足が動かなかった。
__全国模試の帰り道。 模試の会場は電車で4駅行った場所にある。
会場の1つ前の駅で降りると、のぞみさんの大学がある。 全国模試の帰り、僕は途中で電車を降りた。
のぞみさんは夏休み前のグループ発表の準備の為に日曜日も大学に行って、夕方には帰れる____らしい。
__時々塾から出ると「偶然」のぞみさんと出会って一緒に帰ることがある。
今日は僕が「偶然だね」って言おう………そんな軽い気持ちで大学に向かった。
もし会えなかったら夜ラインを送ればいい……そう思っていたけど
結局ラインは送らなかった。 会えなかったわけじゃないから。
でも声もかけなかった。
のぞみさんが歩いていた。 眼鏡をかけた、背の高い、僕の知らない男の人と、談笑しながら歩いていた。
のぞみさんは僕と違ってちゃんと学校にも自分の居場所がある。男の知り合いがいても全然おかしくない。
だけど だけど胸が痛いくらいドキドキして呼吸が上手く出来ない。
やましいことをしたわけじゃないのに僕が電柱の陰に隠れてしまった。 男の人が何か言って のぞみさんが笑うのを見るのが耐えられなかった。
僕は のぞみさん以外の前で心の底から笑ったことは、片手で数えるくらいしかない。
のぞみさんは、僕以外の人にもあんな楽しそうな顔をする。 悪いことじゃない。だけど…だけど
知らない男の人とのぞみさんは、電柱の陰にいる僕に気づかずに そのまま素通りして行った。
足が動かなかった。
その日も、いつもと同じように他愛ない話をして終わるんだと思ってた。
その日は講義も早く終わってバイトも無いので、私は柚月君の通う塾の前にいた。
出口をじっと見つめて柚月君が出て来るのを今か今かと待っていた。「偶然を装った待ち伏せ作戦」だ。
柚月君が出て来て一緒に帰路についた。
週末から柚月君は修学旅行で京都まで行ってしまう。 その隙間を埋めるように、たくさん話していたかった。
だけど
山川 のぞみ
帰り道を3分の1ほど進んだ所で、勇気を出してそう尋ねた。
___帰り道は他愛もない話で盛り上がると思ってたのに、実際はぶつ切りの会話………会話とも言えない物だった。
柚月君が地面に視線を固定したまま全然言葉を発しない。 塾を出てから1回も私の顔を見ようとしなかった。
私の問いに柚月君はしばらく答えなかった。 もう一度問いかけてみるべく息を吸うと
鳴沢 柚月
ようやく柚月君が反応した。 相変わらず下を向いたまま。
鳴沢 柚月
鳴沢 柚月
山川 のぞみ
鳴沢 柚月
鳴沢 柚月
鳴沢 柚月
山川 のぞみ
柚月君は下を向いたまま はっきりとそう言った。 酷く冷たい声だった。
初めて耳にした柚月君の突き放すような言い方に戸惑っていると、その隙をついて柚月君が言葉を重ねる。
鳴沢 柚月
鳴沢 柚月
山川 のぞみ
鳴沢 柚月
山川 のぞみ
私の隣___近くにいるはずなのに私の声が届かない。柚月君がどんどん離れて行くように感じる。
ヒビが入る。 春翔と別れてからヒビ割れて原型を失って
柚月君と出会って再び原型を取り戻した、私の中の「何か」に ヒビが入るのを感じた。
嫌だ。失いたくない。 嫌だ。 やめて
鳴沢 柚月
やめて
鳴沢 柚月
やめて
山川 のぞみ
つい声を荒げてしまった。 またヒビが入る…。
___柚月君には私がそんな人間に見えるのだろうか__ 声が震えるのが分かった。
山川 のぞみ
山川 のぞみ
柚月君が立ち止まって、初めて私の顔を見た。全然笑ってなかった。
鳴沢 柚月
山川 のぞみ
鳴沢 柚月
山川 のぞみ
鳴沢 柚月
男の人と仲良さそうだねって言うのは いけないことなの?面倒臭い?
