TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

宮野は、昔から変わった奴だった。

口癖は「いやーん」「これ可愛い」「ねぇねぇ」など。

体育の授業でも、走り方は女みたいで、

クラスメイトからは「オトコ女」「オネェ」と言われ、からかわれていた。

でも、本人はあまり気にしていなかった。

宮野

言わせておけばいいのよ

宮野

アタシは、自分らしく生きているだけよ

…俺は、たまたま宮野と席が隣だったから友達になっただけで、

共通の趣味も無ければ、

委員会だって違う。

あまり接点はなかったはずなのに、

気がついたら、いつも一緒にいた。

高校三年生

一学期

鉄矢

宮野、進路希望票出した?

宮野

ん〜?

宮野

まだ

鉄矢

このクラスで進路希望票、出してないの俺とお前だけらしい

宮野

いや〜ん!

宮野とは高校も同じだったし、

同じクラスになることが多かったから、

しょっちゅう遊んだり、

一緒に買い物に行ったりした。

鉄矢

…で、なんて書く?

宮野

宮野

そうねぇ

宮野

アタシは進学しないから、就職って書こうかしらね

鉄矢

宮野、本当にいいのか?

鉄矢

推薦だって来てただろ?推薦なら、学費も安くなるのに、勿体ないんじゃ…

宮野

いいのよ

宮野

アタシは

鉄矢

…そうか

宮野

それより!

宮野

鉄矢はどうするのよ

鉄矢

俺は、大学進学するよ

宮野

ま、アンタらしいわね

鉄矢

そして将来は…接着剤の会社に入る!

宮野

何よそれ〜

宮野

ウケる〜!

…宮野は、昔から言葉とは裏腹に悩んでいることが多く、

一人の時は、よく暗い顔をしているようだった。

俺も担任から教えてもらわなければ、知らなかった事実だ。

鉄矢

…なぁ、宮野

宮野

何?改まって

鉄矢

何度も言うけど、もしお前が同性愛者でも、俺は気にしないからな

鉄矢

…もし、悩みがあるなら言ってくれ

宮野

宮野

残念、アタシは同性愛者じゃないのよ

鉄矢

…そうか

宮野

最近、思いつめた顔をしていたのはね、

鉄矢

うん

宮野

宮野

糞詰まりで苦しかったからよ!

鉄矢

は!?

宮野

ダイエットしたらウンチ出なくなって

宮野

大変だったのよ?!

鉄矢

何だそれ!

鉄矢

心配して損した!

宮野

も〜鉄矢ったら

宮野

心配症なんだから★

鉄矢

ほら、書き終わったんなら、職員室に進路希望票を出しに行くぞ

宮野

はーい

まだ、受け入れられない。

鉄矢

………………………………

お前がいない生活を送ることが

こんなにも苦痛だなんて、知らなかった。

いままで近くにいすぎて、わからなかった。

宮野の存在が 俺の中でこんなに大きくなっていたなんてー

宮野が死んだのは

8月31日だった。

最高気温が40度を超えた日で、

こんな日にわざわざ学校に行くなんて、

宮野は阿呆だな、って思った。

「暑いから、やめた。」

「面倒くさいから中止!」

そんな感情が彼にあったなら、

その日 彼が学校で自殺することはなかっただろう。

鉄矢

何、やってんだよ

暑いのに、

体の震えが止まらなかった。

怒りと、悲しみで

俺まで、どうにかなりそうだった。

鉄矢

宮野の

鉄矢

馬鹿野郎…!

宮野の自殺の原因を考えた。

1.家庭環境

宮野の家は、母親が3回結婚し、2回離婚していた。

母親が再婚するたびに、名字が変わり、母親が離婚する度に「宮野」姓に戻った。

小学生の頃は、からかう子供たちもいたが、

中学生になってからは、家庭の事情に立ち入るような奴、デリカシーのない奴は周りから消えていた。

…ただ、宮野が苦労していたのは間違いない。

鉄矢

宮野の母親に、話を聞きに行こう

2.進路

宮野はいわゆる「天才」だった。

授業を聞いていなくても、テストは毎回高得点。

本人が自ら努力しなくても、英語や中国語をマスターしていた。

宮野

何かね、ラジオ英会話?っていうの聞いてたら、覚えられたの

宮野

一人で海外旅行できる位には、喋れるわよ

鉄矢

すげーなー…

鉄矢

俺、英語なんてエロ関連しか頭に入らないよ

宮野

wwwwwww

宮野

鉄矢は進学組なんだからもっと勉強しなさいよ!

