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引きこもりの呪術師【三郎編】

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引きこもりの呪術師【三郎編】

9 - 引きこもりの呪術師【出会い・三郎編】

♥

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2021年03月31日

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三郎

ああ…畜生……

悪態を吐いたところで現実は変わらない。

畳の上に転がるのは、

肩口から千切られた己の両腕。

断面からは血が絶え間無く流れ落ち、

寒さと眠気が襲う。

三郎

(…ああ…ダメだ…)

寝たら死ぬ。

だが、どうにも助かりそうにない。

三郎

(ここまでか……)

鬼の子

ねぇ

鬼の子

死にたくないでしょ?

頭上から嫌に明るい声が聞こえた。

顔を上げると年端もいかない、

可愛げのある少年が

恐ろしい笑みを浮かべて

見下していた。

三郎

鬼…の子……

関わったらいけない存在。

そうわかっていたのに、

気がついたら関わってしまっていた。

鬼の子

それとも、楽にしてあげようか?

ニヤニヤと

至極楽しそうに言う少年。

つい先刻まで呪符に巻かれ、

自由を奪われ、

強欲な城主の良いように扱われていたモノとは思えないほど、

力と自信と余裕に溢れていた。

三郎

条件は……なん…だ

そうだ。

こいつが無条件に人を助けるわけがない。

最凶の呪術師と謳われるこいつが

そんな良心的なやつじゃない。

鬼の子

そうだねぇ…

鬼の子

ボクの下僕になってくれたら

鬼の子

助けてあげるよ

三郎

下僕…?

鬼の子

そう

鬼の子

ボクの手となり、足となり

鬼の子

全ての命令に従い

鬼の子

ボクが死ねと言えば喜んで死ぬような

鬼の子

そんな下僕になってほしいなぁ

楽しそうに言いやがって。

だが、そろそろ限界が近い。

三郎

(下僕なんぞ……誰が…)

三郎

(誰が……)

呪術師(俺)が呪術師(こいつ)に下るなんぞ、

あり得ない。

三郎

(あり得ない……が…)

己の側に転がる二つの亡骸。

一つは老齢の呪術師。

一つは若い忍。

どちらもなかなかの手練れだった、

はずだ。

こいつの前では赤子同然のように

あっさりと殺されてしまったが。

そのときこいつが用いた呪術は、

完璧だった。

針一本刺すことが出来ないような

寸分の狂いも無く、

気が付いたときには為す術無く、

抵抗する間も無く、

発動した呪術は芸術の域だった。

三郎

(あれは…素晴らしかった…)

力を失い、

畳の上に倒れる。

鬼の子

あれ?

鬼の子

おーい!大丈夫?

鬼の子

"助けてください、主様"って言ってくれたら

鬼の子

助けるんだけどなぁ

しゃがみこんで目の前で手を振る。

こんな、子供に……

いや、子供じゃない。

こいつは見た目のままの子供じゃない。

もっと

なにか

得も言えぬ

末恐ろしいモノ

その

正体を

知りたい。

こいつの

完璧な呪術を

もっと

側で

見て

みたい。

否、

ただ

俺は

死にたくない

死にたくない

死にたくない

死にたくない

死にたくない

三郎

……助けて……くださ…い…

三郎

主……様…

鬼の子

うん♪

鬼の子

よく言えました♪

鬼の子

これから宜しくね

鬼の子

三郎くん♪

三郎

……三…郎…?

三番目の下僕。

だから、三郎なのだと

主は後に語った。

それから数百年後……。

三郎くん、なに見てるの?

三郎

ん?ああ…これ…

……みのむし?

三郎

初めて主(あるじ)と出会った時、こんな感じだったなぁって思ってね

そうだっけ?

三郎

そうだよ

三郎

呪符でグルグル巻きにされて

三郎

瀕死っぽくて

三郎

助けてって言ったのに

三郎

いざ、助けたら両腕千切られるんだから

三郎

とんでもない奴だなって思ったよ

そう言って三郎は楽しそうに笑う。

あ…そんなこともあったねぇ

三郎

でもさ、あれ…絶対、仕込みだよね?

え?

三郎

だって、俺は何がなんでも鬼の子に関わらないようにしてたのに

三郎

気がついたら鬼の子争奪戦に巻き込まれて

………

三郎

一緒にいた呪術師と忍は瞬殺したのに

三郎

俺はすぐ殺さなかった

三郎

最初から、俺を下僕にするつもりだったんでしょ?

よく覚えてるね

感心するよ…何十年前の話し?

三郎

何百年だよ

あ、そっか

三郎

俺も主にとって大切な下僕候補の一人だったんでしょ?

そうそう、そうだよ

三郎

なんでそんな投げやりなの!?

だってぇ、すぐ三郎くん調子に乗るじゃん

三郎

いいじゃん!調子の乗らせてよ!

えーやだー

三郎

なんで!?

調子に乗った三郎くんは…

三郎

うん

うざい

三郎

はっきり言うねぇ

まぁね

……

(そうだよ)

(言えるわけないでしょ)

(君は前世で)

(ボクの師匠だった、なんてさ)

(絶対調子のるじゃん)

(だから……絶対、言わない)

三郎

もぉ、ふてくされてないで

三郎

俺は主と出会えてよかったって

三郎

心底思ってるんだよ?

じゃ、桜餅買って来て

三郎

え?

五分以内にね

五分を一分オーバーするごとに

三郎くんの指が折れる呪いかけるから

三郎

え、ちょっ

三郎

やだやだ!

はい!スタート!!

三郎

あーもう!我儘な主様だなぁ!

悪態を吐きながらも三郎は駆け出す。

その後ろ姿を見て、

主はどこか楽しそうに微笑むのだった。

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