山川 のぞみ
山川 のぞみ
私の頬を水滴が流れた。
目にゴミでも入ったのだろうか。 下を向いて瞬きを繰り返すけど、何故か水滴が溢れて止まらない。
山川 のぞみ
山川 のぞみ
山川 のぞみ
鳴沢 柚月
小さいけど冷たい、 冷たいけど小さな声で柚月君が呟いた。
鳴沢 柚月
そんな、恩着せがましい言い方するんだ…
鳴沢 柚月
勝手に。かってに。カッテニ… 柚月君はそんな風に捉えていたのか。
反論しようと顔を上げると柚月君の自嘲的な笑みが目に飛び込んだ。
鳴沢 柚月
鳴沢 柚月
鳴沢 柚月
山川 のぞみ
ヒビが入る。私の中の「何か」がどんどん脆くなる。 ___失いたくない。
このままではいけない。もう立ち直れなくなる。
半歩前に出た柚月君の手首を咄嗟に掴んだ。
山川 のぞみ
お願い。一回私の話聞いて
だけど柚月君はもう私と目を合わせようとしなかった。
鳴沢 柚月
柚月君が腕を振り払った。 華奢だけどやっぱり男の子だ。簡単に手が離れた。
それでも往生際悪く私の手は変な所で固まっていたけど____柚月君が先にトドメを刺した。
鳴沢 柚月
私の中の「何か」に一際深い亀裂が走った。
__柚月君を引き止めた、引き止めようとした手を、ぱたりと下ろす。 直視出来なかった。
山川 のぞみ
鳴沢 柚月
鳴沢 柚月
2人で帰るはずだったのに、柚月君が先に帰ってしまう。 引き止めようとは思わなかった。
__家に帰れば先週末 柚月君の為に買ったコーラがある。 きっと冷蔵庫を開ける度に柚月君を思い出す。
どうしていつも こういうタイミングでコーラを買ってしまうんだろう。
山川 なごみ
家に帰るとお姉ちゃんが鼻歌を歌いながら夕食を作っていた。ビーフシチューの香りが顔を撫でた。
山川 なごみ
そうだ。家にはお姉ちゃんがいる。 家に帰ったら思い切り泣こうと思ってたのに。
鼻先に突き出された小皿から顔を逸らした。食欲なんて全然湧かない。
山川 のぞみ
山川 なごみ
山川 なごみ
山川 のぞみ
これがデートして来た顔に見えるのだろうか。 蒼陽高校を卒業して、英語も話せるのに どうして察してくれないんだろう。
山川 なごみ
山川 のぞみ
自分の部屋に駆け込むと音を立ててドアを閉めた。
相原 澪
山川 のぞみ
山川 のぞみ
相原 澪
山川 のぞみ
相原 澪
相原 澪
相原 澪
相原 澪
相原 澪
相原 澪
山川 のぞみ
山川 のぞみ
相原 澪
山川 のぞみ
相原 澪
山川 のぞみ
山川 のぞみ
相原 澪
相原 澪
「うん。…………じゃあ土曜日ね。……うん。京都までってどれぐらいかかりそう?…
ドアの向こうから のぞみの声が漏れ聞こえて来る。 山川なごみはドアを背にして それを聞いていた。
先程の のぞみの態度と電話の内容で、のぞみが どういう状態でこれから どうするのか大体分かった。
なごみはドアから離れると唇を舌で舐めた。
山川 なごみ
6限が終わると、会社や学校帰りの人が一番多い時間帯になる。
日が暮れた街中にはたくさんの人が溢れている。 __当然仲睦まじい男女2人組の姿もある。
コンビニでチョコでも買ってヤケ食いしようかと思ったけど、週末に京都まで行くので節約しないといけない。
私だって柚月君と腕を組んで歩いたことあるし…… とかそんなことを思いながら夜の街を1人で歩いていると__
柴本 岳人
柴本君が小走りで近づいて来た。 ……私は、たぶん全然笑えてない。
柴本 岳人
柴本 岳人
山川 のぞみ
柴本 岳人
山川 のぞみ
柴本 岳人
山川 のぞみ
山川 のぞみ
柴本 岳人
山川 のぞみ
私は早口でまくし立てると柴本君の顔を見ずに歩く速度を早めた。
__皆私の気持ちなんてお構い無しだ。 でもそれも土曜日まで。
私の彼氏は1人しかいない。
私が話をしたい相手は柴本君じゃない。
山川 なごみ
柴本 岳人
山川 なごみ
それでさっきの会話聞いてたんだけど…
山川 なごみ
柴本 岳人
山川 なごみ
___暇と交通費があるなら耳寄りな情報教えてあげる☆
山川 なごみ
山川 なごみ
柴本 岳人
柴本 岳人
山川 なごみ
山川 なごみ
山川 なごみ
山川 なごみ
この作品はいかがでしたか?
737
コメント
7件
なんだか、シーズン2が始まった…!という感じがしますね…😳 やっぱりこのお話は、悪役がいてからこそ盛り上がるというか、大きな試練が与えられるからこそ面白いというか… シーズン1のころの初期を思い出しますね…☺️
(3話目からですが) シーズン2、待ってました!!!✨ やっぱり小説を読んでいるみたいで…好きです…!! そして、なごみさんは一体どんな目的で…気になります!🤔 続きのお話、(書籍化も)楽しみにしています!!
今シーズンはなごみさんがボス枠ですかね...? 人の会話を盗み聞きするのは良くないって中学生ながらなごみさんに注意してこようかしら()