抜糸も済んで退院したのは、それから一週間後のことだった。
背中を引き攣らせる痛みにときどき違和感を覚えながら
久し振りの外気を胸いっぱいに吸い込む。
久留間悟
久留間悟
久留間悟
久留間悟
普段なら絶対に出ない言葉を口にし、軽く足下を跳ねさせる
途端、背中を走り抜けた微弱電流のような痛みに
久留間は小さく声を上げた
年齢のせいもあるのか、塞がったはずの傷痕はまだ痛みを訴える
この痛みが、例えば色気のある経緯からついたものなら
疼痛にも頬が緩むのにと、言っても詮ない仮定に唇を尖らせ
ぶらぶらと帰路についた
昨晩ダメ元で渋谷に迎えを頼んでみたが
平日の業務時間中、しかも数少ない社員が減ってる状況で
歩いて帰宅できる状態の人間を甘やかす余裕はないと
きっぱりと断られてしまっている
せめてもう少し優しい物言いならと肩を落とした時
すでに冬休みに突入したらしい小学生達が
わいわいと群れているのに目を留めた
久留間悟
好奇心を刺激され、後ろからそろりと覗き込む
輪の中心にいる少年の手には、小さなコウモリが蹲っていた
久留間悟
思わず声を漏らすと、全員の顔が久留間を振り返る
小学生1
小学生2
小学生3
即座に警戒色を強めて騒ぎ始めた子供達の姿に
今のご時世、小学生に不用意に近付くのは失敗だったかと頭を掻く
それでもここで逃げては最悪、今日の夕方にでも
不審者情報として久留間の容姿が通達されるだろう事を想像し
あえて困ったように眉尻を下げて手を合わせた
久留間悟
久留間悟
できるだけ表情を大げさに変えながら話しかければ
少し警戒が解けたのか、数人の子供が顔を見合わせる
やがて円陣を組むように何事か相談した後
中心にいた少年がコウモリを手にしたまま進み出てきた。
小学生2
久留間悟
久留間悟
久留間悟
小学生3
小学生1
久留間悟
久留間悟
久留間悟
久留間悟
ふわふわとした頭を指先で撫でてやると、つぶらな目が静かに開く
小学生が触れるような作品では恐ろしいイメージがあるはずだが
それに反する愛らしさにわぁと歓声が上がった
小学生1
小学生2
小学生2
久留間悟
久留間悟
久留間悟
久留間悟
久留間悟
小学生3
久留間悟
久留間悟
久留間悟
小学生2
久留間悟
驚いた顔でそう叫ぶと、
言い方が気に入ったのかケタケタと笑い声が起こった
小学生2
小学生2
小学生2
久留間悟
久留間悟
おっちゃんという発言にだけは釘を刺し、ポケットの中で
わだかまっていた皺だらけのハンカチでコウモリを包む
小学生3
小学生1
久留間悟
久留間悟
小学生2
小学生2
小学生2
久留間悟
久留間悟
反論すれば、なおさらおっちゃんおっちゃんと声をあげて去って行く
どうやら大人をからかって遊ぶのが楽しい時期らしいと肩を竦めると
全員どこかで足の小指をぶつけるがいいと小さく笑った
???
???
久留間悟
久留間悟
久留間悟
当たり前のように返事をした後で
見知らぬ声と気付き大きくまばたく
周囲には行き交う人間も少なく
間近で久留間に声を掛けてくるような人物は見当たらなかった
恐る恐る手の中を見る
小さなコウモリはにんまりと愛らしい目を細めていた
???
???
???
高慢にも聞こえるその声は、コウモリの口元から発されている
彼女が弱っているためかそれとも
自身が本調子でないために見逃してしまったか
どちらにせよ非常に微弱な人外の気配に気付かなかったことを後悔し
久留間は片頬をひくつかせた
久留間悟
久留間悟
???
???
???
久留間悟
久留間悟
久留間悟
サキュバス
サキュバス
サキュバス
サキュバス
久留間悟
淫魔の食事が精気だというのは、常識だとうなだれる
要は相手が干からびるまで搾り取ったんだろうと吐き落とせば
コウモリはコロコロと鈴のような声で嗤った。
サキュバス
サキュバス
サキュバス
サキュバス
久留間悟
久留間悟
サキュバス
久留間悟
サキュバス
愛らしい仕草に、苦々しい顔で仕方ないと呟く
久留間悟
久留間悟
久留間悟
久留間悟
サキュバス
サキュバス
久留間悟
久留間悟
本来物を入れるべきでない場所に挿入される痛みや不快感を
久留間は知らない。
けれど学生時代の未熟な性交渉で
痛みなんてどうでもいいから早くお前のモノにしろと
急かされた覚えならある。
当時は有頂天且つ必死の思いで勢いづいていたものの
今考えれば慣らす時間も足りないし
挿入時の声は明らかに痛みを訴えていた
相手の顔は蒼白で涙が止まらず
せめて悲鳴をあげまいと歯を食いしばっていたのを覚えている
反省点ばかりが思い起こされるものの
痛みに耐える姿を見下ろして、興奮してしまったのも否めない
まだ髪が黒かった頃を回想し、思わず緩んだ頬を慌てて打った
サキュバス
久留間悟
久留間悟
久留間悟
久留間悟
ささやかな懇願の言葉が終わるよりも早く
コウモリの小さな牙が指先の皮膚にぷつりと刺さる
久留間が悲鳴をあげはしたものの
恐らく皮一枚裂けただけらしいそこからは
血球が風船のように膨らんだだけだった
サキュバス
サキュバス
サキュバス
久留間悟
久留間悟
小さな舌がピチピチと音を立てて血を舐めつくし
毛むくじゃらの顔が満足したように笑みを見せる
小動物のこういう顔は否応なく癒やされてしまうと恍惚とした時
コウモリは羽ばたきもせずふわりと宙へ浮き上がった
コメント
1件
3話は明日読ませていただきます!