宮野

エロも大事だけどね

…本当は、宮野は大学に行きたかったのではないか?

家にお金がないから、

あるいは、新しい父親に気を使って、進学を諦めたのではないか…?

鉄矢

…宮野の新しい父親にも、話を聞く必要があるな

3.アルバイト

宮野は放課後に飲食店でアルバイトをしていた。

そこの仕事が激務で、勤務中に怪我をすることがあると本人から聞いたことがある。

鉄矢

宮野さ〜

宮野

何よ

鉄矢

バイト先、変えた方がいいんじゃない?

宮野

…大丈夫よ

鉄矢

鉄矢

…もしかして

鉄矢

バイト先に好きな奴がいるとか?!

宮野

馬鹿ね〜鉄矢は

鉄矢

は?!

宮野

そんな人、いないわよ

その時は、寂しそうに笑っていたけれど、

俺は宮野のバイト先に行ったことがないから何も分からない。

鉄矢

あんなに擦り傷作ってたから…

鉄矢

過酷だったはずだ。

鉄矢

鉄矢

宮野が働いていたバイト先にも、

鉄矢

行ってみる必要があるな

調べたいことは合計で3つあったが、

まずは、宮野の家に向かうことにした。

鉄矢

バイト先も、どこだか分からないし…

鉄矢

宮野の母親に、聞くしかないしな

俺はまず、宮野の家に行った。

宮野 母

鉄矢君、久しぶりね

線香を上げ、

まじまじと宮野の仏壇を見る。

鉄矢

…あんなに大きな体だったのに、

鉄矢

何でこんなに、小さくなっちゃったんだよ…?

正直、今でも実感は沸かない。

俺は夢を見ているだけで、

本当は 宮野は生きているのではないか…?

一人でフラリと

海外旅行に、行ったのではないか?

あんなに、英語が得意だったんだから。

習ってない中国語だって、俺には聞き取れなかったけど、ペラペラだったんだから…!

宮野 母

…鉄矢君

宮野 母

来てくれて、本当にありがとう

宮野の母親の表情を見ると、

ああ こっちが現実なんだ…

そう、思わざるを得なかった。

鉄矢

宮野は…いや

鉄矢

隆盛(タカモリ)は、

鉄矢

一体何に悩んでいたのか

鉄矢

一度も、俺に相談してくれませんでした

鉄矢

何回質問しても、

鉄矢

はぐらかすんです。

鉄矢

俺、アイツの本当の友達じゃなかったのかな…

宮野 母

そんなことないよ!

鉄矢

…え?

宮野 母

宮野 母

まだ、誰にも見せたことがないんだけど

宮野 母

あなたに、

宮野 母

宮野 母

あなただけには

宮野 母

これを見てほしいの

鉄矢

ノート…?

宮野 母

あの子 日記つけていたみたいなの

宮野 母

もう、ずっと前から。

宮野 母

宮野 母

…そこに、真実が書いてあるわ

鉄矢

(ここに、宮野の自殺の、本当の理由が…!)

急に俺は 怖くなってしまった。

もし、自殺の原因が

俺の存在だったら…?

宮野 母

鉄矢君

宮野 母

お願い、どうか

宮野 母

あなたに、読んでほしいの

鉄矢

鉄矢

…分かりました

鉄矢

一人で、読ませてもらっていいですか?

宮野 母

もちろん

宮野 母

隆盛の部屋、使ってちょうだい

鉄矢

ははっ、なつかしい

鉄矢

昔とあんまり変わってないな、宮野の部屋

ここで、沢山話をした。

宮野の、新しい父親のこと、

名字が変わっていじめられること、

部活で使う道具の費用が捻出できなくて宮野は部活を辞めたこと…。

俺に好きな人ができたこと、

俺がふられたこと。

鉄矢

…本当、俺の人生に一番関わってたんだぞ

鉄矢

宮野は

これからも、ずっと一緒にいるつもりだった

それが自然なことで、当たり前だと思っていたからだ。

鉄矢

…宮野、日記読ませてもらう

意を決して、

日記を開いた。

✗月●日

今日は鉄矢と宿題をした。俺はつい宿題をやり忘れるから、鉄矢がいると、提出物を出す習慣がつきそうだ。

鉄矢

これ、3年前の出来事か…

鉄矢

こんなに長い間、記録残してたんだな…

✗月▲日

ふと、保健体育の教科書を開く。

“男女の体の違い“

ドキッとした。

そもそも、男でも女でもない俺はどちらなんだろうか?

