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拝啓
12年前の私へ
18歳の私は元気ですか?
30歳の小林冬乃(こばやし ふゆの)です
私は今、18歳の私に向けて手紙を書いています
あなたにどうしても変えてもらいたい過去があったから
冬乃
冬乃
朝、目が覚めると時刻は8時30分
もうとっくにチャイムは鳴っているだろう
だけどその事実を信じたくなくて
必死に階段を下って、中途半端に着た制服をリビングで整えた
冬乃
冬乃
母は優雅にソファーに座ってコーヒーを飲んでいた
ご丁寧にテーブルには食パンと牛乳が置かれている
私が食べるはずだった朝食だ
お母さん
お母さん
と、知らん顔でそう言った母に腹が立った
冬乃
お母さん
このままでは言い合いになると思って
私はブツブツ言いながら洗面台でボブの髪の毛をとかして
冬乃
なんて鏡の中の自分に笑いかけた
冬乃
お母さん
冬乃
冬乃
お母さん
そう言われて母が手に持っていたのは
白い封筒で
「小林 冬乃」
と、私の名前が書かれたものを手渡された
冬乃
冬乃
お母さん
お母さん
お母さん
冬乃
冬乃
冬乃
お母さん
お母さん
冬乃
白い封筒をズボッとカバンに投げ込んで、家を飛び出た
冬乃
春奈
冬乃
春奈
結局チャイムには間に合わず、たった20分の遅刻で1時間補習を受けた
冬乃
冬乃
春奈
春奈
冬乃
この子は春奈
私が高校1年生の頃からの友達で
高3の今でも仲良しだ
秋斗
冬乃
秋斗
このメガネ男子は秋斗(あきと)
あきぽんも春ちゃんと同じく高1からの友達
春奈
春奈
秋斗
秋斗
冬乃
冬乃
春奈
秋斗
秋斗
冬乃
冬乃
春奈
冬乃
この時期に転校生か、と珍しく思いつつ
私は朝渡された封筒のことが頭から離れなかった
なぜか開けないといけないような気がして
キーンコーンカーンコーン
2時間目を知らせるチャイムが鳴った
春奈
冬乃
チャイムが鳴り終わって
3.4分経っても先生が来なかったため
私はカバンから少しクシャッとなった封筒を机の下で取り出した
冬乃
封筒の表に書いてある「小林 冬乃」という字に違和感を覚えた
私は小学校の6年間だけ習字を習っていて、今でも字の癖が残っている
その癖がこの封筒の文字にも出ていた
まるで私が書いたような…
冬乃
気のせいだと思うようにして
封筒の中の物を取り出した
5枚ほどの手紙だった
折りたたまれた手紙を開いて文字を目で追った
拝啓
12年前の私へ
18歳の私は元気ですか?
30歳の小林 冬乃です。
私は今、18歳の私に向けて手紙書いています。
あなたにどうしても変えてもらいたい過去があったから。
冬乃
なにかのイタズラか?
そう思いたくなるほど非現実的だった
先生
先生
先生の声なんて気にせず
私は手紙の続きが気になった
信じられないと思っていることでしょう。
だけど今からこの手紙に書かれてあることは
全部これから起きることです。
私は
大切な人を守れなかった。
すごく、すごく後悔してる。
あなたには私のような経験をしないでほしい。
だからこれから起きること、その全てをここに残します。
6月20日
学校に遅刻して1時間の補習を受けたあとに転校生が来ることを知る。
その転校生の名前は
相良 夏樹 (さがら なつき)
家庭の事情で広島県から引っ越してきた。
身長はあきぽんと同じくらいで
ガチガチに緊張してたのを覚えてる。
どうして、遅刻したことを知って…
本当にこれは未来の私が書いたもの?
先生
夏樹
冬乃
さがら、って言った?
本当に?
この手紙は、本当に…
相良と呼ばれた人は教室の中に入ってきた
手紙の通り、あきぽんと同じくらいの身長で
…なぜか、手と足の動きが一緒になっていて
めちゃめちゃ緊張しているのが目に見えて分かった
あきぽんの身長は…どれくらいだったかな
173…くらいだ
そして先生が黒板に名前を書いて
私は手紙と黒板を交互に見ながら文字を確かめた
相 良 夏 樹
冬乃
やはり、手紙通り
その人は転校してきた
私は一心不乱に手紙の続きを読む
夏樹は春ちゃんに誘われ
私たちのグループに入る。
私は当時めんどくさいなと思っていたけど
時間が経つにつれて4人での状況に慣れていった。
自己紹介の時は少し恥ずかしそうにしてた夏樹は
話してみると明るいしよく笑う。
笑った時のあの少し崩れた顔がすごく好きだった。
好きだったの。どうしようもなく。
きっとあなたは未来の私のようにまた夏樹を好きになる。
でももうあの頃には戻れない。
夏樹はとある冬の日に
どこかへ消えた。
その理由も私は知ってる。
だけど、自分で見つけてほしい。
私が当時の行動をこれから手紙に記すから
それが正しかったのか間違ってたのか過去の私にジャッジしてほしい。
もう私にはどうしようもできない。
夏樹を変えることも救えることも出来ない。
だけど過去の私なら
って、私はそう信じてる。
夏樹を、どうか助けてあげて。
…の
ふ…ゆ
春奈
冬乃
春奈
冬乃
春奈
春奈
春ちゃんはコソッと私に耳打ちをした
春奈
冬乃
春奈
春奈
まさかのもう手紙通りの展開になった
冬乃
手紙通りすぎて、私はつい大きい声を出して席を立ち上がっていた
春奈
先生
冬乃
周りの目が痛い…
そーっと席に座った
春奈
春奈
春ちゃんは4つに折った紙を渡してきた
なにこれ?と首を傾げたけど
私の前の席にいる相良夏樹を指さして春ちゃんはウィンクした
…こういうのは苦手なんだけど
コミュ力たけぇな、春ちゃん
手紙にはこんな事書かれてなかったけど…
私がそこまで詳しく書くわけないかと自分で納得した
……てか、名前なんて呼べばいいんだろ
普通に「相良くん」?
まあ、いいか
そう思いながら前の席にいる相良くんの肩を指先でつつくと
驚いたようにこちらを見た
冬乃
冬乃
冬乃
夏樹
冬乃
夏樹
冬乃
冬乃
気まづいながらも小さな紙を手渡した
相良くんは紙と私の顔を交互に見て
困ったような顔をした
冬乃
冬乃
夏樹
相良くんは軽くペコッと頭を下げたあと
紙を開く動作をしていた
この瞬間がなぜかドキドキした
手紙の内容的にこの場はOKなはず
それが分かっているから、ドキドキしてるのかな
私は机に顔を伏せて、両腕で抱え込んだ
静まれ、心臓
少し時間が経って
トントン
私の机をつつく音が聞こえて顔を上げると
夏樹
冬乃
冬乃
冬乃
夏樹
夏樹
夏樹
冬乃
心臓がざわついた
私に手でOKマークを向けて
口角をあげていた
ちらっと見えた八重歯と、クシャッと崩れるその笑顔に
ふと、手紙の内容を思い出した
笑った時のあの少し崩れた笑顔がすごく好きだった。
好きだったの。どうしようもなく。
きっとあなたは未来の私のようにまた夏樹を好きになる。
そうなる事が当たり前かのように
運命かのように
私の心は一瞬で奪われた