あの日から2ヶ月。
大陽は言うことを聞くようになった。
やっと手に入った。
しかし、その実感は酷く薄い。
何故だ?
彼も、自分のことを愛しているはずだ。
それなのに、漠然とした何かを見落としているような強い虚無感に襲われている。
そんな彼に''会いたい''と言われたのは、つい10分前。
待ち合わせ場所は、あの日のBAR。
胸の辺りがざわざわと騒ぎ立てている。
燐
その時だった。
後ろから肩を掴まれた。
その指はまるで鷲の爪のようだった。
怯えながら振り向くと、その目はこちらを睨みつけ、捉えていた。
燐
燐
隆
隆
隆
燐
燐
燐
燐
燐
肩を掴む爪が胸ぐらにかかった。
肩を掴むよりもより強く食い込んだ。
こちらを睨みつける目には、その手同様、鷲のような強い目力が籠っている。
大きく開かれた眼は、充血している。
全身が強ばっていくのが分かる。
隆
隆
隆
隆
燐
隆
燐
燐
燐
隆
隆
燐
燐
全身の力が抜けていく。
がくりと膝から崩れ落ちた。
涙とやるせない気持ちが込み上げる。
もう全てがどうでも良くなった。
なるようになればいい。
みんな、死んでしまえばいい。
行き場を失った感情がどこへ曲がって行くかなど、たかが知れている。
燐
燐
燐
燐
燐
隆
燐
燐
燐
隆
隆
隆
刑事
愛していた人さえ、最後まで自分を愛そうとはしてくれなかった。
全てが終わった。一瞬で。
どうしたらこんな出来損ないな人生になるのだろうか。
前世の人間の悪行からだろうか。
頭とは裏腹に、心は驚くほど冷めきっている。
覚悟は決めていた。
どうなろうと、もうどうでもいい。
自分の生きたいように生きる。ただそれだけ。
しかし男は、時間になっても現れることはなかった。
大陽
古い建物が並ぶ路地裏。
あのBARはここにある。
大陽
気を落とし、足を1歩踏み出した時だった。
大陽っ!!
後ろから名前を呼ぶがした。
その声は、ずっと聞きたかった懐かしい声だった。
大陽
大陽
慌てて振り向くと、数メートル先には肩を上下に動かす隆の姿。
大陽
彼は息を切らしながら大股でこちらに歩いてくる。
僕は唖然と動けぬまま、ただ立っている。
大陽
彼はそのまま、僕を抱き寄せた。
その力は強く、それでいて温かかった。
隆
隆
大陽
大陽
隆
鼻をすする音が耳元で聞こえる。
これは現実か。
実感は湧かないまま、涙だけが溢れる。
大陽
大陽
隆
隆
隆
大陽
隆
隆
隆
大陽
お互いから離れ、手を握りながら見つめ合う。
3ヶ月ぶりの彼は、少し痩せたように見えた。
しかし、その柔らかい目は何ひとつ変わらない。
その愛おしい目が潤んでいる。
それは、蒼い空より美しかった。
そんな彼の頬を指先でなぞる。
胸の奥の熱いものや甘いものが、全て溢れて苦しくなる。
大陽
隆
隆
そして、キスをした。
そのキスは今までで一番甘くてほろ苦かった。
隆
大陽
何故だろう、あの時音が遅れて聞こえたのは。
破裂音のようなそれが、狭い路地に2回鳴り響いた。
急に全身に寒気が襲う。
ぽたぽたと、雨が降り始めるような音がする。
彼の胸は赤く染まっている。
隆
大陽
間もなく、自分の胸が赤く滲んでいるのにも気がつく。
そして、2人で寝転ぶように倒れた。
意識が遠のいていく中、図太い男の駆けつける足音と、邪悪な甲高い笑い声が聞こえた。
隆
隆
大陽
大陽
隆
隆
大陽
隆
彼は、震える手を首元に持っていき、ネックレスを二つ、首から外した。
そして、その一つを僕の手に握らせる。
大陽
大陽
隆
あぁ、死ぬんだ
そう感じた。
隆
隆
大陽
大陽
大陽
隆
隆
大陽
隆
大陽
隆
隆
痛みも苦しみもない。
ふわりと包まれていくような感覚だった。
隣で聞こえていた苦しそうな呼吸も、消えていく。
死の瞬間は、恐れるほどのものではないなと思った。
ただ、その一瞬でその人の人生の幕がおり、その劇は永遠に葬られる。
その内容は、本人しか知るよしがない。
だから儚い、切ない。
そんな小さな不幸が自分にも訪れる。
それはいずれ、大切な人にも訪れる。
そして今ここで、二人の愛する者が死にゆく。
それは、酷く悲しく、美しかった。
主
主
主
主
主
主
主
主
コメント
1件
この2人には、死んでほしく無いなぁ。 でも俺は、好きな人と一緒に死にたいな。