 そういうの、全部…。
R
音楽室中がれるくんのピアノの音色で満たされる その度に、僕の心も幸せで満ちあふれていく
女子A
そのとき、誰かが音楽室に入ってきた
女子B
女子A
その音の主がれるくんであることに気づいた2人が、れるくんに近寄る
女子A
その光景を見たくなくて窓の外に視線をずらす さっきまでとは違い、心が閉塞感に襲われる
…やだ、やだ、やだ 訳も分からずただそんな言葉が脳に浮かぶ 人気者の僕だけが知ってる特技が知られたから?…いや、そんなんじゃない、きっと。閉塞感と、この説明しがたい気持ち。
2人の時間が壊されたことへの ー
C
浮かび上がりそうになった二文字を、必死に消し去る
でも、。
女子B
R
R
れるくんのその声を聞いて、目を見張る 同時に、あんなに塞がれていた心が晴れていくのを感じる
女子B
女子A
女子2人が足早に出ていく
C
R
じっと見つめてくるれるくん 僕も視線を合わせる
R
C
もしかして、れるくんも ー 僕と2人でいたかったの? 僕だけに聴かせようとしてくれたの?
…なんて、自意識過剰すぎる。 でも、意図を知りたかった。
C
どくどく、と心臓が波を打ちながら答えを待つ
R
ばか、という言葉に驚いた れるくんがそんな言葉使うなんて いつも優しい言葉づかいしかしないのに。
でも、いつの間にか視線をそらしていたれるくんの顔が真っ赤で、もしかしたら自意識過剰じゃなかったのかも、なんて。
C
R
C
R
C
わざとらしく困った顔をする
するとなぜかれるくんまで困ったような表情をする
R
そういうこと?ほんとに可愛いなぁ、れるくん
C
R
月曜の昼休み、いつもなら音楽室に着くなり、時間ギリギリまでピアノを聴く
でも、今日は。
音楽室中を、いつもとは全然違う、甘い音と声が流れていた。
コメント
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ニヒヒ( ˶`﹀´˵ )うふふ(?)
続き待っってます!!