🧡side
学校が休みの5月のある日、僕は1人で前から気になっていた カフェに来ていた。
理由は勉強に集中するため。比較的、学力より技術やセンスを 求められる美容の専門学校に進学するとは言えど、まず高校を ちゃんと卒業せなあかんし、その先の専門的な知識もある程度 勉強しておかないと。
大西流星
大ちゃんみたいにブラックコーヒー飲みたいと思って、 ドキドキしながら頼んでみた。コーヒーが乗ったトレーを持ち、 窓際の席に座る。
念入りに冷ましてゆっくりと口にしてみると、 暑いし苦いし美味しくない。やっぱりミルクも砂糖も 貰ってこようと席を立つと、すぐ近くにいた 店員さんと目が合った。
店員
大西流星
店員
大西流星
なんで急に話しかけてくるのか分からなくて 上手く返事できなかったし、挙動不審になってしまった...
そんな僕を見て、店員さんは優しく笑う。 僕は一気に顔が熱くなったのを感じた。
店員
大西流星
店員
高校3年生に上がっても、僕は前と変わらずドーナツ屋での アルバイトを続けていた。急に話しかけてきて何かと思ったら、 まさかお客さんだったとは...
大西流星
店員
困ったように笑うその人の雰囲気が、なんとなく大ちゃんに 似てる気がした。でも関西弁やなくて標準語を話すから、 大ちゃんに似てるのに大ちゃんじゃないんやなって ちょっぴりガッカリした。その人からしたら、 とばっちりみたいなもんやけど。
ごゆっくりどうぞと爽やかに会釈して、店員さんは 僕のテーブルから離れて行った。
大西流星
心の中で呟く。 似てるってだけで大ちゃん本人じゃないなんて 分かってはいるけど、なんとなくその人のことが気になって、 チラチラと頻繁に目だけで追ってしまっていた。
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あの日から、ちょこちょこ休みの日は お店に通うようになっていた。
我ながら馬鹿馬鹿しいとは思うけど、本人じゃなくても 似てる人を見るとドキッとするし、なんか大ちゃんが近くにいる 感覚で勉強も捗るし...
大西流星
何度か悩みはしたものの、結局大ちゃんにも謙杜たちにも言わず、 こっそり自分だけの楽しみにしていた。
店員
大西流星
店員
店員さんとはあっという間に仲良くなって、お店に行く度 軽くお喋りをするようになっていた。
お名前は大門(だいもん)さん。お名前を聞いたとき、苗字が 大ちゃんやって内心テンション上がってた。 年齢は僕より6歳上で、もう社会人らしい。それと、1年前に 東京から出てきたばかりやから関西弁は使わないみたいだ。
大門
大西流星
僕のこだわりの飲み方も好きなメニューも分かってくれてるし、 何よりお店の雰囲気も居心地が良い。
大西流星
大門
大ちゃんに似た柔らかい笑顔を向けられると 何も言えなくなってしまって、僕は照れながら小さく会釈して いつもの窓際の席に座った。
紙のカップに、“無理せず頑張れ!”ってメッセージを見つけて、 思わずカウンターの方に顔を向けると、目が合った大門さんが 優しく微笑む。その姿にドキッとしてしまったことに気がついた。
大西流星
そのとき、テーブルの上のスマホが振動した。 見ると、大ちゃんからのメッセージだった。
西畑大吾
西畑大吾
心の内を見透かされたようやった。慌ててトークを開いて 大ちゃんに返信を送る。
大西流星
大西流星
西畑大吾
嘘ついちゃった... 勉強なんてしてへんし、返信も忘れてたのに 正直に言えへんかった...
大西流星
今気がついた。僕、大ちゃんから貰った指輪付けるの 忘れて来ちゃった。
大西流星
クッキーもコーヒーも全く美味しく感じられなくて、 勉強も集中できずに30分足らずで僕は席を立った。 飲み終わったカップやクッキーの袋を乗せたトレーを 返却口に戻しに行くと、大門さんに声をかけられる。
大門
大西流星
大門
大西流星
ご馳走様でした、と会釈して僕はお店を後にした。
大門さんには申し訳ないけど、しばらくはあのお店には 寄らないようにしておこうと心に決めた。
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