魚目
……

蜂塚
……

静まり返った夜の住宅街に
遙と宙、二人の足音だけが響いている。
蜂塚
…っあの

魚目
はい…

蜂塚
ごめんっ

魚目
え…?

蜂塚
僕、遙さんのこと、傷つけた…

蜂塚
本当はね、兄貴の代わりでも抱かれて嬉しかったんだよ

蜂塚
でも、ダメだった…欲が出ちゃって

蜂塚
代わりじゃなくて、僕を見てほしいって

蜂塚
やっぱ辛くて…やっと僕のこと見てくれたのに

蜂塚
もう傷つきたくなくて遙さんの好意から目を背けちゃった

魚目
宙くん…

蜂塚
遙さんを見てなきゃいけないのに

蜂塚
従者としても

蜂塚
一人の男の人としても好きなんだ…

蜂塚
ごめん、遙さん…僕…

蜂塚
僕、どうしよう…どうしたら…

傷付くことへの恐怖心や
それでも好きでいたい気持ち、
好きになってほしい欲求が
ない交ぜになって
涙として頬を流れていく。
蜂塚
っ……

蜂塚
は、遙さ…?

魚目
ごめんなさい

魚目
たくさん傷つけて

魚目
君に謝らせて、自分の感情を自ら吐露させるまで

魚目
悩ませてしまって…

蜂塚
……

蜂塚
……僕のこと、好き?

魚目
はい

蜂塚
いつから?

魚目
……初めて抱いた時から、でしょうか

魚目
本当は、ずっと前から君の気持ちに気づいてたし

魚目
愛されていることが嬉しかったんです

魚目
でも、ずっと過去に踏ん切りがつけなかった

魚目
そんなまま、酒に溺れて手を出してしまって

魚目
すごく後悔しました

魚目
君を領さんに重ねていると嘘までついて…

魚目
君の気持ちにあぐらをかいて、深く傷つけた

魚目
だから、本当は僕なんかが君の相手には相応しくないと…

魚目
そう、思って…

蜂塚
そんなこと……

魚目
……でも、歯止めが効かないことに気がついてしまったんです

蜂塚
…うん

魚目
ごめんなさい、宙くん

魚目
君のことが好きです

魚目
どうしようもなく

蜂塚
うん

魚目
私のことを、許してくれますか…?

魚目
私のことを、まだ好きでいてくれますか…?

蜂塚
うん…

魚目
お願いします…私のことを、好きになって

蜂塚
…うん

魚目
誰の代わりでなく、宙くんとして

蜂塚
うん…っ

魚目
宙くん。大好きです

蜂塚
僕も…っ僕も、遙さんが好き

蜂塚
大好きっ

蜂塚
僕のことずっと好きでいて…?

蜂塚
僕と付き合って

蜂塚
僕だけの遙さんになって…!

魚目
…よろこんで

魚目
だからもう、泣かないで

蜂塚
う"〜…だってぇ…

魚目
ふふ…涙と鼻水でぐしゃぐしゃですね

蜂塚
うぅ…見ないでよ…

魚目
どうしてです?こんなに可愛いのに

蜂塚
かわっ…

蜂塚
は、反則!それ反則〜!

魚目
(くすくす)

魚目
涙、止まりましたね

蜂塚
う…だって…

魚目
宙くん、顔を上げて

蜂塚
ん…?

遥はスッと優しく右頬に手を添えてくる。
宙がパチリと瞬きをするその直後、
柔らかな感触が唇に落とされた。
蜂塚
ンっ…

蜂塚
……え

蜂塚
なっ

魚目
さて、帰りましょうか

蜂塚
えっちょ、待って

蜂塚
待ってよ、ねぇ!

魚目
はい?

蜂塚
だって今っ…

魚目
もう恋人なんですから…キスくらいは普通でしょう?

蜂塚
〜っ…そう、だけど!

魚目
あ、宙くんのお家と私のお家どちらがいいですか?

蜂塚
遙さんの家!

蜂塚
っじゃなくて!

魚目
分かりました

魚目
行きましょう

蜂塚
(サラッと恋人繋ぎだし…!)

蜂塚
もぉ〜!遙さぁん!

魚目
ふふふ

先程より軽い足取りの足音が二人分、
住宅街を抜けていった…。