三郎
悪態を吐いたところで現実は変わらない。
畳の上に転がるのは、
肩口から千切られた己の両腕。
断面からは血が絶え間無く流れ落ち、
寒さと眠気が襲う。
三郎
寝たら死ぬ。
だが、どうにも助かりそうにない。
三郎
鬼の子
鬼の子
頭上から嫌に明るい声が聞こえた。
顔を上げると年端もいかない、
可愛げのある少年が
恐ろしい笑みを浮かべて
見下していた。
三郎
関わったらいけない存在。
そうわかっていたのに、
気がついたら関わってしまっていた。
鬼の子
ニヤニヤと
至極楽しそうに言う少年。
つい先刻まで呪符に巻かれ、
自由を奪われ、
強欲な城主の良いように扱われていたモノとは思えないほど、
力と自信と余裕に溢れていた。
三郎
そうだ。
こいつが無条件に人を助けるわけがない。
最凶の呪術師と謳われるこいつが
そんな良心的なやつじゃない。
鬼の子
鬼の子
鬼の子
三郎
鬼の子
鬼の子
鬼の子
鬼の子
鬼の子
楽しそうに言いやがって。
だが、そろそろ限界が近い。
三郎
三郎
呪術師(俺)が呪術師(こいつ)に下るなんぞ、
あり得ない。
三郎
己の側に転がる二つの亡骸。
一つは老齢の呪術師。
一つは若い忍。
どちらもなかなかの手練れだった、
はずだ。
こいつの前では赤子同然のように
あっさりと殺されてしまったが。
そのときこいつが用いた呪術は、
完璧だった。
針一本刺すことが出来ないような
寸分の狂いも無く、
気が付いたときには為す術無く、
抵抗する間も無く、
発動した呪術は芸術の域だった。
三郎
力を失い、
畳の上に倒れる。
鬼の子
鬼の子
鬼の子
鬼の子
しゃがみこんで目の前で手を振る。
こんな、子供に……
いや、子供じゃない。
こいつは見た目のままの子供じゃない。
もっと
なにか
得も言えぬ
末恐ろしいモノ
その
正体を
知りたい。
こいつの
完璧な呪術を
もっと
側で
見て
みたい。
否、
ただ
俺は
死にたくない
死にたくない
死にたくない
死にたくない
死にたくない
三郎
三郎
鬼の子
鬼の子
鬼の子
鬼の子
三郎
三番目の下僕。
だから、三郎なのだと
主は後に語った。
・
・
それから数百年後……。
主
三郎
主
三郎
主
三郎
三郎
三郎
三郎
三郎
三郎
そう言って三郎は楽しそうに笑う。
主
三郎
主
三郎
三郎
主
三郎
三郎
三郎
主
主
三郎
主
三郎
主
三郎
主
三郎
主
三郎
主
三郎
主
三郎
主
主
主
主
主
主
主
主
三郎
三郎
三郎
主
三郎
主
主
主
三郎
三郎
主
三郎
悪態を吐きながらも三郎は駆け出す。
その後ろ姿を見て、
主はどこか楽しそうに微笑むのだった。
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