自分の体は男だけど、

中身は女…と言い切れない部分もある

文章にできない、気持ち悪さが残る

鉄矢

宮野、やっぱり性自認の悩みがあったんだ

鉄矢

同性愛者じゃない、って言い切ってたけど…

●月◆日

深夜のラジオで、とある歌が流れた

歌詞は、こうだ

“自分が男とか女とか“

“そんなカテゴライズ、どうでもいいんだ”

“自分らしく 生きていきたい!”

ーああ、これは、俺のことを歌っている!

こんなふうに思う人が、世の中には俺以外にもいたんだと、嬉しくなった

鉄矢

…どういうことだ?

●月✗日

この前聞いた歌をヒントにスマホで調べてみたら、

「Xジェンダー」という言葉がヒットした。

どうやら、性自認が曖昧な人、

性別が男になったり、女になったり揺れ動く人、

男女どちらの感覚にもあてはまらない人などを…そう呼ぶらしい。

鉄矢

知らなかった

鉄矢

俺、全然こんなこと知らなかった…

●月■日

担任から、将来どうするか細かく聞かれる。正直、うざったい。

俺は自分が何者かわからないのに、

将来なんか、想像つく訳ない。

キャビンアテンダントになってみたいし、

ラーメン屋の店長も、やってみたい。

ライブハウスのオーナーも、いいと思っている。

でも、今の担任は俺の本気の回答を冗談に思っているらしく、信じてもらえない。

鉄矢

…宮野

鉄矢

そっか、あの時担任と険悪だったのは

鉄矢

これだったんだな…

鉄矢

あれ、このページから日記の記録がなくなってる

必ず毎日書かれていたのに、そこから先の記載は無かった。

鉄矢

俺、本当に宮野のこと全然

鉄矢

理解してなかったな…

コンコン

宮野 母

鉄矢君、お茶入れたから読み終わったら一緒に飲みましょう?

鉄矢

はい、今ちょうど

鉄矢

読み終わったところです…

宮野 母

宮野 母

全部読んでくれてありがとう

宮野 母

…下の部屋に行きましょ

日記を閉じた、その時だった。

鉄矢

あれっ、しおり…?

しおりには手書きで、コメントが書かれていた。

宮野 母

このしおり、

宮野 母

アルバイト先の店長に、貰ったって話してたわ…

そこには こう書かれていた

性別なんて、あっても無くても関係ない

あなたは隆盛として 生きればいい。

私が見られなかった“性別に囚われなくなった世界”を、

あなたは自身の目で 見られるといいわね

鉄矢

この、店長っていうのは…

宮野 母

2年前にね、亡くなったの

宮野 母

病気が見つかったときには、すでに治療が難しい状態だったみたいで…

鉄矢

そういえば、2年前って

宮野 母

…一時的に、隆盛が不登校だった時期ね。

宮野 母

あまりにも落ち込んでたから、精神科にも連れて行ったんだけど、

宮野 母

勝手に薬、捨てていたみたいで…

鉄矢

そうだったんですか

宮野 母

私がもっと、隆盛のこと大事にしたら良かった

本当に俺は 宮野のことを何も知らない。

リビング

宮野 母

ごめんね、びっくりしたでしょう?

鉄矢

いえ

宮野 母

私も、隆盛と一緒に暮らしていたはずなのに、

宮野 母

あの日記を見たら、まるで違う国の住人みたいに思ってしまったわ

宮野 母

…あの子が、あんなに悩んでいるなんて

宮野 母

全然、気づくことができなかった。母親なのに…

鉄矢

…俺もです

鉄矢

毎日、一緒に通学して…

鉄矢

何回も同じクラスになったのに、全然気づけなかった…

鉄矢

鉄矢

生きにくかったでしょうね

鉄矢

まず、トイレ

鉄矢

学校のトイレは、男女で別れてる

宮野 母

家では一つだけど、

宮野 母

学校だと、嫌でも性別を意識させられるわね

鉄矢

…体育の授業も、男女別れます

宮野 母

そうね…

鉄矢

悔しい…っ!

宮野 母

鉄矢君?!

