12月7日
カラン
晴人
いらっしゃいませ〰!
晶子
晴人くん、こんにちは
晴人
晶子さん、いらっしゃいませ
晴人
いつもの用意しますね
晶子
待って
晴人
…はい?
晶子
晶子
今日は、いつもと違うメニューを頼みたいの
晴人
…じゃあ、メニューお見せします。新メニュー、ありますから
晶子
あ、あのね
晶子
テレビで見た、クリスマスチキンが気になってて………
晶子
女性でチキン1皿頼んだら、多いかしら……?
晴人
そうですね、晶子さんにはきっと多いです。
晴人
でもら余った場合は、持ち帰り容器に入れられます。
晶子
そっか、それなら頼んでみようかな
晴人
…ニュースで取り上げられたの、見てくれたんですね。
晶子
そう、たまたまテレビつけたら晴人くんが映ってて、
晶子
びっくりしちゃった。
晶子
相変わらず受け答えしっかりしてて、格好よかったよ
晴人
そんなことないです
晴人
じゃあ、チキン用意してきます
晶子
お願いね
晴人
大変、お待たせしました
晶子
わぁ、おいしそう
クリスマスに向けた 家族でシェアできる大きさの 焼き立てチキン。
晶子
私、夫が亡くなってから、初めてチキン食べるなぁ…
晶子
いつも、ここでは同じメニューだけ食べてたし、
晶子
チキンとか、おせちとか、お祝いっぽいものは中々食べられなかったんだけど…。
晴人
晶子さん………
晶子
やっと、食べたいって思えるようになったのよね
晴人
(無理はしないでほしいな………)
晶子
冷める前に、いただきます
晶子
晶子
おいしい
晴人
…それは良かった
晶子
こんなにおいしい物が、あったんだね………
晶子
この味
晶子
忘れてた
ポロリ
晶子
あれ…っ
晴人
!
晶子
嫌だな、ごめんね
晶子
なんだか…おいしい、って思ったら
晴人
晶子
涙が出てきちゃって…
晴人
晶子さん、こちらへ
晶子
晶子
え…?
晶子
ここは………?
晴人
裏方だから、あまり整頓されていなくて、ごめんなさい
本来、従業員以外は立ち入りが許されないスペースだ。
晴人
ここなら、人目を気にせず、ゆっくりできます。
晶子
でも、私部外者だし、
晶子
こんな場所に入っちゃダメよね
晴人
晴人
部外者なんかじゃ、ないです
晴人
僕にとって、晶子さんは大切な人ですよ
晶子
晶子
晴人くん…
晴人
ちょうど、パートさんが出勤してくれる時間だし、
晴人
僕も休憩しようっと。
晶子
………
もし、島店長が晶子さんの事情を知っていたら、きっと何食わぬ顔でバックヤードに通しただろう。 そう思ったから、彼女を通しただけだ。
晴人
今日は特別に、僕がおごります
晴人
飲み物、何がいいですか?
晶子
…自分で払うけど、
晶子
ホットのアメリカンコーヒーを下さい
晴人
かしこまりました
晴人
ドリンクバーから取ってきます
晶子
…ありがとう
5分後
晴人
少しは、落ち着きました?
晶子
ええ、もう大丈夫
晶子
ごめんなさい。私、あなたの前では、いつも弱くなってしまう…
晶子
年上なのに、恥ずかしいわ
晴人
…いいんじゃないですか?弱くても
晶子
え?
晴人
強がって無理するより、全然いいです。
晴人
晴人
俺の母親は、無理しすぎて病気になったし、早く死んでしまったから、
晴人
そういう人が世の中から一人でも減ったらいいな、って思って生きてます
晶子
晴人くん…
晴人
年齢も、関係ないです
晴人
自分に素直に生きることのほうが大事ですから
晶子
(確かに、そうかもしれない)
晶子
(私、晴人くんには助けてもらってばかり)
晴人
あっ、もうこんな時間だ。
晴人
俺、休憩終わりなんですけど、晶子さんどうします?
晶子
晶子
落ち着いたから、私も帰るわ
晴人
わかりました
晴人
チキン、持ち帰り容器に入れますね。
晶子
ありがとう
晴人
仏壇に、備えてあげてください。
晴人
きっと旦那さん、喜びますよ
晶子
そうね
晶子
そうするわ
晶子
ただいま
もちろん、返事をしてくれる人はいないけれど。
防犯上、室内に入る時は必ず「ただいま」とつぶやいている。
晶子
ミナトさん、今日はお土産があるの。
晶子
はい、ちょっと気が早いけど、クリスマスチキンよ
晶子
私ね、今まであのお店ではレモンクリームパスタと、ガーリックトーストと、アイスレモンティーだけしか注文しなかったでしょ?
晶子
晶子
それね、もう、やめたの。
晶子
あなたが好きだったものを今までは選んできたけれど、これからは私がどうしたいか決めることにしたの。
晶子
あなたが嫌いになった訳じゃないから、安心してね。
時刻は夜9時だ。
晶子
(…そろそろお風呂洗わなきゃ。作りおきの惣菜も切れたし、ひじき、煮とこう)
晴人
つ、疲れた…!
時刻は夜11時。
晴人
今日もよく働いたな…
晴人
寒くなってきたから星もはっきり見える。キレイだ
晴人
(今日はびっくりした。晶子さんがいつもと違うメニューを注文したこと、涙を流したこと…)
晴人
(晶子さんも苦労してるんだよな、旦那さん亡くなって、3年半以上…か)
晴人
何か俺にできること、ないのかな
晴人
(え?)
晴人
(俺、もしかして)
晴人
(晶子さんのこと、そういう目で見てたのか…?!)
これは、 恋愛感情の 好き、 なのだろうか…?
晴人
(いや、いまいち自分の気持ちが、よく分からん)
晴人
とりあえず今日は早く帰って寝なきゃ。明日も仕事あるし
つ づ く