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あの夏

貴方に会わなかったら、

どうなっていただろうか?

ただ、今とは違う結果になっていたと信じたい。

髪が顔を隠すように揺れた。

 

えーっと……ヒロトくんはどこから来たの?

コンビニ袋を提げながら歩き出すカナの後ろで、少年は素直についてきた。彼の小さな足音がかすかにアスファルトを叩く。

カナ

お父さんとお母さんは?

ヒロト

おうちにいるよ

予想外の返事にカナは足を止めた

カナ

へ?じゃあなんでこんな夜中に一人で?

ヒロトくんは少し困ったように首を傾げる。その仕草があまりにも愛らしいものだから、一瞬だけカナの警戒心が緩んだ。

ヒロト

おうち……もうないんや

その言葉に込められた重みに、カナは思わず息を呑んだ。周囲の雑音が遠のいていく感覚。

カナ

どういう意味?

少年は自分の爪先を見つめながら小さく答えた。

ヒロト

おばあちゃんちに行ったら『もう帰ってくるな』って言われたんや

カナはコンビニ袋をそっと地面に置いた。

この異常な赤色を持つ子ども

彼女のような犯罪者が最も出会うべきではない種類の人間だ。

だが、目の前の小さな体には恐怖や諦めとは違う何かがあった。それは彼女が警察から逃亡中の身でありながらも、不思議と惹きつけられる存在だった。

カナ

そうか……

冷たい風が二人の間を吹き抜ける。

カナはしばらく考え込んでから決断した

カナ

とりあえずうちに来る?明日になったら一緒に考えてあげる

少年の表情がパッと明るくなる。

ヒロト

ほんまに?!お姉ちゃん優しいなぁ

その笑顔を見た瞬間、カナの中で何かが弾けた。

自分の身の上を考えれば、こんな危険な行動は馬鹿げている。

指名手配犯が見知らぬ子供を保護するなんて、自殺行為にも等しい。

それでも……

カナ

でもね、一つ約束してほしいの

カナは真剣な表情で続けた。

カナ

私と一緒にいると危険な目に遭うかもしれない。それでもいいの?

ヒロトくんはキョトンとした顔で彼女を見上げた。

ヒロト

なんで危ないん?

カナは一瞬迷った。本当のことを話すべきか。

だが次の瞬間、彼女の脳裏にある光景が浮かんだ—警察官たちが血眼になって「神代カナ」を探す姿、そして何より大切な過去との決別。

カナ

私……実は追われてる人なの

驚くほど率直な告白に、ヒロトくんは目を丸くした。

ヒロト

かっこええ!

カナ

へ?

完全に予想外の反応に、カナの方が戸惑ってしまった。

ヒロト

だって映画みたいやん!悪者から逃げるヒーローみたいや!

カナ

いや、そんな大層なものじゃないけど……

少年の純粋な目は期待に満ちていた。

まるで宝物を見つけたかのように輝いている。

ヒロト

お姉ちゃんのこと守ったるわ!ボク強いから!

無防備すぎる宣言に、カナは思わず笑い出した。久しぶりに心から笑えた気がした。

カナ

じゃあ、君の『おうち』まで案内してくれる?

二人は並んで歩き始めた。狭い路地裏を抜け、古いマンションのエレベーターに乗る。

沈黙のなか、カナはふと思った—この少年はきっと、自分と同じ何かを抱えているのだと。

カナ

ところで、おばあちゃんちはどこなの?

カナが尋ねると、ヒロトくんはぽつりと言った。

ヒロト

長崎

カナ

え?

ヒロト

飛行機乗って来たんやけど、お金なくなってもうて

カナは呆然とした。それならなおさら彼を放っておくわけにはいかない。

法律も世間も何もかも忘れて、ただこの小さな命を守りたくなっていた。

部屋の扉を開けると、薄暗い室内が二人を迎え入れた。カナは照明を点けながら呟いた。

カナ

おかえり、ヒロトくん

その言葉に少年は嬉しそうに頷いた。

ヒロト

ただいま!

指名手配犯と謎の少年の奇妙な共同生活は、こうして始まったのである。

輝きを失っていくこの世界で貴方を愛したい

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コメント

3

ユーザー

え!!言葉選び上手すぎて尊敬する🫶🏻💕 続きが楽しみ♪

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