テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
なつき
奏
なつきと奏は、昔から仲が悪い。 というより、奏が一方的にちょっかいを出してきて、なつきがそれを嫌がる――そんな関係だった。
今日は修学旅行の部屋決めの日。 名前が書かれた紙が次々と読み上げられていく中、なつきはできるだけ前を見ないようにしていた。
嫌な予感は、たいてい当たる。
そうして―― なんと、奏と同じ部屋になってしまったというわけだ。
なつきくんになってから、奏のちょっかいは前よりもエスカレートしている。 からかいなのか、わざとなのか、それとも――なつきには分からない。
奏
背後から、わざとらしく伸ばされた声。
なつき
振り返ると、奏がにやりと笑っていた
奏
なつき
奏
そう言いながら、奏は肩をすくめる。 そのとき――
りのん
廊下の向こうから、りのんの声が飛んできた。
奏
奏はあっさりとそちらを向き、そのまま去っていった。 取り残されたなつきは、胸の奥に残ったもやもやを、うまく言葉にできなかった。 ――からかわれているだけ。 そう思いたいのに、なぜか落ち着かない。
奏は、人気者だ。 友達も多くて、運動もできて、テストだってクラスで一位。 ――いっつも、だ。 先生にも信頼されて、後輩にも慕われて、 クラスの中心に立つのが、当たり前みたいなやつ。
なつきは、その輪の外にいる。 来週は、ついに修学旅行。 中学生最後の思い出。 みんな浮かれていて、教室はいつもより少しうるさい。 それなのに、なつきの胸は重かった。
なつき
同じ部屋。 逃げられない距離。 しかも相手は、クラスで一番目立つ存在。
一週間後――。
バスのエンジン音が校庭に響き、 大きな荷物を抱えた生徒たちが次々と乗り込んでいく。
「なつきくん、こっち空いてるよ」 声をかけられて、なつきは小さくうなずいた。 座席に座ると、窓の外を流れる景色をぼんやりと見る。
そのとき―― 「お、隣いい?」
聞き慣れた声。 顔を上げる前から、分かってしまった。
なつき
そう答えると、奏は当然みたいに座ってきた。
奏
なつき
奏は笑っていた。 いつも通りの、余裕のある笑顔。 でも、なつきは気づいてしまった。 その視線が、前よりも少しだけ――真剣になっていることに。
バスが高速道路に入って、車内が少し静かになったころ。
奏
奏が、窓の外を見たまま言った。
奏
なつき
即答すると、奏は小さく笑った。
奏
奏
なつきは答えなかった。 変わらない、なんて言えなかったし、 変わる、とも言えなかった。
なつき
それだけは、はっきり言えた。 奏はなにも言わなかった。 ただ、少しだけ安心したような顔をした。 そのとき。
「よしー!まもなく到着だぞー!」
先生の声が響いて、 バスの空気が一気にざわついた。
修学旅行は、始まる。
なつきと奏の関係も――ここから変わっていく。
なつきはバスを降りながら、 ほんの少しだけ、未来を信じてみようと思った。