鉄矢

俺、あいつに同性愛者か聞いたことがあるんですけど、

鉄矢

「同性愛者ではない」って回答されたんです

鉄矢

その時に、もう少し、踏み込んで話聞いておいたら良かった…

宮野 母

…鉄矢君、ありがとう

宮野 母

こんなに隆盛のこと、考えてくれて

宮野 母

…実はね、隆盛は家では毎回新しい父親…私の夫に暴力を振るっていたの

鉄矢

え?!

アイツが一時期 擦り傷だらけだったのは

それが理由だったのか…

宮野 母

最初の父親は、男らしく生きるように隆盛を育てようとしたわ

宮野 母

そのせいで段々、隆盛と険悪になっていった…

鉄矢

…お母さんも、大変でしたね

宮野 母

最初の夫はモラハラ気味だったから別れたんだけど、

宮野 母

二人目の夫は、もっと最悪だった

宮野 母

…彼は医者だったけど、

宮野 母

余計にあの子を、苦しませてしまった

宮野 母

多様性を、認めない人だったから

鉄矢

そうだったんですか

宮野 母

宮野 母

3人目の夫は…実は…

鉄矢

宮野 母

…あの子がアルバイトしていた店の、店長なの

鉄矢

そうだったんですか?!

宮野 母

はじめて、あの子が勤めてるお店に私が会いに行った時

宮野 母

あの子、人生で一番輝いていたの!

宮野 母

あそこの店長さんと、本当の親子ならいいのに、って何回も隆盛が言うから、

宮野 母

店長さんに、その話をしたの。

「俺、実はもうすぐ死ぬんです」

「店は、他に継いでくれる奴が見つかったんだけど、」

「身寄りがないから、家とか、土地とか、誰に譲るか決めてなかったんだよね…」

「俺の私物を、できることなら隆盛に、全てあげたい、余命宣告を受けた時から、ずっとそう思ってたんだ」

「流石に、エゴかなぁ」

宮野 母

私は、色んな意味で驚いた…

宮野 母

まず、外の世界で鉄矢君以外の人間を、隆盛が信頼していたこと

宮野 母

それから、そんなに隆盛のことを考えてくれる人がいてくれたこと。

宮野 母

彼らが残された時間、少しでも一緒にいられるように

宮野 母

隆盛としっかり話し合いをして、私は再婚したの

鉄矢

そうだったんですね…

今まで、宮野からは新しいお父さんの話はあまり聞かなかったが、

アルバイト先の店長の話は沢山してくれた。

鉄矢

バイトの話、嬉しそうにしていたし、

鉄矢

「店長が〜」って楽しそうに話すの、何回も聞かされました。

鉄矢

その選択は、間違ってなかったと思います

宮野、今まで理解してあげられなくてごめん。

大切な人を失って、辛かったんだな。

性自認のことも、きっと幼少期から悩んでいたはずだ。

鉄矢

沢山の悩みを背負ってたんだな

鉄矢

あいつは

宮野の母親から、帰り際に聞いた話によると、

宮野は、亡くなる前に、双極性障害だったそうだ。

双極性障害は、寛容したときに自死してしまうことがあるらしい。

回復の兆しが見えてきて、行動を起こす元気がある時、一番危ないそうだ。

宮野 母

…まだ、心の整理はつかないけど、私は考えることをやめない。

宮野 母

きっと、性自認について悩む人は世の中に沢山いるはず…

宮野 母

それこそ、目に見えないだけで

鉄矢

そう、ですよね

鉄矢

知らないだけで、目で見ても分からないだけで、

鉄矢

実際に、絶対に存在していると思います

鉄矢

鉄矢

…透明人間、みたいだ

宮野 母

そうなの

宮野 母

声を上げられない“透明な子”たちに、

宮野 母

「助けて」と言える環境を作りたい

宮野 母

だから、私は辛いことから逃げずに立ち向かうことにしたの

鉄矢

…俺も、手伝いたい

鉄矢

まずは、沢山勉強しなきゃならないけど…

宮野、俺はまだそっちには逝かないよ。

宮野みたいな存在を、一人でも減らしたいから。

でも、いずれそっちで再会することができるだろうから、

その時には、互いに腹割って話そう、

今度こそ。

鉄矢

宮野、今でも俺のそばにいるか?

鉄矢

いるんなら、見ててくれよ

鉄矢

俺が正しい行動ができているか

鉄矢

…もし、違ってたら

鉄矢

夢の中に出てきて、教えてくれないかな?

いつだって

俺には、お前が

必要なんだからさ。

この作品はいかがでしたか?

217

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