シャワーを浴びているとき
背後からの強烈な視線を感じてしまう時があるのは
私だけではないと思う。
得体の知れない何かが
私の背後に巣食って、見つめてくる。
気がする。
そう考え始めると、嫌に背筋が伸び、額に冷や汗が浮かんでくる。
怖い。
物凄く怖い。
しかし———
気になる……。
私は一旦深く呼吸をする。
そして遂に
意を決し振り返った。
いない。
やはりな。
うん、最初から分かっていたよ
いるわけがないと。
呆れて思わず苦笑し
私は前を向き直す。
とはいえ目を逸らすと
また、視線がぶり返す。
分かるぞ、今度のは尋常じゃないな。
このような状況の対処として
私はいつも
鼻歌を歌って気を紛らわしている。
しかし今日はそれができない。
だから私は
使っているシャンプーのリポートを
脳内に流すこととした。
———貴方の髪質を改善し
毛先までつるんとツヤのある
サロンクオリティの髪へ!
パンテ◯ン ミラ◯ルズ リッチモイ◯チャー シャンプー 898円———
我ながらの完成度だったし
視線も気にならなくなってきた。
私は浴槽を出て
身体に合わない小ささのバスタオルを手に取る。
ふと、鼻を掠める懐かしい匂い。
甘くて、優しい。
それと共に
あの視線が再来した。
そこに、いる。
凄まじい存在感に耐え切れず
吐きそうになる。
私は闇雲にタンスへと手を突っ込み
着替えを探す。
手先が震えて、上手く掴めない。
その隙にも、あれは迫ってくる。
ぐっと拳に力を込めて
引っ張り出したその服は
花柄の可愛らしいワンピースだった。
そうだった。
ここに着替えはないのだ。
今更気付いた愚かな自分に
またもや笑いが漏れた。
放り出された
血に濡れた衣服に着替えて
私は浴槽を後にする。
居間に転がる彼女の頬に
私は別れのキスをした。
予め用意していた液体を
全体にぶちまける。
鼻を刺すにおい。
広がる赤い血。
そして、灯ったマッチが
手から
落ちる———
もう
視線———殺人への罪悪感———は
感じなかった。
コメント
2件
あ、誤字直せました。嬉しい。
ああ、今更誤字を見つけました……。 凄まじいな→凄まじい です……悲しい……。